僕が理想とする設計会社を作ってみた:【企業訪問】伊那の若手設計集団 スワニー(1/3 ページ)
10年間メーカーを渡り歩いてつかんだ、自分なりの“モノづくり道”で、実家の事業を生まれ変わらせる!
本記事では、10年間幾つかのメーカーを渡り歩いた後に、長野県で実家の事業を継いで新装開店し、明るく楽しく苦しみながら設計業を切り盛りする30代経営者の奮闘をお伝えする。記事後半では、生き生きとした設計者修業のエピソードも紹介する。
「あなたにとってのモノづくりとは、何でしょう?」
いま、多くの日本メーカーで失われてしまった、大事なことを考えてみたい。
伊那の自然に囲まれた設計会社
スワニーは、長野県伊那市にあるスタッフ10人ほどの設計会社だ。最寄り駅の電車の本数は、1時間に1、2本ほど。伊那の自然と畑に囲まれた建物にその事務所はある。「掘っ立て小屋みたいでしょー」と同社の3代目社長である橋爪良博氏は笑う。
しかし、その中は最新鋭の造形・切削装置が並び、設計室にはミッドレンジからハイエンドまで、数種の3次元CADやCGツール(クレイモデラー)が導入されている。ハンディ3次元スキャナも備えている。
同社では、世の中の3次元ツールやサービスの最新動向には常にアンテナを張り巡らせていて、それが有効だと判断すれば、即座に導入する。クラウド型データ共有コミュニティー「ZYNCRO」、3次元プリンタ「Connex 260」(Objet)の日本ユーザー1号でもある。大企業が稟議のスタンプラリーを繰り広げる間に、経営者が思い立ったら即購入できるというのも小さい企業の利点だ。
スワニ―ではさまざまなメーカーから依頼されて部品や筐体を設計しており、プリンタ、プロジェクタなどのOA機器、アミューズメント機器関係の仕事が多いという。
また3次元スキャナを用いたリバースエンジニアリングサービスも提供している。その対象は工業部品だけではなく、芸術作品、人間と多岐にわたる。その目的もユーザー次第で、産業機械の設計分析、文化財保護、はたまた個人の思い出作りのためと実にさまざまだ。3次元スキャナで取り込んだ対象物が、ポンと3次元データになって、そのまま造形できるわけではない。スキャナが取り込めるデータには限界があるので、クレイモデラーやCADによる作業で丁寧に修正しなければならない。この作業には、多少のコツやスキルが必要だ。
上記のような顧客から請け負う案件とは別に、スワニーでは自社独自の“企画モノ”にも取り組もうと動いている。
橋爪氏がスワニーの代表になり、同社が塗装業から設計業へシフトしてからまだ1年ほど(記事公開時点:橋爪氏は2010年夏に代表取締役を引き継ぐ)で、まだまだこれから。今後は自社開発製品に力を入れていき、既存の枠にとらわれないことをしていきたいということだ。
“俺自転車”の試作
こちらは第21回 設計・製造ソリューション展(2010年6月開催)の展示用として、橋爪氏の自転車好きが興じて作ってみた試作品。同社がデザイン会社のディビジョン・エンジニアリング、試作メーカーのイクシスと協業して作り上げた折りたたみ式自転車(フォールディングバイク)だ。
メーカー勤務時代、自転車通勤をしていた頃を思い出し、自分が欲しかった自転車を具現化することを試みた。世の中にある折りたたみ自転車は、公共機関などで持ち運びするには「まだまだかさばる」「重たい」と橋爪氏は思っていた。もっと小さく折りたたみできないものかと、既存の折りたたみ方や強度にとらわれずに自由に模索してみた。1:1で作りたかったが、展示会場のテーブルに乗らないと言われ、仕方なくスケールダウンして製作。
「小さな企業も3社集めれば、大企業並みのことが、しかも短期間できるかもしれない」ということで取り組んだという。その企画・設計・製作の期間は、約3週間。あくまで「小さい企業の可能性」をアピールするための試作品であって、製品化はまったく考えていないという。
展示会では、自転車メーカーの人が何人か来て、「特許や意匠登録はしたのか」と尋ねられた。その答えは、ノー。せっかく考えたのに、他社にマネされたらどうするのか。橋爪氏いわく、「これから、もっともっと面白い物を作るからいいんですよ!」ということだ。この自転車を作った分、自分は3人分の仕事をして食いつないだと話した。
こちらは、同社の会社案内のイメージとしても使われている。
3次元スキャンの面白サービス
同社の独自性が高い3次元スキャン事例としては、橋爪氏の知人のエステサロンのイベントで、人の顔をスキャンして、そのデータを基に美顔をレクチャーするということがあった。3次元データは、写真で見るよりも、自分の顔の作りを直感的に把握できる効果で、訪れた人たちにも好評だったという。
橋爪氏は、ペットをスキャンして出力するサービスも模索中。自宅の犬で実証して、「何とかいけそう」という感触はあったという。しかし、それがビジネスとして立ち上がるかどうかは未定とのことだ。
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