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もはやSFではない“サイボーグ”技術人工網膜/人工内耳の最新研究事例から学ぶ(3/4 ページ)

米国の人気SFテレビドラマ「600万ドルの男」や「地上最強の美女バイオニック・ジェミー」の主人公達のように、人体の機能を電子機器によって代替する、いわゆる“サイボーグ”技術の実用化が進んでいる。本稿では、人工網膜と人工内耳に関する米国の最新研究事例を紹介するとともに、それらに活用されている電子技術について解説する。

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30年の歴史を持つ人工内耳

 実用化までもう一歩の段階にある人工網膜に対して、既に多くの人々に利用されているのが人工内耳である。1980年代に開発された人工内耳の利用者数は、全世界の累計で12万人以上に達している。

 現在利用されている最新の人工内耳の構成は以下のようになっている。耳かけ型の体外部モジュールには、耳に入って来る音声を拾うマイクロフォン、音声を処理するスピーチプロセッサ、電池が組み込まれている。スピーチプロセッサは、音声をデジタル信号に変換してから符号化を施してRF信号として出力する。このRF信号は、頭部に装着した送信器のアンテナを介して、体内部モジュールに無線で送信される(図5)。

図5 人工内耳の仕組み
図5 人工内耳の仕組み マイクロフォンはスピーチプロセッサに音声を取り込む(a)。スピーチプロセッサは音声をデジタル信号に変換してから符号化を施してRF信号として出力する(b)。頭部に装着した送信器からRF信号を体内部モジュールの受信器に送信する(c)。体内部モジュールの刺激器は聴覚神経に電流を送る(d)。聴覚神経が脳に刺激を伝え(e)、脳はこの刺激を音声として認識する。(クリックで拡大) 出典:Advanced Bionics

 体内部モジュールは、手術によって耳の後ろの頭皮下に埋め込む。送信器と体内部モジュールに組み込まれている受信器の位置合わせには磁石を利用する。

 受信したRF信号は、体内部モジュールの刺激器ユニットに送信される。刺激器ユニットは、RF信号から電力を抽出するとともに、RF信号を復号化して電流に変換する。そして、刺激器ユニットと内耳の蝸牛の間つなげる電線を使って電流を送る。電線の先端の電極から出力される電流による聴覚神経への刺激が中枢神経にまで伝わり、最終的に聴覚として認識されるのである。

 スピーチプロセッサは、DSP、パワーアンプ、RF送信回路で構成される。DSPが、音声の特徴を抽出してデジタル信号に変換する際には、DSPのメモリマップ内に格納されている患者の情報を利用する。また、このメモリマップやスピーチプロセッサのパラメータは、PCを使って変更できる。


図6 人工内耳でやり取りされる信号の流れ
図6 人工内耳でやり取りされる信号の流れ(クリックで拡大) 出典:IEEE

 体内部モジュールは電池を搭載していない。送信器のRF信号から電力を抽出するのはこのためである。なお、人工内耳は「バックテレメトリ」と呼ぶフィードバック機能を備えている。バックテレメトリは、刺激器の電気的動作や神経系の応答を監視しており、何らかの問題が発生した場合には体外部モジュールに送信する機能を持つ(図6)。

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