若手エンジニアたった1人のメーカー経営(後編):“理想の製品づくり”に挑む(2/3 ページ)
1人きりのデザイン家電開発秘話の後編。パイプの形状、熱対策や評価、量産、営業……さまざまな過程でのエピソードを紹介する。
熱の問題
八木氏が富士フイルム在職時代に手掛けていたのは医療機器だった。「医療機器は処理が重く、発熱量が多くなります。その上、患者さんの身体に直に触れるものなので、一般の民生機器と比べて、熱の規制が非常に厳しくなっています。許容される温度上昇が、わずか数度しかないのが普通です」(八木氏)。
富士フイルム時代、八木氏は設計のたびに熱対策に悩まされてきた。厳しい条件の中で培われた放熱対策の知識は、STROKEの設計でも生かされることになった。
STROKEが採用するLEDモジュールは、演色性の高さ故に発熱量が多い。しかも基板が非常に狭い。しかもそれが狭いパイプの中に押し込められている。とことん、熱には不利な状況だ。
「例えば、放熱対策として筐体のパイプに穴を開けるなどの対策が考えられますが、それはデザイン的に許せなかったですね」(八木氏)。
彼は、筐体パイプの内部に、LEDモジュール側から逆端(上部曲げ点)まで熱伝導材を通すことで、筺体全体に熱を散らす構造にした。
「“あれ”(何かは内緒)をLEDデスクライトに使うなんて、コストは掛かるし、非常識。しかし、このデザインを実現するにはそれしかなかったんです」(八木氏)。
熱伝導材をセットするベースは、アルミの押し出し成形品。熱伝導材とR溝のクリアランスは極力小さくなるように設計。アルミのベースへも効率よく熱が逃げる形状にした。
熱の評価については、実験がメイン。安価な熱電対を使ってピーク温度を丹念に測定していったという。
「まず手計算でざっくり算出して、『おおよそいけそうだな』と思ったら試作するというスタンスでした。CAEソフトで、熱の問題を解いておけば、試作もせずに済んだのかもしれません。でも、手が届く値段のCAEソフトがなくて……。何とか買えるCAEソフトがないか、結構探した時期もありましたが、今回は試作している方が安くつきました……」(八木氏)。
とはいえ今後は、資金に余裕がでてくれば、いいCAEソフトの導入も検討したいという。
金型も作成
STROKEの各部品は、スタート時に100台分用意。ただし、切削部品や押し出し成型部品、樹脂製ブラケットなどは300台分として、なるべくコストを下げた。初期ロットを使いながら、注文数に応じて、部品在庫を増やしていく。
アルミの押し出し成形で作った熱伝導材のベース、樹脂射出成形で作ったブラケットについては、生産数が少ないながらも金型を製作した。
「いずれ売れてくれれば、そこで掛かった金型代も償却できます。一部の部品では“それが最適”だと思い切って金型を作りました」(八木氏)。それは考え尽くして無駄を排除した、“それ以上も以下もない”形状故に、できた選択ともいえそうだ。
評価や梱包はどうしたのか
製品を市場に出すからには、問題のない商品を作らなければならない。市場に出すための評価は一通り実施したという。
「一番過酷な試験は、気温85度、湿度85%、連続点灯40日間という熱耐久試験です」(八木氏)。
評価設備は、個人にとってはレンタルであっても非常に高価だ。そこで、八木氏はネット販売で、肉まんの販売などに使うウォーマーを3万円ぐらいで購入し、それを改造して評価装置を用意した。
「評価に必要な環境さえ正しく再現できれば、どんな装置でもいいんです。これも普通のメーカーではあり得ないことですが、そうやって節約をしながら、“ 1人なりのやり方”をしました」(八木氏)。
梱包設計
梱包デザインも、八木氏自身によるもの。こちらも、アップル社を意識したようなデザインになっている。
箱を等角投影っぽく置くと、ビーサイズのロゴのようになる。「本当は、正方形にできればよかったんですけどね(笑)」(八木氏)。
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