IE専門家、インドで工場を立ち上げる:日産の生産現場を読む(1)(2/3 ページ)
グローバル体制の実現と高利益率を目指した日産のインド工場立ち上げは一筋縄ではいかなかったようだ。中国とも東南アジアとも違うインドでIE専門家が見たものとは?
IE専門家・インドに行く
本レポートで紹介する日産自動車 生産事業本部 NPW推進部 NPW改善コンサルティング室 市川博氏は、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の専門家だ。
座間工場などで各工場のスタッフに指導を行う「改善塾」を開校するなど、同社の生産現場改善活動に貢献してきた。前述の通り、2001年からの4年間はNPWをルノーに展開、2009年にはインド工場の立ち上げに参画している。セミナーではこのインド工場立ち上げの経験を披露した。
日産のインド工場は首都デリーがある北部やIT産業が集積する南部高地のバンガロールとは遠く離れた、南東部、チェンナイ(タミールナード州)に位地する。近代化が進む北部や高地の都市部とは異なるようだ。
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「都市部であるデリーやバンガロールでは洋装のインド人が多いが、チェンナイは比較的保守的な地域。多くの女性が伝統衣装であるサリーを身に着けている」
この地域ではインドの「連邦公用語」であるヒンディー語や“インド英語”もほとんど流通せず、一般にはタミル語のみが流通している。デリーやバンガロール、ムンバイといった都市部と比較して近代的ではない部分も少なくないようだ。
「現在の自動車生産においては工場間や完成車輸送のロジスティクスが戦略的に重要な要素になっているが、チェンナイではこの部分にまだ改善の余地が多い」というように、市街地の交通渋滞や道路整備の遅れは今後の課題となっているようだ。
例えば、市街地の渋滞が解消されず部品の輸送が1日遅れたり、港に向かう道路が2日間渋滞したり、あるいは、道路整備が整っていないルートでは部品を乗せたトラックが横転してしまうといったアクシデントも少なからずあるようだ。
1日に数回の定期便で部品供給を受けるような生産計画を立てることの多い自動車生産において、こうしたアクシデントは頭の痛い問題のようだ。現在は、現地に立地する業界全体として、交通インフラ整備を州政府に働きかけているという。
ともあれ、チェンナイは東南アジアの自動車工場ともいわれるタイから飛行機で3時間ほどと、インド国内でチェンナイ→デリーの移動とさほど変わらない時間で移動ができるという地理的特性を持っており、近郊のトラック輸送系のインフラさえ整備されれば、自動車メーカーが戦略拠点を置くのに適した場所といえる。今後の市場の発展も見据え、チェンナイには日産だけでなく、フォード、BMW、ダイムラー、現代自動車なども生産拠点を置いている。
インド工場立ち上げは絶対に“遅れます”
工場の立ち上げは、日本、フランス、インドはもちろん、イギリス工場からも応援が駆け付けた。日本の追浜工場と同様、英サンダーランド工場も、日産を代表する生産管理能力を持つ工場とされており、工場の技術者は高い機能を持っている。
工場立ち上げは、建屋建築の段階から苦労の連続だった。さまざまな現場に立ち会ってきた市川氏は「夢にまで見た垂直な柱、水平な梁、平らな床」と、そのときの苦労を振り返る。
「これからインドで工場を立ち上げようとしている方に、これだけはいえます。インドでの工場建設は絶対に遅れます」
給料前払い制の作業、遅れに遅れる
現地業者にはまず、工程管理による効率化といった思考が希薄だった。
「当初は大幅な工期の遅れが発生したが、この地域は近代化に遅れていることもあり、工程管理や納期遵守の概念が希薄だった。というのも文化的差異によるものだが、日々雇ってくる工夫に、集合段階でその日の賃金を与えてしまう」
そこで、まず賃金の支払いを作業後に変更、朝礼を実施してその日の作業段取りなどを明確に指示するように変更させた。それだけではない。「工程管理の概念も希薄で、傍で見ていてもムダな時間が多かった」という。
さすがにIEの専門家だけあって、市川氏らは工事に立ち会うだけではいられなくなり、専門知識を駆使して作業分析を実施、後期を短くするための提案を作成して作業会社に掛け合うこともあった。
下の図は、工程改善の概念を伝えるために用意したものだという。
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