どこがダメなのか、日本のエネルギー:小寺信良のEnergy Future(22)(5/5 ページ)
太陽光発電や風力発電を電力源として大きく成長させるにはどうすればよいのか。1つの解が「固定価格買い取り制度(FIT)」だ。FITが他の制度よりも効果的なことは、海外の導入例から実証済みだが、問題もある。その問題とは電気料金が2倍になることだろうか、それとも……。「小寺信良のEnergy Future」、今回はFITにまつわる誤解を解き、FIT以外にも日本のエネルギー政策に大きな穴があることを紹介する。
20世紀型の日本と21世紀型のドイツ
運輸業界の事情には疎いのだが、産業界に関して言えば、国内メーカーの工場を見学する機会も多い。工場では廊下の照明を消す、必要な時しか機械の電源を入れないなど、まさに爪に火をともすように省エネに務めている姿を見掛ける。だがそれは、単に電気を電力会社から買っているだけの「20世紀型」エネルギー供給システム上で改善しているということ。大局的には効いてない、ということである。
一方ドイツの産業界では、電力を現場生産して地産地消モデルに転換したり、そこで発生する熱利用を促進することでエネルギーロスを減らすといった、「21世紀型」のエネルギーにシフトしてきた。その成果がこれだけの差となって現れてきたということである。日本は努力する方向を間違えたのだ。
この事実は、家電業界の人間にとってはショックである。日本の家電そのものは、世界でも高水準の省エネレベルだと信じている。だが、実は製品を作ったり運んだりする部分は、まったく省エネになっていなかったことになるからだ。
日本とドイツのエネルギー消費の構成を比較してみよう。日本で最もエネルギーを食っているのは産業部門であり、家庭部門の消費は一番少ない。一方ドイツでは家庭部門の消費が一番多く、次いで運輸部門だ(これは日本とほぼ同じ比率)。産業部門、業務部門の消費エネルギーの小ささが目に付く(図6)。
日本の家庭のエネルギー消費が少ないのは、気候が温暖なために暖房費が少ないことが中心だろうと考えられる。加えてこれだけ家電大好きな国民性なのだから、やはり徹底した国産家電の省エネ化が効いているという見方もできるかもしれない。
一方、ドイツの人口は約8200万人で、日本の人口の3分の2程度である。それなのに家庭の電力消費が4部門で一番大きいということは、他の産業に比べると家庭での省エネは進んでいないということだ。ドイツの各家庭向けの対策は、断熱材の利用や、大規模な熱利用を一般家庭まで進めるといった政策支援であり、恐らくこれも数年後には成果が出始めるだろう。
日本のエネルギー政策は、20世紀型の一点集中方式を維持したままで、部分的に再生可能エネルギーを差し込んでいくといった方向に見える。だがそれでは、一番エネルギーを食っている産業部門のエネルギー効率改善が見込めない。結局再生可能エネルギーの買い取り価格維持のために、工場内で照明を消したり手仕事で掃除したりといった報われない努力を強いるだけである。
やはり工場に向く、中小規模の再生可能エネルギー生産を促進させ、産業界が設備投資として元が取れるような制度を設計しないと、いつまでも原発停止による電力不足問題は解決しない。ドイツのデータから目をそらさず、抜本的な改革に踏み切れなければ、工業先進国というポジションすら危うくなる可能性が出てきている。
【修正記録】 記事公開後、図4と図5の画像を高解像度版と差し替えました。グラフ内の数値には変更はありません。
【訂正】記事の掲載当初、5ページ目の図6の直前で「産業部門、運輸部門の消費エネルギーの小ささが目に付く(図6)」としていましたが、正しくは、「産業部門、業務部門の消費エネルギーの小ささが目に付く(図6)」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。上記記事は既に訂正済みです。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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