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IE専門家、インドで工場を立ち上げる日産の生産現場を読む(1)(1/3 ページ)

グローバル体制の実現と高利益率を目指した日産のインド工場立ち上げは一筋縄ではいかなかったようだ。中国とも東南アジアとも違うインドでIE専門家が見たものとは?

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 日産自動車では、自社の生産方式「NPW(Nissan Production Way)」を基にした改善指導を事業として展開している。その一環として、同社の海外工場立ち上げノウハウを一般に紹介するセミナーを定期的に開催している。本稿では、2012年1月24日に開催されたセミナーの内容の一部を紹介する。

新しい中期経営計画「NISSAN POWER 88」

 日産自動車は2011年6月に新しい中期経営計画「NISSAN POWER 88」を発表している。

 ごく大まかにいうと、ブランド力・セールス力の向上を図り、2016年度までにグローバルでの市場占有率を8%に、営業利益率を8%にする、というものだ。

 新車投入計画では、2016年度までに51車種という目標を掲げている。大量車種投入は、セグメントカバー率を100%まで高めるためのものだ。ボディタイプ別で見ると、2011〜2016年度の間に51車種、新規生産モデル数にして171ものモデルを投入するという。

 タイで生産されたマーチが日本に輸入された際は大きなニュースとなったが、これはグローバルで大量に販売することを目的に開発された「Vプラットフォーム」をベースとしている。現在はマーチと、サニー(ヴァーサセダン)がこのプラットフォームを採用しており、2010年度段階で同プラットフォームを使った車両の生産台数は13万台だった。「NISSAN POWER 88」では、さらにもう1車種を同プラットフォームに乗せ、2016年度には全体で100万台規模に拡大していくとしている。グローバル共通のプラットフォームであるため、それぞれの部品については、現地化率を90%まで高めるとしている。

 一方で、日本国内での生産100万台維持も堅持している。しかし、日本生産を継続するためには、先の中期経営計画時点から導入を進めているLCC(リーディング・コンペティティブ・カントリーズ)部品の積極採用は加速させるようだ。円高の為替リスクを考慮した海外生産車両部品の現地調達率を高める方針だ。

グローバル販売網の強化

 プラットフォーム1つで100万台を実現するには、販売網の強化は必須だ。同社では2016年度の販売比率に占める新広告市場の割合を全体の60%にまで高めるとしている。

 その内訳のなかでも、現在、同社の販売台数をけん引しているのは中国だ。中国エリアでは既に東風日産が一定のシェアを持っており、都市化の進んだ沿海地域だけでなく、今後市場の伸びが期待される内陸部にもきめ細かな販売網を持っている。現在、中国における市場占有率は6.2%だが、2016年度に占有率を10%まで高めるとしている。また、メキシコ工場建設の報道にあったように*、南米での生産能力増強に投資する。同じ南米市場でもブラジルについては現在の市場占有率が1.2%と出遅れているが、新工場建設を進め、生産能力を20万台まで高めるとしている。同時に販売ネットワークも強化し、市場占有率を5%以上にするもくろみだ。BRICsの一翼をになうロシアではアフトワズへの追加投資も予定されている。

 後述するインドについては、チェンナイ工場が稼働しており、新型車5車種を立ち上げる。販売網の強化も並行して行うとしている。



利益率向上

 同中期経営計画では、グローバル全体で、利益率を8%に高めることを目標としている(2011年度上期で営業利益率7.1%)。

 これには日産生産方式の根幹である「同期生産」の拡大が大きく寄与することになるだろう。同期生産については次回紹介することにして、ここではグローバル生産と海外工場の立ち上げ、日産生産方式のグローバル展開について見ていくことにしよう。

まさに”文化衝突”の中で見えてきた「日産のDNA」

 日産は、1960年に北米日産を、翌1961年にはメキシコ日産を立ち上げており(1966年生産開始)、海外への生産技術転写については一定のノウハウを蓄積してきた。しかし、「あらためて日産のモノづくりの核となるものは何かを整理するきっかけとなったのはロシア工場の立ち上げだった」という。日産では2006年にはロシアのサンクトペテルブルグに新車両組立工場建設を決定、2009年に生産を開始している。

 サンクトペテルブルグ工場立ち上げに参画した日産自動車 生産事業本部 NPW推進部 NPW改善コンサルティング室 市川博氏は、日本の生産現場の常識が通じないことを痛感、日産自動車の品質を維持するためにも、海外に製造ラインを転写するための要件を整理する必要に迫られたようだ。

 ここで、「日産のモノづくりのDNA」として掲げられている5項目を紹介しよう。

  1. 5S
  2. 標準化
  3. 作業者が考えた改善
  4. 協働とチームワーク
  5. 人材育成

 これら5項目のうちでも、市川氏は何よりもまして5Sの重要性を強調する。

 市川氏はスズキのインド工場(マルチ・スズキ・インディア:もともとはインド政府とスズキとの合弁会社)に足を踏み入れた際に「そこだけは日本の工場」との印象を持ったという。

 人と動物、自動車が行きかう雑然とした街並み、のんびりとしたインドの人々の印象からすると、整然とした工場内の光景は驚くべきものだったそうだ。

 現地のインド人スタッフが活動する工場内がどうして日本のようなのか、全く分からなかったが「実際にスズキから出向いている担当者に聞くと、スズキの生産現場は『やっぱり5Sが全ての基本』という回答だった」という。

 市川氏は、仏ルノーとのアライアンス後、ルノー側の工場に指導に行っていた経験もある。

 「ルノーの製造現場には、作業者が作り込んでいくという概念がなかった。むしろ、ラインを止めてまで何かを改善しようとすることは害悪のように考えられていた。それ故に、3つ目の『作業者が考え改善』は明示的に盛り込む必要があった」という。

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