日本のモノづくりのアキレス腱「利益率」を改善する近年型/発展型S&OPとは?:「ビジネスS&OP」とは何か(1)(2/2 ページ)
需給はやみくもな在庫削減や稼働率に引きずられるべきでなく、事業全体の利益を基に考えなくてはならない。本稿では近年欧米や新興国系の企業で採用されている管理手法を見ていく。
利益ベースで考える
図2はアバディーンによる2011年のCSCOへのヒアリング調査で、「最優先のビジネス課題は何か」という質問への回答結果をまとめたものです。半分以上の企業が「サプライチェーン運用コストを低減すること」であると回答しています。
北米、欧州、アジアで分けて結果を見た場合に、どの地域でも「サプライチェーン運用コストの低減」が最大の関心事となっているのは、大変興味深いことです。日本を含めアジアでは、むしろ「欠品ゼロ」つまり「顧客要求に対する素早く高精度なフルフィルメント(fulfillment:ここではOrder fulfillment=注文の履行)」が一番なのではないかと考えられていました。
実際に、この調査の数カ月前の同じ調査でアジアにおける結果は「顧客要求に対する素早く高精度なフルフィルメント」が最優先事項でした。つまり、数カ月の間に大きく変化したのです。
ここから明らかなのは、単に顧客要求を充足すればいいのではなく、「利益ベース」でサプライチェーン運営を考えなければならない時代になってきたということなのです。この「利益ベースのサプライチェーン運営」が、近年型/発展型の「ビジネスS&OP」の重要なポイントです。
皆が考えている戦略的アクションは何か?
図3は、先述のアバディーンによる調査のうち、「ビジネス課題に対する一番の戦略的アクションは何か」という質問への回答を、3つのクラスに分類して結果をまとめたものです。いくつかのサプライチェーン評価指標に対する各社のパフォーマンスの総合点でクラス分けを行い、上位20%を「ベストインクラス」、中間50%を「平均クラス」、下位30%を「出遅れクラス」と分類しています。
クラス分類ごとに結果が異なっており、ベストインクラスである企業は、財務/予算計画をS&OPプロセスに統合することに注目しています。
また同時に、収益最適となる需給バランス計画を作成することにも注目しています。この2つはまさに、「ビジネスS&OP」が果たす役割なのです。
日本企業にも浸透しつつある
日本の製造業や流通業でも、ここ最近、各社で業務プロセス名称は異なっているとしても「S&OP」への関心が増してきたように見受けられます。グローバル競争で韓国などの新興国系の企業に押されている現実や、欧米の競合と比較して利益率が低いことに危機感や焦りを感じているのは、筆者だけではないと思います。
日本企業には、長い間定着してきた優れたプロセスが存在します。本連載では欧米および韓国におけるビジネスS&OPの概念を学びつつ、既存のプロセスに何を加え、何を変えていくべきなのか、一緒に考えていきたいと思います。
今回は、最近のグローバルにおけるサプライチェーンマネジメントに関する意識の変化と、今後ますます重要になると考えられるビジネスS&OPについて紹介しました。次回は、ビジネスS&OPに必要な業務プロセスと、情報システムとツールの活用法について具体的に掘り下げていきます。
筆者紹介
インフォアジャパン株式会社
ビジネスコンサルティング本部 ビジネスコンサルティングマネージャー
酒井ひろみ(さかい ひろみ)
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