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実用化はどこまで? プリンテッド・エレクトロニクス業界の開発競争を読む知財コンサルタントが教える業界事情(12)(7/7 ページ)

印刷技術を応用した回路・センサー・素子製造の技術はどこまで進展しているか? 各国がしのぎを削る開発競争を見る。

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プリンテッドエレクトロニクスの今後

 現在でも、最新のプリンタブル・エレクトロニクスの技術を駆使すれば、フレキシブル面状発光体、フレキシブル・バッテリーなどの電子デバイスを形成することが可能であり、既に商品化も始まっています。その中で、近い将来にある程度の事業として立ち上がる可能性が高いものは何でしょうか。

 それは単体の電子デバイスというよりは、電子部品やモジュールに組み込まれたプリンティング・デバイスであろうと推察されます。例えば、「医療診断用の使い捨て型センサー・デバイス」に関わるものではないでしょうか。

 近年の医療用センサー・デバイスの発展は目覚ましいものがあります。しかも、感染症を防ぐため、既に医療用品は使い捨てが原則になっています。既にDNA診断センサーが登場していますが、医療の第一歩は診断ですから、今後もさまざま医療診断用センサー・デバイスの登場が推察されます*。

 そして、センサー・デバイスにはワイヤレス化が求められますが、ここにおいて電源の作り込みが技術課題となります。既存の電池では、デバイスが大きくなってしまいます。そこで期待されるのがプリンティング・バッテリーです(「ICカード内蔵可能な二次電池をNECが開発、回路基板と統合し厚さ0.3mmに」記事本文)

 これならば、基板上のスペースに合わせて、追加的に形成することもできます。プリンティング・バッテリーの試作例はまだ多くないようですが、信頼性が確認されれば、急速に普及し、安全性が確認されれば治療用医療機器に適用する発展も予測されます。ここでは、患者さんの日常生活の質の向上させる技術として注目されるでしょう。

 プリンタブル・エレクトロニクスでは、このような部分的なアプリケーションから参入して、大きな市場形成を狙う考え方が適しているだろうと推察されます。


* 医療分野向けデバイス開発 医療分野の事業開発を進めている企業にとっては、「人間の生死に直接関わることが少ないであろう健康診断用センサー」からの参入が一番無理のない市場参入法になると推察されます。


コラム:ロール・ツー・ロール(R2R)コート法の泣き所

「技術開発においては、製造方法に特徴を求めてはならない」と筆者は考えています。

つまり、「作るべきもの(プリンテッド・エレクトロニクスでは電子機器)に対する最良の製造法は何であるか?」という観点から決められます。

ですから、試作段階では、「良好な特性が得られる製造法」の探索が優先され、試作を乗り越えた量産を目指す段階では、「安価に製造できる方法」に目が向けられることになります。

特性が製品仕様を満足させるものであると分かれば、より安価な製造法が選ばれます。当然のことながら、試作段階から生産に必要なエネルギーの種類/量や環境に対する負荷までも考慮されなければなりません。

工場生産ラインの主役が「ベルトコンベアー方式」から「セル生産方式」へと転換したことを思い出してみてください。完成型としてのロール・ツー・ロール(R2R)コート法は、理想的なベルトコンベアー方式といえます。しかしながら、実際には以下のめどを得なければ、R2Rコート法量産製造装置の採用には踏み切れません。

  • コート法(液相)に適した材料を見いだすことができ、
  • コート法で得た特性が他の方法(例えば、気相法)で得られた特性に匹敵することが分かり、
  • 作製条件をきっちりと固定化することができ、
  • 既に大量需要が見込まれ、大量生産を必要とするときに、

初めて量産用R2Rコート法製造装置の採用に踏み切ることができます。

 ですから、大型量産装置への採用ではベルトコンベアー方式と同じ欠点を背負い込みかねないことを熟慮しておく必要があります。

 とはいっても、小型のR2Rコート法の試作機レベルがそのまま量産に使える場合には、とても有利な製造方法になります。Konarka Technologiesの有機薄膜太陽電池はその好例と捉えています。ちなみに、R2Rコート法の大型量産製造装置の好例は、銀塩写真フィルムであったと推察しています。



備考:分析仕様・条件

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。

データベース

項目 内容
海外および日本特許 CPA Global Discover(本稿では日本技術貿易株式会社のご厚意で試用しています)

分析条件
海外および日本特許 「インクジェット法による製造装置関連特許」に相当するIPC(国際特許分類)はありませんので、近似的に下記検索式を用いています(AND NOTを用い、インクジェットジェット・プリンタ関連特許は除かれています)
インクジェット法による製造装置関連特許の検索式:(B05B+B05D1/26+B05D5/12) ANDNOT B41J*

* それぞれの詳細は以下の通りです。
・B05B:霧化装置;噴霧装置;ノズル
・B05D:液体または他の流動性材料を表面に適用する方法一般
・B05D1/26:表面と接触,またはほとんど接触する排出口機構から液体または他の流動性材料を適用することによって行われるもの
・B05D5/12:特別な電気的特性を有する塗膜を得るためのもの
・B41J:タイプライタの種類または選択的プリンティング機構の種類、共通の細部または付属装置、インキリボン;インキリボン機構(B41J:インクジェット・プリンタに付与されるIPC)


 なお、日本特許についても同一特許データベースを使用しました。





筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。



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