消防署には電池が必要、IHIが高性能電池開発の米社と組む:スマートグリッド
IHIは東京消防庁から高温に強い蓄電システム83台を一括受注したと発表した。1台当たりの容量は8.4kWh。IHIは2009年に提携した米A123 Systemsとの関係を深め、11月8日に増資の引き受けの他、技術ライセンス契約とセル供給契約を締結したばかりだ。
震災や停電など緊急事態が起こったときに素早く活動しなければならないのが警察や消防署だ。従って、家庭や一般企業以上に電力不足への備えがなければならない。
IHIは2011年11月17日、東京消防庁から「リチウムイオン蓄電システム」(蓄電システム)83台を一括受注したと発表した(図1)。受注価格は4億円弱(1台当たり約480万円)。2012年3月までに納入する。
東京消防庁は、麹町消防署をはじめ、都内33カ所の消防署に蓄電システムを設置する。東京消防庁が2011年11月14日に実施した入札条件では高温に強い二次電池であることが条件だった。具体的には(蓄電池の)「安全性を考慮し、高温等の温度変化においても化学反応をしない安全な材質を用いたオリビン型構造リン酸鉄リチウム電池*1)」というものだ。
この条件に合致したのがIHIの二次電池だった。今回の東京消防庁からの受注は、IHIのリチウムイオン蓄電システムの初受注であるという。
*1) 正極材料にオリビン型の結晶構造をとるLiFePO4(リン酸鉄リチウム)を用いた二次電池を指す。同材料はLi(リチウム)以外には高価な金属を含んでいないため、部材コストを低く抑えることができる。全てのO(酸素)とP(リン)が強い共有結合で結びついているため、結晶構造が安定しており、満充電時、高温時、長期使用時でも電池の劣化が少なく安全である。国内ではソニーが同材料を使った二次電池システムを製品化している。
蓄電システムの機能は3つ。非常時蓄電池機能と無瞬停機能、ピークシフト機能である。
非常時蓄電機能は、商用電源が停電した場合に、蓄電システムから3時間程度の電力(8.4kWh)を供給するというもの。無瞬停機能は、停電時に電源が途絶えることなく、蓄電システムから電力を供給する機能であり、いわゆるUPSとして利用できる。ピークシフト機能は東京電力の商業用電力から蓄電し、昼間など需要の高い時間帯に放電し、電力消費量の平準化を狙う機能。計画停電など電力事情が悪化したときにも役立つ。
米A123Systemsの技術を利用
蓄電システムの電池技術は、米A123 Systemsとの共同事業契約によるものだ。
A123 Systemsは2001年創業の二次電池専業メーカー。微細なLiFePO4正極材料(ナノフォスフェイト)を手掛けており、2011年7月に北米で発売された米Fisker Automotiveのスポーツカータイプのプラグインハイブリッド車(PHEV)「Fisker Karma」に採用されている。米General Motorsが2013年に発売を予定しているEV「Chevrolet Spark EV」にも採用される予定だ。
IHIは輸送や電力、産業機器、船などへのリチウムイオン二次電池の供給力を高めるため、2009年10月にA123 Systemsと共同事業契約を結んでいる。2011年11月8日には、リチウムイオン二次電池事業の拡大のため、A123 Systemsの第三者割り当て増資に応じて、2500万米ドルを引き受けた他、技術ライセンス契約とセル供給契約も締結している。
IHIは、今後、電池モジュール製造を含む電池システム供給拠点を増強する計画だ。当初の「輸送や電力、産業機器、船」に加えて、EV市場を狙う。さらに産業用と向けの標準電池パックを開発し、サンプル提供を進めており、2012年度から量産を開始する。
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