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若手エンジニアたった1人のメーカー経営(後編)“理想の製品づくり”に挑む(3/3 ページ)

1人きりのデザイン家電開発秘話の後編。パイプの形状、熱対策や評価、量産、営業……さまざまな過程でのエピソードを紹介する。

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小ロット生産にも快く対応してくれた中小メーカー

 部品加工メーカーにとって小ロット生産の対応は、割に合わないことが多く、避けられてしまいがちだ。しかし、それでも製品の魅力や可能性に賭け、快く協力する企業の存在が、STROKEの製品化を後押しした。

 この製品では、先日の「全日本製造業コマ大戦」に出場した企業もかかわっていた。


STROKEの押し出し成型品と切削部品

押し出し成形部品

 LEDのベースとなる押し出し成型部品を製作した不二ライトメタルは、小ロットにもかかわらず、製作を引き受けてくれたという。そして八木氏と不二ライトメタルをつないだ企業が、心技隊メンバーの商社 エムエスパートナーズ。今回、同社のコストダウン提案の手腕も生きた。

切削部品

 アップル製品っぽいスイッチ部は、全日本製造業コマ大戦で優勝した由紀精密が切削加工で製作。同社は、航空・軍事・医療と幅広い業界の精密加工、特に“他社があまりやりたがらない”あるいは“対応不可能な”加工を得意としてきた。

販路開拓とブランディング

 「ようやく軌道に乗りつつあります。でも、一気に成長できるというところまではまだ来ていません」と八木氏。現在は、自社Webサイトのネット通販のみだが、リアルなショップでの販売に向け営業中だという。「ブランディングを含んでいるので、店舗さんとはじっくりお話をさせていただいています」。

 このライトの価格は、3万9900円。デスクライトにしては、少々高価な部類だ。それゆえに、安価な製品が並ぶ量販店では、その価格が目立ってしまう。故に、高級なインテリアショップ、いわゆる“デザイナーズ”といわれる店舗を中心に回っているという。すでに、具体的に話が進んでいる店舗もあるとのことだ。

「この値段でも、『安い』と言ってくださった人も少なくありません。そういう人たちに売れていけば、それが小規模であっても、自分としては十分なマーケットです」(八木氏)。

海外展開はあるのか

「STROKEはターゲットを絞った製品なので、国内だけではなく海外にも広げて台数を稼ぎたいと考えています」(八木氏)。

 STROKEは、海外のインテリア雑誌でも取り上げられ、引き合いもきたという。しかし海外で売るには、当然、国ごとの安全規格をクリアしなければならない。技術的には問題なくクリアできるものの、各国の規格取得のためのコストをかける余裕がないというのが正直な状況ということだ。

 しかし、STROKEの販売が軌道に乗り、売り上げが伸びてくれば、すぐに安全規格を取得して、海外展開したいという。

これから作りたい製品は?

 現在の八木氏はSTROKEの販路開拓に奮闘しているさなか。まずは、現行のSTROKEの販売を軌道に乗せることに集中しているという。一方で、次機種や新製品の構想も進んでいるとのことだ。カラーバリエーションやサイズ違いのデスクライトを望む声も多いという。

「最初は、空間に溶け込むマットな白にしました。黒やメタリックの要望も多いのですが、存在感が出てしまう色でもあり、慎重に検討しています」(八木氏)。

 また、有機ELがLEDと比べて性能やコストが同等、もしくは有利になれば、「有機EL版 STROKE」もあり得るそう。現行のSTROKEでは、将来、有機ELが取り付くことも考慮して設計しているという。

「生活の質をベースアップする生活家電を作りたいですね。具体的にはまだ明かせませんが、デスク周りの小型家電を計画中です」(八木氏)。


ビーサイズ 代表取締役 八木啓太氏

経営は、どう学んだのか

 実務経験が4年に満たない若手エンジニアが、製品の設計から量産、販売まで、全てをこなすという現実は、一昔前では、非常識なことだったかもしれない。

 「今までのメーカーの定義からはみ出したところで、実際に量産、販売していることは、これからの新しいメーカーの在り方として、1つのブレイクスルーになるのではないでしょうか」(八木氏)。

 たった1人で、しかもこの期間で、どのように業務を回し製品をリリースしたのか。そして現在は、どのように業務を切り盛りしているのか。やはり「寝る間も惜しんで仕事をこなしているのか」と尋ねたところ、以下のような答えがあった。

 「“寝ないとダメ”なタイプなので、毎晩しっかり睡眠を取っています(笑)」(八木氏)。実はこの部分、彼の経営思想においても重要な部分だ。

 現在は、“全部自分でやること”で経費を節約しているという。それはすなわち、「自分の能力の限界」イコール、「会社の限界」ともいえる状況だ。しかし経営者が無理をするのではなく、人や企業とうまくコラボレーションするなどの方法論でもって企業としての能力を上げたいと八木氏は考えているという。

 実は、経営について、“ほとんど知識なし”で創業したという。

 「体当たりの経営という感じです(笑)。いまも試行錯誤しながら勉強をしています。リアルな実践の場で学ぶのはとても面白いですし、身になります。今後は、もっともっと知識や知恵を付けて、より円滑に事業が運営できるようにしていきたいです」(八木氏)。

 現在はたった1人で、従業員がいないことで、マイペースに経営が学べているという側面もあるようだ。

 この先も当分は八木氏1人なのかもしれないが、将来は社員を増やしたいと考えているという。組み立てスタッフも近く募集する予定だとか。

「STROKEの組み立ては、プラモデル感覚で、誰でもできるようにしてあります。スタッフのレクチャーのために、動画を含む作業手順書も作っています。将来は、機械設計の専門家、回路設計専門家など優秀な仲間を迎え入れ、チームでよい製品を作っていきたいですね。私は、デザインや設計、コンセプトメイクなどで開発にも参加しながらも、チームを束ねるプロデューサー(指揮者のような)のポジションになると思います」(八木氏)。

日本発モノづくりで、世界にひと泡ふかそう

 「自分がメーカーの経営者として参考にしているのは、スティーブ・ジョブズ氏やジェームズ・ダイソン氏」と八木氏。「経営者の哲学が、会社全体に浸透し、社内の人たちが同じ理念で設計ができることが、結局、いい製品作りにつながっていると思います。組織間のつまらない理由で、社内の思想がブレブレになると、誰も欲しがらない製品しか出てこないのではないでしょうか」

 

 「今日の日本で、メーカーを起業し、成長させて、今の大手企業の代役を担うというストーリーにはあまり興味がない、むしろ国内に、面白い個人や小さな企業がポツポツとたくさん登場し、それがモノづくりの大きなムーブメントになっていけば……」――八木氏はそう願っているという。

「“良いもの安く作ること”も必要です。その一方で、イノベーションも必要です。私としては、後者に一石を投じたい。新しいモノづくりの在り方、新しいユーザーとの関係性を築き上げ、もう一度世界をリードする“モノづくり日本”にしたいですね!」

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