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家電版「覇者の驕り」――名門家電メーカーは垂直統合モデルから脱却できるか井上久男の「ある視点」(13)(2/2 ページ)

電機業界の赤字3兄弟「SKN 1.3」で最も重篤なのは? 名門再生のカギは過去の栄光を捨てられるかだ。

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またも垂直統合モデルへ

 パナソニックは反転攻勢の戦略として、「まるごとビジネス」を掲げている。「家まるごと」「街まるごと」といったものだ。「家まるごと」とは、住宅をパナソニック製品で埋め尽くして一括的なソリューションを提供することだ。しかし、価値観が多様化している社会で、こうしたソリューション提供に勝機はあるのだろうか。

 この「まるごとビジネス」を推進すること自体、パナソニックに過去のビジネスモデルの失敗の反省がないことを象徴していると筆者は考える。パナソニック衰退の主要因は、内製にこだわり過ぎたことにある。自社の技術を過信した面もあるだろう。薄型テレビでも主要なデバイスやソフトウェアは全て自前主義にこだわる「垂直統合モデル」を続けてきた結果、製品・技術の速いライフサイクルに対応できず、しかも過剰設備に陥った。それにもかかわらず、新たな戦略である「家まるごと」は住宅版垂直統合モデルだ。

 世界の産業界の潮流を見れば、「水平分業」や「オープンイノベーション」の時代に突入している。他社の技術を見極め、それを上手に使いこなす技術の目利きが重要な時代になっている。自動車産業においても、PC業界におけるインテルやマイクロソフトに相当するような巨大サプライヤーが出現したり、世界規模での開発効率化が進んだりと、流れが大きく変化している。

 消費者の多様な価値観やコスト削減、素早い商品投入といった矛盾することを同時展開しなければ世界での競争に負ける時代になり、垂直統合の優位性は失われつつある。米アップルに代表されるように、付加価値の高い商品企画や設計プロセスは自前で練りに練るが、部品やサービスは目利き力を生かして外部のリソースを取り込み、素早く消費者を囲い込んでバリューチェーンを構築できる会社が勝ち残っている。

 今のパナソニックからは反転攻勢に必要なビジネスモデルの刷新が感じられず、過去の栄光の延長戦でしか戦っていないように映る。もちろん、パナソニックに限らず多くの日本の名門企業が苦しむ要因は、しがらみが多過ぎ、おごりもあってビジネスモデルをゼロベースから再構築できない点にある。

 その姿は、カルロス・ゴーン氏が来る前の日産自動車の姿と全く重なってしまう。「技術の日産」や名門企業であることを盲信し、コストが高くて売れない車を造り続けても、役員を含めて皆が言い訳と小手先だけの改革に終始し、仕事の仕方をゼロベースから最構築できなかった。その結果、倒産寸前にまで追い込まれた。

 日産はルノーとの提携でビジネスモデルを大きく変えたことでよみがえった。パナソニックにその転機は訪れるのだろうか。


筆者紹介

井上久男(いのうえ ひさお)

Webサイト:http://www.inoue-hisao.net/

フリージャーナリスト。1964年生まれ。九州大卒。元朝日新聞経済部記者。2004年から独立してフリーになり、自動車産業など製造業を中心に取材。最近は農業改革や大学改革などについてもマネジメントの視点で取材している。文藝春秋や東洋経済新報社、講談社などの各種媒体で執筆。著書には『トヨタ愚直なる人づくり』、『トヨタ・ショック』(共編著)、『農協との30年戦争』(編集取材執筆協力)がある。



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