全国のモノづくり屋が集まった超本気のコマ対決:テクニカルショウヨコハマ 2012 レポート(1)(4/4 ページ)
記事前半は神奈川県の湘南地区のほか、北九州市の産学連携事例を、後半は「全日本製造業コマ大戦」について紹介する。
全日本製造業コマ大戦!
心技隊のブースがひときわにぎわったのが、2日。ブースの目玉イベント 全日本製造業コマ大戦を目当てに大勢の人が集まっていた。
この大戦は、ミナロ 緑川氏が“言いだしっぺ”。
「小さなコマなら、旋盤を持っていれば1個5分ぐらいでできて、それほど手間が掛からないでしょ。それなら、全国の町工場の人たちに、ちょっと時間のあいたときにコマを作ってもらって、集結してもらおう!――と。そういうことを思い付いて、あちこちで言ってみたり、Facebookで投稿してみたりしたら、『それ面白いね』と反応してくれる人たちがいたので、『それじゃあ、やってみるか』と。今回のテクニカルショウに出ることはそのとき(2011年11月ごろ)既に決まっていたので、ブースの中に大会のコーナーを設置しようということで始まりました」(緑川氏)。
大戦事前から、参加チームは大会のFacebookページに製作過程を投稿し、その意気込みをアピールしてきた。このように、Facebookを中心にして盛り上がったことも、興味深い。
以下が、参加企業・団体。業務都合で参加ができず、ピンチヒッターに出場させる企業もあった。
- クリタテクノ:愛知県
- チーム義貞(ユニーク工業と両毛モノづくりネットワーク):群馬県
- 新栄工業:千葉県
- 由紀精密:神奈川県
- Team Dyshow(ダイショウ):神奈川県
- 光和精機製作所:茨城県
- ナカジマ:群馬県
- リ・フォース
- コガネイ・ワークスA(コガネイ):東京都
- 静岡ものづくり連邦:静岡県
- シンコウギヤー・カキタ製作所連合:群馬県
- チームおちむら金属(西村金属と、ちょっぴりモールドテック):福井県
- 日刊工業新聞社・大田区連合:東京都
- 東港工機:新潟県
- 心技隊(エムエスパートナーズとナカジマ):神奈川県
- 一技専・機械工学科:愛知県
- 秦野高等職業技術校:神奈川県
- NEXT(岡谷市次世代経営者研究会):長野県
- チーム 五光発條:神奈川県
- 旋盤加工.com(桜塚やっくんの実家・斉藤製作所):神奈川県
- 大同製型:神奈川県
以下は、エントリーのみ。
- デジタルハリウッド大学大学院 電子工作部:東京都
神奈川県や東京都以外では、愛知県、群馬県、千葉県、茨城県、静岡県、福井県、新潟県、長野県からのエントリーがあった。
「学校からの参加はうれしいですね」(緑川氏)。
ブースの一部に、実況席と、協力企業のロゴが描かれた小さい土俵が設けられた。司会進行はエコックス 代表取締役 椙田祐司氏、解説は由紀精密 CTO 笠原真樹氏。行司(審判)は、モールドテック 代表取締役の落合孝明氏が務めた。
狭いブース内に所狭しと人が集まり、ケミカルウッド製の小さな土俵上(φ250mm、凹R700mm)の小さな戦士の勝負に注目した。この様子は、enmonoの宇都宮茂氏と三木康司氏によってUStreamでリアルタイムに中継。
この大戦で使われたのは、指回し式の喧嘩(けんか)ゴマ。外形寸法がφ20mm以下なら、高さや重量、材質、仕掛けなどは一切自由だ。安定して回り続けることに注力させる、パワー重視でケンカをさせる、あるいはどちらも……という具合に設計思想もさまざまだった。得意とする加工法を生かす、あるいは廃材を利用するなど、製作方法にも企業の個性が表れていた。
「外周のサイズが決められているのがポイントです。ぶつかりに強いのは、重いコマ。回りやすいのは低重心のコマ。その両方を満たすのはなかなか難しいのです」(笠原氏)。
中には、TRIZを使って問題解決をしてコマ設計をしたチームまで。“遊び”とはいえ、各チームの本気度は非常に高かった。
土俵の外にコマが出るか、先に止まってしまった方が負けと、ルールはシンプル。勝ち上がっていくたびに相手のコマを奪っていき、優勝することで総取りできる。
結局、上位に残ったのは、オーソドックスな“コマらしい”形状をしたコマだった。決勝戦は、シンコウギヤー・カキタ製作所連合VS由紀精密となり、精密切削加工同士の“静かな”戦いとなった。
「昔ながらの形は、やはり理にかなっているものだなと思いました。Facebookで出場者の皆さんの製作過程を見ましたが、初期の設計では結構、変わった形をした物が多かったのですが、いざ出そろってみると、大体が普通の形になっていました」(笠原氏)。
優勝したのは、由紀精密。同社には参加者のコマ全てとトロフィー、賞状が送られた。
由紀精密は、もともとミニチュア精密ゴマ「SEIMITSU COMA」(ステンレス製、φ10mm)を製作・販売していて、大会事前より“優勝の本命”とささやかれていたようだ。ちなみに、緑川氏がコマの大会を思い付いたのも、SEIMITSU COMAを見たのがきっかけだったという。
同社はミニチュアゴマのほかにも自社製品開発に積極的で、プロダクトデザイナー 前川曜氏の立ち上げたブランド「BRANCH」にも参画する。
「今回は、Facebookの事前の投稿通りの(高そうな)実力で行けば勝てそうだと思っていたチームが、うまく勝ち残れないということもありました。技術力や精度だけではなく、そこに込める思いや、回し手に掛かるプレッシャーに打ち勝つ力も大事。そこに、このコマ大戦の一番の面白さを見たように思います。そして、それがモノづくりに通じている部分もあるのかな、と」(椙田氏)。
「こういう催しをやることで、中小企業、町工場の現場を盛り上げたいですね。『面白いね』『何かやってるなぁ』と思ってもらえるような、“ワクワク感”を作っていければ。製造業も、暗いニュースばかり続くので、『ちょっとでも明るい』『夢が持てる』ようにするために、われわれのレベルで、手っ取り早くできることは何かな、と考えたときに、こういうこと(コマ大戦)だと思いました。今回のコマ大戦は、“作る”ことにもドラマがあったし、対戦にもドラマがありました。そんな、ドキュメンタリー的要素、『物語が中小企業でも作れる』と言うことをアピールしたいです」(緑川氏)。
◇
次回は、大いに盛り上がったコマ大戦にクローズアップした内容をお届けする。参加者が持ち込んだコマのスペックや、そこに秘められた思いについても紹介していく。
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