スマートデバイス三国時代、ハードウェアメーカーが生き抜く道はどこか:本田雅一のエンベデッドコラム(16)(1/3 ページ)
スマートフォン/タブレット端末が引き起こした変化の波は、これまでの製品作りのルールを大きく変えようとしている。Apple、Google、Microsoftの製品戦略から、将来、ハードウェアメーカーが担うべき役割を模索する。
――過去数年、デジタル機器分野は、かつてないほどの大きな波にさらされてきた。スマートフォンの時代が到来し、デジタル機器の市場は一変。表向きには、携帯電話端末の“スマート化”によって、「従来型の携帯電話端末が駆逐された」ということだが、実際にはもっと事は複雑だ。
歴史的に見ると、スマートフォンは携帯電話端末の延長線上にある製品ではなく、パーソナルコンピュータの発展した姿だといえる。まず、パーソナルコンピュータのうち、個人に集まる情報、個人がその場・そのときに必要となる情報を簡潔に扱えるようにする機能が、“PDA(Personal Digital Assistant)”という形で製品化された。
しかし、PDAだけでは、顧客価値の創造という面で完成した“商品”とはならなかった。PDAのユーザーは、最新の情報を得るためにネットワークサービスと連動することを欲し、その本質的な欲求からPDAで通信機能が使えるようになった。それこそが、後のスマートフォンの誕生を促したといえる。
従来型の携帯電話端末、すなわちフィーチャーフォン、いや日本の場合は“ガラケー”という言葉で代表される、高機能で日本の社会インフラにピッタリと寄り添った使いやすい携帯電話端末は、“電話機”として現在でも優れた製品だといえる。しかし、PDAが通信機能を備え、スマートフォンとなり、電話機能を内包したとき、消費者は“電話”よりも、“インターネット”をより重要な目的として認識するようになった。
つまり、ガラケーは、決して「iPhone」という製品に負けたのではなく、汎用コンピュータ機器+フロントエンドアプリ+サービスで構成される“スマート化”の流れの中で、商品カテゴリそのものがのみ込まれてしまったのだ(もっとも、将来は揺り戻しもあるかもしれない)。
このことは、単純に携帯電話端末市場の変化だけではなく、あらゆるデジタル機器、ネットワークサービスのビジネス環境が変わり、それによってデジタル機器で扱われる人気コンテンツのトレンドも変わってきていることからも分かる。
この流れは、当然ながら“パーソナルコンピューティング”の概念にも変化をもたらした。「iPad」が登場したときに予見された通り、パーソナルコンピューティングは、タブレット端末を中心としたものへと変化しようとしている。そして、このiPadの登場で本格化したタブレット端末市場の勢いは、Googleへ伝搬し、さらにMicrosoftがWindowsの基本コンセプトを見直し“再創造した”という「Windows 8」が登場した。
こうしたスマートデバイスが引き起こした変化の波は、これまでの製品作りのルールをも変えようとしている。果たして、将来、ハードウェアメーカーは、情報端末の世界においてどのような役割を担うことになるのだろうか。
スマートデバイス前、スマートデバイス後
言うまでもなく、スマートフォン/タブレット端末の時代において、ユーザーインタフェースの基本骨格を決定付けるのはソフトウェアだ。ディスプレイ上にユーザーインタフェース要素をグラフィカルに描き、そこにタッチ、あるいはジェスチャーを加えることで端末を軽快に操作する。
もちろん、タッチパネルそのものの質やドライバの作り込みなどで、操作性に大きな差が生まれるだろう。しかし、ユーザーインタフェースの根幹を担うのはソフトウェアであり、基本ソフトウェア(OS)とアプリの実装に依存しているといえよう。
これまで、優れた端末を作るには、物理的なハードウェアボタンを最適な位置に配置して、操作感を追求し、効率良く使いこなせるような創意工夫が求められてきた。高機能フィーチャーフォンの分野で、日本の携帯電話が堅調に伸びていたのも、純粋にハードウェアとソフトウェアを上手に擦り合わせ、製品を実現していたからだ。
しかし、時代はあっという間にスマートフォンの時代へと移り変わり、“良い製品を生み出す要件”の優先順は変化した。
この“スマートデバイス化”による変化のうち、ハードウェアメーカーに最も大きな影響を与えたのは、「ハードウェアに対する多様性が、以前よりも求められなくなったこと」だろう。スマートデバイスの場合、ボタンの配置や、操作部と表示部の配置、折り畳み(あるいはスライド)構造などは必要ない。ほとんどのスマートデバイスは、表示部と操作部が一体になっており、画面サイズとアスペクト比で全体の形状が決まってくる。もちろん、製品としての細かな仕上げや素材感で差異化は生み出せるが、メカ的な構造は圧倒的にシンプルになった。心地良く使えるサイズ、質感、ごく基本的なボタンの位置が決まってしまえば、多様なハードウェアは必要ない。後は、ソフトウェアの作り込みだけで操作感を決めることができる。
ただ、そうは言っても端末メーカーはAndroid OSをカスタマイズし、ハードウェアの意匠を工夫しながら個性を出そうとする。また、日本にはフィーチャーフォンで培った独自機能があるため、FeliCa対応や赤外線通信、ワンセグといった追加要素を盛り込む必要性もある。しかし、本質的な面での多様性は、ハードウェアに求められなくなった。
こうした変化を最も端的に表しているのがAppleの戦略だろう。売り上げ台数に比べてモデル数が極端に少ないことが、Appleのハードウェア分野における極端に高い利益率を引き出している(関連記事)。
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