ガラスと樹脂で作った電池、リチウムを超えるのか:スマートグリッド(3/3 ページ)
イーメックスはリチウムイオン二次電池と似た新型電池を開発した。「高分子・ガラス電池」と呼ぶ。20年以上利用でき、低コスト化が可能だ。さらに充電時間が数分と短い。これはリチウムイオン二次電池では実現が困難な優れた性質だ。どのようにして新電池を実現したのだろうか。
ガラス会社がなぜ負極材を作ったのか
高分子・ガラス電池の負極に使った金属硫化物ガラスは、五鈴精工硝子が産業技術総合研究所(産総研)と共同で開発した材料*4)だ。「当社は光学用途のガラスを開発、製造している。今回のガラスは赤外線のみを通す性質があり、産総研の光学グループと長年共同開発を続けてきた。あるとき、産総研の電池グループと情報を交換する機会があり、『硫化物がリチウムイオン二次電池の負極材として適しているのだが、どうもうまくいかない』という話を耳にした。そこで安定性の高い当社の金属硫化物ガラス(図3)を利用することになった」(五鈴精工硝子)。
*4) 開発した金属硫化物ガラスは、窓ガラス(青板ガラス)などとは全く組成が違う材料だ。Sn(スズ)やSb(アンチモン)、S(イオウ)が主成分であり、この他にもう1種類の金属元素が含まれている。負極としての性能にはスズとイオウが効いているという。
図3 金属硫化物ガラスの粉末 五鈴精工硝子が産業技術総合研究所と共同で開発した材料である。数μm系の粉末として使う。2011年10月に開発に成功したことを発表。現在、サンプル出荷中である。出典:五鈴精工硝子
硫化物が優れるのは、Li+の吸蔵(吸い込む)能力が高い点だ。リチウムイオン二次電池が使うグラファイトでは1g当たりの放電容量は最大372mAhだ。それに比べて、今回の材料は約1400mAh(30℃)と高い。
産総研の問題意識はこうだ。従来の硫化物は充放電サイクル特性(寿命)と低温特性に難があった。
充放電サイクル特性は、先ほど説明したように膨張収縮にいかに耐えるかで決まる。「原子がガラス構造(ガラスマトリックス)を形成したときは、金属酸化物結晶とは違い、いびつな形をしており、いわば『緩衝作用』がある。今回の金属硫化物ガラスとSi(シリコン)との複合体では、Li+を吸蔵すると元の体積の2.5〜3倍に膨らむが、非破壊だ」(五鈴精工硝子)。これで充放電サイクル寿命が伸びた*5)。
*5) 低温特性も向上しており、放電容量は約1000mAh/g(−5℃)、約600mAh/g(−20℃)と悪くない。ただし、なぜ改善できたのかはよく分かっていないのだという。
正極材料、負極材料とも充放電による変形作用を受けにくいため、容量維持率90%を満たす充放電サイクル寿命は1万回以上と長い*6)。これは通常の電池の使い方では20年以上の寿命に相当するという。
*6) 性能を検証した実験(サイクル特性テスト)では、1C(1時間で放電)で1万サイクル後の容量維持率が90%以上だった他、125C(約30秒で放電)という高電流でも1万サイクル後の容量維持率が30%だった。電解質にはECとDECを用いた。
コストダウンも可能
高分子・ガラス電池の性能が高いことは分かった。だが、このような材料を使って安価に電池を製造できるのだろうか。
正極の導電性高分子は、フィルム材であるため、イーメックスによれば、ロールツーロール法で量産でき、リチウムイオン二次電池のリチウム金属酸化物正極と比較して、10分の1のコストで製造できるという。このため、Wh当たりの電池セルの製造コストは20〜50円になるという。
負極についてもコストアップ要因は見当たらない。「当社独自の材料ガラス化プロセスは必要だが、それ以降の製造工程、ガラス粒子*7)とSiの複合体にバインダーや電導助剤を入れてスラリー化し、電極に塗布後、乾燥するという部分は、グラファイトを用いた通常のリチウムイオン二次電池と同じだ」(五鈴精工硝子)。
*7)ガラス粒子の平均粒径は平均4〜5μm。なお、カーボンは使用していない。
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性能向上よりもコスト低減を狙う