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平たいポメラ DM100の薄型・軽量設計の軌跡隣のメカ設計事情レポート(8)(4/4 ページ)

これまでのポメラと大きく形状が変わった、平たい「DM100」。その機構設計も大きく変わった。その薄型・軽量設計の貴重な資料を大公開。

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落下強度

 DM100の下筐体ユニット側面にあるタブは、落下試験ではたびたびネックになった。

 以下のように、A社の提案を基にタブの開口部周辺のリブを変更し、衝撃に強い構造とした。


左は量産試作時の上下キャビ、右は製品の上下キャビ

A社による修正提案

ある程度開くと、倒れる……

 手作り試作の時点で、既に目標だった「399g以下」をクリアしていた。そこで、1つの問題が起こった。

 あまりに軽過ぎて、LCDのふたを開くと、後ろに転びやすくなってしまったのだった。そこで、手作り試作時から、キーボード側筺体の下部にあるゴム足を後部(LCD側)になるべく寄せ、かつその筺体の中に8gほどの金属部品を配置。

 「できる限り軽くしたい」と考えていた立石氏は、この部品が採用されたことに不満だったと言う。

 手作り試作時で、この部品を含めても399gは切っていたと言うが、マグネシウムのトップパネルの重さのばらつき(後述)を考えれば、なくしておく方がベターだった。

 実際は、量産試作の部品では、ゴム足位置の変更や、内部パーツの配置調整などで、手作り試作時の重心バランスを調整したことから、筐体が容易に転んでしまう問題は解消されていたという。おもりの金属部品を取るか取らないかは、量産本番直前(2011年9月ごろ)まで議論され、最終的には撤去された。


ゴム足形状の検討。量産試作時

 その結果、LCDのふたを145度まで開いても転倒しづらくなってくれた。従来のポメラのように180度開くことはできなかったが、これは薄型設計された機構の都合だった。実際、180度広げて使うことはほとんどないため、145度も開けば十分であると判断した。

ミシミシ音

 量産試作では、もう1つ問題が出てきた――筺体を手に持って、少しひねると、ミシミシ音が鳴ることだった。ちょっとやそっとで破損はしないものの、少々危なっかしい。しかし部品はもうこれ以上、肉付けするのは避けたいところだった。

 そこで、この“ミシミシ”の原因となっているキーボード側筺体の上下ケースを勘合するツメの数を増やしていくことに。キーボード側筺体について、具体的には爪は2本増やし、転び止めの金属部品(前述)が入るスペースは、軽量化・強化のために16本のリブを設置(下図)。

 結果、現在市場に出回る筺体のように、ひねってもしなってくれる構造となった。

成形性

 肉抜きしまくった超薄型部品の射出成型で、トラブルは起こらなかったのか。

 実は、B社によって、切削部品での試作時点で既に、成形性を考慮しながら形状が考えられていた。これも、同社の長年の経験のたまものだった。さらに、そこに中国のA社が得意とする射出成型技術も加わり、樹脂の成型については、クリティカルなトラブルは起こらず、たまにソリに悩まされる程度だったということだ。

 マグネシウムダイキャストについては、寸法精度面が少々悩ましかったそう。寸法というか、重さの問題だった。寸法のバラツキによって、最大で±8gほどばらついたと言う。こちらは、バリを撤去しつつ、最大バラツキを考慮してほかの部品をさらに軽量化していったとのことだ。

筺体の塗装

 DM100は、特に、ポメラのヘビーユーザーにターゲットを絞っている。故に、「落ち着きがあって」「飽きのこない」色ということで、“深みのあるマットブラック”にしようと立石氏は考えた。

 「DM100のマットブラックの塗料は中国メーカーの塗料ではなく日本メーカーの塗料です。コスト的には割高です。しかし、どうしてもこの色にしたいと考え、この色を選択しました」(立石氏)。

 キーボード部分はつやのある黒を使い、たたんだときはマットブラックにつやブラックが挟まれているテイストにしたという。黒の塗装で、よりつやを出すためにUVコートを掛けた。

 特に、トップパネルのマットブラックは、均一に塗装することに苦労したという。

 「開けていただくと分かりますが、LCD部までトップパネルが回って、表面に見える形になっています。表面だけを塗装するのではなく、裏面に掛けても塗装しなくてはなりません。少しだけ、全周のエッジ部がえぐれているような形状になっていますが、ムラになるのを防ぐために塗料を濃くすると、このエッジ部分がダレてしまうことにも悩まされました」(立石氏)。

 またトップパネルは、従来機 DM10トップパネルと同様に、つやブラックを塗装した上に、DM100ではさらにコーティング塗装しているので、手間が2倍になったと言う。ヒンジ部分は別パーツに分け、つやブラック部分を塗り分けられるようにした。


トップパネルの背面

こぼれ話「歴代ポメラのコードネーム」

 ポメラの開発コードネームは、代々、天然石の名前が当てられてきた。今回のDM100は、「オニキス」(縞めのう)。

 過去バージョンのコードネームは、以下。

  • DM5 シトリン(黄水晶)
  • DM10 スピネル(尖晶石)
  • DM20 ジャスパー(碧玉)

 ただし、ガンダムモデルの「DM11G」は例外で、「チベ」だった。


国境を越えた仲間と、新しい仲間と

 DM100では、ポメラチームにB社という新しい仲間が加わった。

 このB社のエンジニアたちはキングジムのメンバーとともに香港に渡り、A社のエンジニアたちとともに、1つの製品を作り上げた。DM100という、1つの山を越え、3社のきずなは強まったことだろう。立石氏は、B社とはこれからも筐体開発で連携していきたいと考えているという。

 そして、共にポメラの歴史を拓いたA社への思いも、強い。

「われわれは企画だけの会社です。最初のDM10を企画したとき、あちこちのメーカーに打診して却下され続けた企画に対して、前向きな返答をしてくれたのがA社でした。今後も彼らと一緒に開発し、一緒に成長していきたいです」(立石氏)。

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