「で、それってナンボ?」に即答しつつ、予算管理の弊害を回避する方法:リサーチペーパーでひも解くS&OP(2)(2/3 ページ)
モノの管理とお金の管理をつなぐS&OPプロセスと、脱予算経営ってどうつながるの? 脱予算経営との関連性からひも解いていきます。
量と金額、異なるデータをどう扱うか
次に、「データをどう扱うか」という観点です。S&OPプロセスと予算管理のデータ、つまり「量」と「金額」という単位の異なるデータをどうのよう結び付けるのか、という課題です。
大概の企業、特にサプライチェーンが連なる製造業であれば、「量」と「金額」換算は、製品出荷から原価計算まで、ERPや鍛え上げた基幹システムに乗っていることでしょう。これが、S&OPにとってはくせ者です。
S&OPでは、SBU(戦略事業単位)やカテゴリー単位の固まりで、構成・数量の条件、売価や原価設定、向こう18カ月のトレンド変化など、複数状況を種々変えながら財務結果に換算します。これは、「旧来のERP」がいくら充実していても、不十分です。
IT上のデータが精密でも、多様な前提の異なる多様な計画は作れません。計画の精度を高めるため、会計システムの厳密な単価設定や原価配分ロジックにこだわると、システム上の数値とは整合はします。しかし、複数前提による予測を織り込むのは困難です。例えば、システムに登録されている売価や原価テーブルは会計上1つなのに、今後の複数の価格変動による全体計画の違いを算定できるでしょうか……。
結局、担当者が表計算ソフトでマニアックに作り込み、調整会議の前日深夜まで試行錯誤しながら資料を作成、となりがちです。手作業ですから、複数パラメータで多数の計画を作るのは困難です。予算と帳尻の合う計算で作って「とにかくこういう結果になるように管理しろ」ということになってしまいます。受け取る側も、どのような条件設定で算出したのか理解しないまま、気合いの目標値として受けとり、「最後に合ってればいいんだろう」となってしまいます(関連記事参照)。
事業計画とデータの連携ができたいない状態とは
- 会計データとSCMデータ連係は1点・1品・1オーダーの厳密な明細計算
- 事業計画のためのオーバービューは、表計算でざっくり作る
- 結果として因果関係はたどれない
事前のシナリオと実績を同じ粒度で扱う
S&OPでは、複数のシナリオが必要になります。ここで言うシナリオとは、ある状況・局面を想定した計画ととらえれば結構です。
複数のシナリオを作るというのは、計画値を構成するデータに対して、柔軟にパラメータやテーブル設定をして、複数の計算結果を出してみる、ということです。状況によって、どこにどのような影響が出るのか、より重要な変化要素、大きな変化につながる芽となる数値の動きは何か、を認識する必要があります。さらには、複数計画と実績データの差異検証が容易であればなお良いでしょう。
従来のERPや基幹システムを強化する、という考えではなく、外部環境・内部環境からさまざまな条件設定をし、活動結果が財務指標としてどのような構成になるのかを簡潔に示して、比較できることが必要です。
複数シナリオを計算できるシミュレーションツールなどを用い、基幹システムの実績データと複数計画の値を比較管理できれば、S&OPの大きな助けとなるでしょう。
S&OPの計画を扱うには、以下のような機能が有効
- 製品グループ、SBUなどの「くくり」「固まり」で容易にシミュレーションできる
- ERPには存在しない未来の数量を、金額換算して過去値と並べて扱える
- 未決算(原価計算・割掛け配賦、損益表とバランスシートのやりとりなど)の時点で、決算結果を扱える(シミュレーションできる)
- 限られた財務計画から将来の業務計画(数量)への影響予測ができる
関係者が同じデータを見る
また、関係者が同じデータを見ることが必要です。それが、社内ゲームを回避する前提だからです。それには、ITによりデータを共有できる「ダッシュボード」も有効です。
S&OPで必要なダッシュボードとは、事業の関係者が、自分の業務で扱う指標、影響を受ける・与える指標、それらの動きを関連づけて見られることが必要です。
ダッシュボードで共有するもの
- 基準となる指標・予測を、容易に簡潔に明示
- 条件により変化する多岐・多数に及ぶ予測前提値
- 過去実績指標と目標・計画指標の連続的管理
- 誰が見ても分かる、オープンでフェアな指標の設定・公開
ITによるダッシュボードは、経営者が1人で操縦するコックピットの計器ではありません。それでは経営者に責任を押し付けるだけで、権限委譲や現実的で迅速な意志決定にはつながりません。経営者の「個人経営の店」ではないからこそ、可視化して同じデータを関係者で共有する必要があります。
また、ダッシュボード上で、複数計画や関連する業務のデータを容易に確認できれば、社内ゲームが起きずに、オープンな議論に貢献するでしょう。社内ゲームの原因は、どこにリスクがあるか把握できず自分の手元でリスクヘッジする、報告する場や相手により数字を変えて報告する、部門の内向きと外向きの数字が違う、といったことにあります。前提や影響のデータが共有されていれば、自ずと解消されるでしょう。
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