巨大グループ連合の標準化・効率化をいかに支えるか――日産CIOに聞いた:ITmedia Virtual EXPO 2012プレビュー
ルノー・日産アライアンスを支えるITシステムは、間違いなく最先端の戦略的利用事例だ。6週間に1台の新車種投入サイクルで、利益率8%を目指すすごい仕掛けは一朝一夕で出来上がったものではない。
2012年9月11〜28日、オンラインイベント『ITmedia Virtual EXPO 2012』(ITmedia Virtual EXPO 実行委員会)が開催される。中でもMONOist読者に注目していただきたいのが「モノづくりIT」ゾーンだ。いまのモノづくりを支える情報技術の最先端事例紹介やヒット商品を生み出した技術者による特別講演も用意している。
本稿ではその中でも、日産自動車 執行役員グローバル情報システム本部長 行徳セルソ氏の講演を紹介しよう。
本記事に掲載している内容は、2012年9月11〜28日に開催されたオンラインイベント「ITmedia Vietual EXPO 2012」を紹介しています。現在、会期は終了していますので、ご了承ください。
行徳氏は2004年5月から日産自動車株式会社にCIOとして参画、2009年6月以降は、アライアンスマネージングダイレクターを兼務し、現在に至るまでルノーおよび日産のIS(情報システム)部門をグローバルに統括している。日産自動車のグローバルでの展開を支えるIT部門を一手に担う人物だ。
日産の中期経営計画を支える情報技術
日産自動車では、現在、中期経営計画「POWER 88」を掲げている。ごくかいつまんで紹介すると、2016年度までにグローバルでブランド力・セールス力の向上を図り、2016年度までに市場占有率を8%に、営業利益率を8%にする、というものだ。
同社IS/IT部門は、この計画を実現するために現在「VITESSE」プロジェクトを推進している(VITESSEはフランス語でスピード、速度を意味する)。行徳氏は実に1329人、26カ国39拠点のグローバルIS部門を統括する立場にある。
業務革新に際して、情報の流れを改革することはもはや必須だ。組織の効率化の一方で、それをそぐような非効率な情報経路があっては企業全体の利益には結び付かない。
シンプルな組織体制、業務プロセスがあったとしてもそれとかい離した業務フローに準拠したシステムが使われていたとしたら、それだけでも無駄な承認、無駄な情報開示などを大量に処理しなければ仕事が進まないことになる。
VITESSEは、日産自動車のPOWER 88だけでなく、ルノーグループが掲げる「Renault 2016 - Drive the change」という経営計画をも包括的にカバーするものとなるようだ。
Renault 2016 - Drive the changeは、「ルノーグループの確実な成長」「恒久的なフリーキャッシュフローの創出」を掲げている。現在、具体的な行動として、2013年度の販売台数300万台超、20億ユーロのフリーキャッシュフロー確保を目指した活動が進んでいるところだ。これらには、財務的な意味での企業体力の確保、ブランド力強化、コスト削減、販売力強化などが含まれている。
ルノー・日産グループでは、既にこれらの目的のために世界各地の拠点で組織の共通化が進んでおり、グローバルで1つのR&Dができるようなモノづくり環境を整えつつある。1社の共通化ではなく、グループ全体の効率改善を目指した改革が進んでいるようだ。ここには、例えば設計部門についていえば、PDMを活用したデジタルモックアップによるライフサイクル管理プロセスの共通化なども含まれる。もちろん、記事で紹介したような設計手法の改革「日産CMF(コモン・モジュール・ファミリー)」を支援する仕掛けも準備されているようだ。
着実なステップを踏んで進む改革
現在、行徳氏ら、日産自動車のIS部門が推進しているVITESSEは、2005〜2010年の「BEST」プログラムの完了を受けて2011年からスタートした。行徳氏によると、BESTプログラムには各業務部門がIT側の役割を理解する意味もあったという。このプログラムを通して、IS部門の役割や目的、どのように個々の部門に貢献しているかを、全社的に知らせる意味があったようだ。
行徳氏は、「BESTプログラムが完了した2010年の段階で、業務プロセスの標準化は80%程度が完了していた」と述べる。VITESSEでは、さらに、部品共通化やプラットフォーム共通化と同時に、モデル別の利益などを細かく算出できる共通基盤も構築するという。
設計のモジュール化を推進し、部品の共通化や流用、バリエーションの効率化が進んだ場合、1車種当たりの原価はどのように算出するべきか。共通プラットフォームを採用した場合の開発費の配賦はどのように算出すべきか、といった、細かな管理業務1つを見ても、管理の効率化と共通化についての課題の難しさは想像がつくだろう。しかし、こうした数字が見えなければ、個々のプロジェクトごとの正しいコストや収益の状況が見えず、体質改善に結び付けにくいことも事実だ。
行徳氏がプロジェクト推進に際して示したメッセージとは?
モノづくりのベースとなる情報基盤を支える部門は、企業の中では時として何をしているかが分からない、費用対効果が分かりにくい、といわれる。単なるコストセンターとしか思われないことも少なくない。それゆえに、改革の推進に関連分門の協力が得られず、失敗することもある。システム部門を統括して経験の長い行徳氏は、だからこそ部門の発信するメッセージが重要であると唱える。
行徳氏がどのようなメッセージをどう伝えていったのか、VITESSEプログラムを支える思想とはどのようなものかは、ITmedia Virtual EXPO 2012の会期中、会場にアクセスした方限定で試聴できる。
ITmedia Virtual EXPO 2012:モノづくりITゾーン
イベント会場ではこの他にも、さまざまな企業が提供するコンテンツを閲覧できる。最新動向や企業事例などの情報収集を一度に行える機会なので、お見逃しなく。
※事前登録(無料)を済ませた方のみ試聴可能。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 6週間に1つ新車を投入するには? 日産のモジュラー設計
新車種投入スパンの短期化を目指す日産が、車両開発にモジュラー設計を採用。バリエーション展開を考慮した共通プラットフォームを軸に、低コストで高品質の車づくりを目指す。 - フォードが電動システム開発に約100億円を投資、EVやHEVの開発期間を25%短縮
Ford Motor(フォード)は、約1億3500万米ドル(約107億円)を投資し、モーターやインバータ、車載二次電池といった電動システムの開発と生産を強化する。専門開発拠点の設置や試験設備の強化、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の生産能力の引き上げなどを予定している。 - 「Atom」の車載利用が拡大へ、起亜自動車の高級セダン「K9」が採用
起亜自動車の高級セダン「K9」の車載情報機器にインテルの「Atom」が採用された。公表されている採用事例としては4件目となる。車載向けAtomの発表から3年以上が経過したこともあり、車載情報機器へのAtomの採用が拡大しつつあるようだ。