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第2回 IBISの新動向前田真一の最新実装技術あれこれ塾(3/3 ページ)

実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第2回テーマは「IBIS」。最近のIBISが決めた標準化とIBIS-ISSについて紹介する。

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4.IBIS-ISS

 IBIS-ISS(IBIS Interconnect SPICE Subcircuits Specification)はパッケージ、配線のモデル化の新しいフォーマット規格です。

 先にも説明しましたが、IBISはパッケージ、配線のモデルでは大きな成果が得られていません。そこで、今回、新しいパッケージ、配線のフォーマット規格を策定しました。

 今回のモデルはIBIS Interconnect SPICE Subcircuits SpecificationというようにSpiceフォーマットを基本にしています。

 SpiceシミュレータはSimulation Program with Integration Circuit Emphasisの頭文字で、1973年にカルフォルニア大学バークレイ校で開発された回路シミュレータで、アナログ回路やICの内部回路に広く使われています。伝送回路シミュレータも大部分はSpiceシミュレータをベースとして開発されています。

 IBISモデルはICの内部回路の秘匿と解析時間の短縮のためにそれまで一般的に使われていたSpiceモデルに代わる解析モデルとして開発されました。そのIBISが、パッケージ、配線のモデル化にはSpiceモデルを使うというのは興味深いことです。

 IBISの考えは、IOモデルについてはIC内部の回路は企業のIPが高く回路秘匿性の高いIBISモデルを使い、パッケージ、配線モデルについては規格の普及が見込まれない新規のモデルフォーマットを開発するのではなく、現在広く普及していて、解析の自由度、解析精度でも実績のあるSpiceモデルを使おう、というものです(図10)。Spiceシミュレータは広く使われているので、フォーマットも良く知られています。また、多くのSpiceシミュレータは簡単にこのモデルをサポートできるようになっています。このようにSpiceモデルは普及しているために、これまでのIBISのパッケージモデル定義がうまくゆかなかった、シミュレータのサポートや普及の問題が解決すると期待されています。

 しかし、Spiceシミュレータは開発が大学で、またソフトを公開して自由に使えるようにしたため、多くの会社から多くの製品が開発されました。

 多くの会社は、基本のSpiceシミュレータに独自の機能を付加し、付加価値をつけて、製品の価値を高める努力をしています。ユーザーも便利な機能や解析モデルライブラリの充実したシミュレータの方が使いやすいので、付加機能とライブラリーが充実しているシミュレータの方が普及しました。

 このため、同じSpiceシミュレータでもモデルや使い方に多くの方言があり、Spiceモデルといっても、それぞれのSpiceシミュレータごとにSpiceシミュレータに合ったモデルを入手したり、他のSpiceシミュレータ用のモデルを手直ししたりする必要があります。

 IBIS-ISSはこの機種ごとに異なるSpiceモデルの問題を解決するために配線や抵抗、コンデンサ、コイルなどパッケージ、配線、終端処理に必要なモデルの定義を標準化し、どのSpiceシミュレータでも共通に使えるフォーマットを制定しようとしたものです。

 Spiceフォーマットとしては、接続情報定義、パラメータ・関数、モデル定義、動作制御記述の4つの大きな記述があります。

 IBIS-ISSの基本は、これらの定義について必要最小限の記述を定義し、すべてのSpiceシミュレータでIBISISSの記述に従ったファイルは解析を実行できるようにすることです。具体的には、広く普及しているHSpiceと呼ばれるSpiceシミュレータのフォーマットを基準としています。

 接続情報定義(ネットリスト)については、使える文字種やライブラリ名の定義など、シミュレータごとに方言がありますが、基本的にはすべてのシミュレータで似たフォーマットになっています。IBIS-ISSではこの記述に関しては定義しません。

 パラメータ・関数定義については、必要最低限の定義を標準化します。

 モデル定義ではICのドライバやレシーバの定義に使うトランジスタやダイオードなど、能動素子の定義に関しては標準化を行いません。伝送線路の定義や、終端抵抗などの定義に使う受動素子についてはIBIS-ISSで標準化を図ります。また、今後、PI解析やEMI解析に必要な電流源、電圧源の定義も行います。

 動作制御記述はSpiceシミュレータごとに異なりSpiceシミュレータの機能に直接依存する記述なので、IBIS-ISSでは定義しません。しかし、シミュレータの動作制御はIBISのAMSサポート機能で実行できるようになっています。

5.IBIS-ISSの問題点

 IBIS-ISSの配線モデルとしては、T-エレメント、R-エレメント、S-エレメントと呼ばれる3種類の定義が可能となっています。

 S-エレメントはSパラメータを使ったモデルでタッチストーンファイルが使えます。しかしIBISがこれまで定義した、EBDやICMなどとIBIS-ISSとは互換性がありません。

 IBISモデルのパッケージモデルとIBIS-ISSとの関係もまだ決まっていません。IBIS-ISSの定義は基本が決まりましたが、これをどのように使うかがこれからの問題となります。

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図10 IBISモデルとIBIS-ISSモデル

筆者紹介

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前田 真一(マエダ シンイチ)

KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。

近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)


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