Androidケーススタディ 〜図書館での活用イメージを考察する〜:金山二郎のAndroid Watch(6)(2/2 ページ)
週に数回は図書館を利用する“本”大好き筆者が、自らの読書スタイルを踏まえ、図書館におけるAndroid搭載タブレットの導入の有効性を考察する。PCからの利用を前提に、10年以上前に設計・構築された図書館システムのサービスはどのように生まれ変わるのか?
Androidによる図書館ITサービスの改善
さて、いよいよAndroidによる図書館ITサービスの改善を考察していきましょう。アプリについては前述の通り、既にいろいろなものが登場しています。ただ、機能という点ではもっと成長する余地があると考えます。
筆者として注目するのは、スケジューラ連携です。図書館の開館日の情報から始まり、自分の借りた本の返却期限などは使っているカレンダーに自動入力されていてほしいものです。これをもっと進化させて、長期出張の予定がある場合はそれに先立って返却を促すこともできるでしょう。さらに、目標達成のプランニングをサポートしたり、その達成まで付き添ってくれるようなインテリジェント性を持ったアプリがほしいところです。例えば、「タフな仕事にも耐えられる健康的なビジネスマンになりたい」という目標を設定すると、ストレッチと食事とメンタルトレーニングの本を紹介し、毎日・毎週・毎月のクリアすべき課題を提案し、達成度合いからアドバイスをしてくれるようなイメージです。
“Androidならでは”ということですと、やはり“専用端末”での利用を考えたいところです。まず、既存システムで考えると、図書館側の設備としてPCが多く使われていますが、これらのほとんどが用途としては“専用”であり、Android端末に置き換えられます。
図書館には利用者が書籍を検索するためのPCも置いてありますが、不慣れな方にはハードルが高いと思われます。医療現場などでも、医師が難しい医学用語をMS-IMEで一生懸命入力しているのを目にすることがあります。また、看護師さんが追加でインストールしてあるATOKの使い方が分からないだけでなく、MS-IMEへの切り替え方も分からず困っていたなんてこともありました。慣れた者には理解が及ばないところもありますが、PCのような汎用の機械は、使い勝手という点で専用(特定)の用途向けへの最適化が容易とはいいがたいものです。
スマホなどにおいても、汎用のブラウザよりも特定の目的に最適化された専用アプリの利用が割合としては多くなっているそうです。確かに、自分の使い方を振り返っても、周りの方を見ても、専用アプリがあればそちらを使っています。末端がPCのソフトウェアになっている現在の仕組みは、全てタブレット発明以前に構築されたもののはずです。まさに今、良いAPIを提供し、良い専用端末と良いアプリで全体を構築し直すタイミングに来ていると筆者は考えます。
利用者が使う端末としては、図書館の書籍やAV資料専用のAndroid端末というのも面白いと思います。電子書籍の貸し出しについては、既に複数の図書館で実証実験が行われており、実サービスも始まっています。中にはiPadなどで利用できるものもあります。ここに専用端末を導入するとどうなるでしょうか。
まず、利用端末が限られるので、アプリの構築・動作確認の負荷が軽減されます。また、その端末に特化したセキュリティ対策を施せばよいので、セキュリティのケアという点でも負担が減ります。物理媒体の電子化には、常に使う側の想像力を必要としますから、PCやインターネット経由での利用はハードルが高いという利用者もいると思います。しかし、専用端末であれば、図書館に持ち込んで電子書籍の返却や貸し出しを行うことも可能ですし、ハンディキャップ支援などもしやすくなります。
さらに、最近はAndroidを利用したSTB端末などの登場に加え、Androidを搭載したフォトフレームのような端末もある一定の人気を保っています。こうした端末の中に、前述の近未来設計アプリをバンドルさせたら面白いと思います。加えて、視聴中のテレビ番組の関連書籍を紹介するなどできれば、より有意義な付加サービスとなり得そうです。
図書館のこれから
今後の行く先を問われている図書館は、現在は非常に重要な局面を迎えています――。
図書館のITに関連した最近の出来事として、岡崎図書館事件を覚えておられる方も多いと思います。詳しくは当事者ご本人の解説やインターネット上の情報をご確認いただきたいと思いますが、IT技術者の多くが同じ事態に直面するかもしれないということ、また、脆い情報システムがまん延してしまっていることの二重の危険性を再認識させられた事件でした。
また、こちらは全国的な話題にはなっていませんが、品川区立図書館は、第三者が作ったアプリやサービスではなく、図書館が自ら提供するサービスの利用を促すアナウンスを行いました(図5)。
このアナウンスには、具体的な被害については触れられていませんが、確かに、第三者の作ったアプリがスパイ行為をしないとも限りません。出来の悪いアプリを使って、予約がうまくいかないといったこともあるでしょう。その問い合わせやクレームが図書館に届く可能性もあります。これは仮に図書館側が立派なAPIを用意したとしても起こり得ることで、アプリの使用に否定的な図書館を一概に非難はできません。
また、大きなシステムの変更こそ目に見えて行われてはいないものの、細かい改善は行われています。予約確保メールの内容が、以前は資料番号のみで何が予約できたのかが分かりにくかったのですが、最近、書名も記載されるようになりました(図6)。
IT化は“もろ刃の剣”であり、生活に劇的な利便性をもたらすけれども、個人情報の流出や障害などを招く恐れもあります。一方、図書館は「使われてナンボ」の施設です。目的は幾つかありますが、少なくとも、図書館の利用促進が住民の知識レベルを押し上げるのならば、所得の向上ひいては税収の向上といった、行政としても大きな意義を持つことに貢献するはずです。従って、多いに活用してもらうべく努力が必要です。IT化は、ほとんどその決定打といえるほどの有効性を持ちますが、ひどい副作用の可能性を秘めていますから、十分慎重に検討しなければいけません。当然、Androidの適切な導入も、その大きな指針に基づくものでなければいけません。
良いニュースが1つあります。政府が、公務員のスマホ業務使用を2013年に解禁する方針を固めました。現在、スマホなどの機器の私物利用が禁じられていることが、逆にケアされていない利用につながり、サイバー攻撃の端緒となることを警戒しての対応だそうです。直接の動機はどうであれ、政府が世の中の現状を鑑みて能動的な意思を示したものであり、評価できる対応です。
図書館は大きな可能性を持っています。図書館が頑張って近い将来の規範となる情報システムを構築すれば、ITの健全な成長を促進し、日本の将来も変えられます。「これからは図書館がITと日本を導く!」という気持ちで改革に取り組んでいただきたいと強く願います。そして、Androidがその実現に大きく貢献することを望みます。(次回に続く)
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著者プロフィール
金山二郎(かなやまじろう)氏
株式会社イーフロー 第1事業部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidプログラムの開発で活用している。
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