第5回 光と銅:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(3/3 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第5回は、光インタフェースと、銅を使う電気インタフェースのメリットとデメリットについて紹介する。
(2)コネクタ
一般にコネクタも電気よりも光の方が大きく、高くなります。
光は電気と異なり、機器内の短い配線を使って筐体に付いているコネクタまで信号を引き出すことはできません。光素子に直接光ケーブルを接続する必要があります。
光は細いケーブルの断面から入出力されるので、光信号を損失を少なく伝えるためには光ケーブルの切断面を正確に合わせる必要があります。コネクタのような構造で、正確に光軸を揃えるためには高い寸法精度と勘合による位置ずれ誤差をなくす加工が必要です。
このような精度の要求、機構の複雑さはコストアップの要因となります。 逆にEMI対策が不要、リターンパスが不要でピン数が少なくなるなど価格低下の要因もあります。特に信号が高速化すると、銅信号線用のコネクタはEMI対策から筐体も含めた高価な対策が必要となり、コネクタの価格も高くなります(図8)。
また、部品の価格はマーケットサイズにも大きく左右されます。業界標準品で規格化された電子部品は数も多く出荷され、競合も多くなり価格が下がります。あまり普及しない部品では、価格が高くなります。この辺は、価格が安くなれば普及するのか、普及すれば価格が安くなりのか、にわとりと卵の関係になってきます。
(3)ケーブル
ケーブルの価格についても鶏と卵の関係が成り立っています。現在は量産規模が圧倒的に多いため、一般には銅線が安いのですが、ポテンシャル的にはファイバケーブルが安くなる要素はあります。
まず、第一にはやはり高速信号とEMI対策です。
高速信号伝送にためには、銅のケーブルはすべての信号配線を同軸ケーブル(細線同軸)にする必要があります。同軸ケーブルは信号配線の周囲をすべてグランド信号でシールドしてあります(図9)。このため、信号からの電磁放射がシールドされると同時に、信号線の特性インピーダンスが50オームで一定に保たれます。これは、基板配線の特性インピーダンスと同じ値なので、基板とケーブルの間での反射が生じません。このため、高速信号を、歪みを抑えて遠くまで伝送できます。
しかし、このような構造では、ケーブルは高価なものになり、信号線1本、1本が太くなります。特に誘電損失を抑えるため、誘電率の低い材料を用いて信号の特性インピーダンスを50オームにするためには、信号とシールドの距離がある程度必要となります。
このため銅のケーブルはファイバケーブルに比べて、太く重くなりがちです。
逆にファイバケーブルは折り曲げに弱くなっています。光信号はファイバケーブルの表面で反射しながら伝播してゆきます(図10)。ケーブルが急激に曲がっていて光の入射角が反射角より大きくなると光はケーブル表面を透過してしまい、損失が大きくなります。場合によってはそれ以上信号が到達しない場合もあります(図11)。
材料によっては表面反射率を大きくしたり、ケーブルの中心部と周辺部の反射率を変化させて、小さなRでも損失の少ないケーブルも開発されていますが、価格が高価です。
小さなRで曲げられないようにするためには、わざわざ、外部皮膜を硬く厚くして曲げにくくするようにします。こうすると、細くて軽いというファイバケーブルのメリットを打ち消してしまいます。
この様に、もう少し光素子のSiP化が進み普及してくれば、銅よりも光が安くなる可能性はあります。しかし、そのためには光が普及して銅よりも光が安くなる必要があります。
ここでも、出てくるのは、にわとりと卵の関係です。
筆者紹介
前田 真一(マエダ シンイチ)
KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。
近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)
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