実用化はどこまで? プリンテッド・エレクトロニクス業界の開発競争を読む:知財コンサルタントが教える業界事情(12)(6/7 ページ)
印刷技術を応用した回路・センサー・素子製造の技術はどこまで進展しているか? 各国がしのぎを削る開発競争を見る。
地域ごとのグラフで見えてくるもの
企業の特許出願への取り組みの背景を理解すると、図2から次のことが推察されます*。
第一に、日本ではPCの普及とともに、インクジェット・プリンタ市場が拡大したこともあり、早い時期からインクジェット技術のプリンタ分野から他分野への応用展開が検討されたものと推察されます。
とりわけセイコーエプソンは、インクジェット・プリンタで育て上げたピエゾ方式インクジェット技術の製造装置への転用に熱心であったことが分かります*。
一方の日本以外の地域/国については、2003年くらいまでは欧州の製造装置開発が先行し、2004年以降は技術開発対象が「目的とする製造対象物の製造方法の適用」へと変化していったものと推察されます。
それと入れ替わるように、2000年ごろから韓国や中国において、インクジェット法による製造装置技術に注目した特許出願が増加し始めたものと推察されます。韓国公開特許の出願件数には日本企業からのものが多く含まれており、日本企業は製造装置の開発当初から、韓国市場を意識していたものと推察されます。中国公開特許の出願件数の多くは現在のところ、日本や韓国の企業からのものです。
また、同じ2000年ごろから米国公開特許件数が急激に増加しているのは、米国市場を意識した各国/地域から米国への特許出願件数増加が反映されると同時に、米国内の大手企業や大学などの研究開発の活発化に伴う特許出願の活発化が進行しているためと推察されます。
以上のことから、もう間もなくプリンテッド・エレクトロニクスを掲げる電子デバイスが登場する時期になるものと推察されます。
セイコーエプソンの現在の経営状況を考えると、セイコーエプソンと東京エレクトロンとの今後の共同事業開発の主導権は、装置メーカーである東京エレクトロンに移行しているものと推察されます**。
* *特許が出願されてから公開されるまでの期間は通常は1.5年です。ですから、出願年の2010年はほぼ半期分の件数に相当しており、出願年の2011年は早期審査請求などで公開時期の早まった件数に相当していることにご注意ください。
** セイコーエプソンのインクジェット法による製造装置の動向 リンクも参照。
以降は、各国/地域ごとの集計結果です。なお、表では1998〜2011年の件数を集計しています。表の上には累積件数を記載しておきます。
コラム:インクジェット法による製造装置関連特許
この分野に相当するIPC(国際特許分類)はありませんので、近似的に下記検索式を用いています(インクジェットジェット・プリンタ関連特許は除かれています)。
- インクジェット法による製造装置関連特許検索式:(B05B+B05D1/26+B05D5/12) ANDNOT B41J
- B05B:霧化装置;噴霧装置;ノズル
- B05D:液体または他の流動性材料を表面に適用する方法一般
- B05D1/26:表面と接触,またはほとんど接触する排出口機構から液体または他の流動性材料を適用することによって行われるもの
- B05D5/12:特別な電気的特性を有する塗膜を得るためのもの
- B41J:タイプライタの種類または選択的プリンティング機構の種類、共通の細部または付属装置、インキリボン;インキリボン機構(B41J:インクジェット・プリンタに付与されるIPC)
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