激変する環境もなんのその。株価乱高下に踊らされない理想の会社は作れる!?:リサーチペーパーでひも解くS&OP(3)(2/2 ページ)
売り上げ見込み、供給能力の把握……、タイムリーな情報が必要なのは現場や経営者だけではありません。都度の経営環境を左右する「情報開示」で右往左往しないために打つべき手は?
S&OPプロセスは業績予想開示に応用できる仕組み
前述した2つの欠陥の解決と、各企業における業績予想の合理性の向上に役立つのがS&OPの導入です。
従来の業績予想の数値作成は、開示のタイミングで行われる開示のみを目的とした単発のプロセスですが、S&OPは月次レベルで行われる、企業の各活動を統合的に調整することを目的とした継続的なプロセスです。
そのため、従来の業績予想作成のプロセスにはなかったさまざまな特徴があります。その中でも、S&OPの次の特徴は業績予想のレベルアップに貢献するものと考えられます。
このプロセスがあればタイムリーな状況把握ができる
従来の業績予想数値の作成方法では、売上予想の数字を集計し始めてから開示を行うまでに1カ月以上の期間がかかることも多く、経営環境の変化が激しい場合、開示をするタイミングでは既に発表する情報と企業が把握している今後の見込みが乖離してしまうことがありました。
これに対して月次レベルで需要と供給のマネジメントを調整するS&OPを活用できれば、従来よりも鮮度の高い、直近に集計している情報を利用可能です。
S&OPで有効に需要と供給のマネジメントを調整していくためには、迅速に直近の需要と供給に関する情報を集めることが必要となります。S&OPの導入によりこれに応える社内システムが整備されていれば、従来の業績予想のために1カ月以上かけて予測数字を組み上げていた状態よりもはるかに素早く直近の情報を収集可能となります。その結果、よりタイムリーな業績予想数値の開示が可能となり、発表する情報と企業が把握している今後の見込みが乖離する可能性が低くなります。
「えんぴつなめなめ」で対処できない環境に対応する業績予想作成プロセス
従来のように、売上予想の数値と過去に作成した予算を参考に経理担当者が業績予想数値を作成している状態では、刻々と変化する企業内外の状況に対して企業がどのように対応していくのかを反映させることはかなり困難です。
S&OPでは開発・製造・販売などの主要なプロセスに対して統合された調整活動が行われます。すなわち、刻々と変化する企業の内外の状況に対してどのように対応していくかを企業内部で検討・決定し調整することになります。そのため調整した結果を基に業績予想の数値を作成すれば環境の変化に対する企業の対応を織り込むことが可能となります。
ポイント1:トップマネジメントの関与
従来の業績予想の数値作成では、経営者は作成された数値に対して承認を与えるのが主な役割であり、せいぜい作成された数値の調整を指示するくらいの関与しかできていないと思われます。
それに対して、S&OPでは各プロセスの調整に対してマネジメントレビューが行われるため、各プロセスの活動に対して経営者の関与が行われます。
これまでの完成した業績予想の数値を承認するだけの状態と比べ、業績予想の数値を構成する各活動に対して経営者の関与が行われるため、より経営者の意思を反映した業績予想数値の開示が可能となります。
経理担当者が熟練の技で調整して作成している数値よりも、経営者の意思が反映した活動を基に作成された数値の方がより企業の将来を合理的に表現できるものと思われます。
ポイント2:コスト数値が読めるようになる
S&OPでは販売だけではなく、それに関する製造や開発のプロセスも統合的に調整されます。つまり、開発・製造・販売といった企業の主要な活動をどのように行っていくかが調整・計画されます。
この計画を金額に落とし込めば、企業の主要な活動に掛かるコストも把握できます。これにより直近の売上予想とリンクしたコストの把握が可能となります。
これまでのように集計した売上予想とリンクしていない過去の予算を参考に、経理担当者が調整を加えていた状態と比べて、はるかに合理的な業績予想の数値作成が可能となります。
このようにS&OPのプロセスを活用することで、従来の作成方法と比べてタイムリーかつ合理的な業績予想の数値作成が可能となります。結果として企業の発表する業績予想の情報に対する投資家の信頼も高まり、企業の実力がより正しく評価されるでしょう。次に利点を簡潔にまとめます。
項目 | 従来の業績予想 | S&OPを導入した場合 | |
---|---|---|---|
1 | 情報の鮮度 | 集計までに時間がかかり鮮度が低い | 直近の情報を利用可能で情報の鮮度は高い |
2−1 | 数値の作成プロセス | 数値作成担当者の感覚により調整 | 社内の正式な意思決定を経た情報を基に作成 |
2−2 | 経営者の関与 | 作成された数値の承認 | 数値の基となるプロセスの調整段階での意思決定 |
2−3 | コスト数値 | 以前に作成された予算を参考に数値作成担当者が調整 | 売上予想とリンクしたコストの算出が可能 |
リサーチペーパーを読んで
S生産計画グループマネジャーは……
決算情報だけではなく将来の情報も開示しなければいけないなんて、上場企業は大変だな。我々非上場企業にとってはそんなに関係ない話なのかな
(Sさんの抱える課題はこちらを参照)
O営業事業統括本部長は……
いやいや、社外に発表しないとはいえ、将来の予測を合理的に作成するプロセスは生き残っていく上で必要不可欠では
(Oさんの抱える課題はこちらを参照)
OKメディカルのPさんは……
アメリカでは将来情報の発表は各企業の自主性に任されている。発表が強制されている日本の上場企業は大変だったんだな……。
(OKメディカル社がどんな企業かはこちらを参照)
編集部から
ここまでで、すこし上位の話題となりますが、会計上の課題やそれが企業全体に与える影響、そして、S&OPプロセスが上場企業にとってどういった意味を持つのかを見てきました。次回は、これらを実現するための仕組みについて触れていきます。お楽しみに!
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