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GTDシミュレーターのヒットとプロデューサーの直感力マイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(18)(2/2 ページ)

レースゲーム用の座席(ハンコン固定シート)を開発したメーカーが話す製品開発の秘訣。単に好きな物やよい物を作るだけでは、売れない。

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モノを売る喜びを実感した修業時代

 飯田氏がまだ20代のころ、別の企業で修行中に、とある製品の企画を思い付き、その試作を実家に依頼したことがありました。その試作品を店舗に売り込みに行き、仕入れ責任者に見てもらったところ、幸い、採用してもらえたそうです。さらに実際、販売してみると、お客さまにも好評となり売り上げにつながったとのこと。

 流通コストなど、細かな部分ではいろいろと課題はあったものの、自分が企画したものを自分で作り、そしてお客さまに買っていただいたことに、喜びを感じたということです。

 イイダに入社してからは、その経験を基に自社オリジナル製品開発、そして販売に注力していくことになりました。

 イイダは、現在メインで扱っているようなカー用品以前には、アウトドア用品を開発していました。アウトドア用品業界では、例えば、2億〜3億円の売り上げ規模にまで成長しても、その3年後には売り上げがゼロになってしまうことすらありました。そのような状況で、常に先を見据えた開発が必要だったことから、別の製品を開発する道も模索していました。

 そんな中で、ひょんなことから自動車のマフラー製造の引き合いがあり、それを受注することになったのです。ある程度の量産数が見込めたため、設備投資をすることに。パイプベンダーを導入して、自動車マフラーの仕事を始めました。

 それが、イイダの自動車グッズグランドであるロッソモデロブランド立ち上げのきっかけとなったのでした。

 飯田氏は、「どのような製品が世間に受け入れられるのか」ということを常に考えてきました。それが、「大企業のマーケティング担当か」と思われるほどの考え方と行動の仕方へとつながっているようです。

 私が「マーケティングの勉強はどのようにしたのか」と飯田氏に尋ねてみたところ、特に勉強をしたわけではなく、幼いころからの経験で、自然と身に付いたということでした。

幼いころから培ってきた直感

 飯田氏自身は、幼いころから既に、「こんな物が欲しいなぁ」と自分が感じたら、「じゃあ、これを買う人はどうなんだろうなぁ」と、いったん他人の気持ちになってみる習慣があったそうです。それが、同氏の持つマーケティング感覚や直感力の原点なのでしょう。

 自分の中の他者目線で、自分の考えを見つめ直し、それで「いけそう」だと思えたら試作品を作って、そして自己評価をして……、その上で「これはいけるだろう」というレベルになったら、今度は他人に試作品を見てもらってその評価(表情)をチェックしていく。そのようにして自己評価と他者評価と重ね、直感的に「いけそうだ」となったら、商品化するのだそうです。

 ここで注意したいのは、飯田氏が単に他人の言葉をうのみにしているのではなくて、人の表情など“言葉にならない”部分まで注意深く観察し、感じ取って評価しているという点です。

 そしてイイダには、「アイデアをすぐに形にできる」「工場を持っている」という強みがあります。

 飯田氏が“今この瞬間、世間に受け入れられそう”と直感した商品のアイデアを、すぐに物にして、旬を逃すことなく市場投入できる――そういう体制を作り上げたことで、イイダは自社オリジナル製品を開発し、販売していくことができたと言えます。

自分がいいと思ったものは、売れない

 自分がいいと思ったものは、売れない――厳密に言えば、「作り手としての自分」という枕ことばが付きます。

 飯田氏は、過去、ハーレーのステアリングを作っていた知人の製品を見る機会があったそうです。そして、その売り値を聞いて、「これは、売れないだろうな」と、ピンときたのだとか。

 物はすごく素晴らしかったし、作り手の自信もたっぷりあったようなのですが、「それを購入する人の視点」が、どうやら、なかったそう……。そう思ったのには何か理屈があったわけではなく、直感だったそうです。しかしその勘は当たってしまい、実際に売れなかったということでした。

 ただ「ほんの少しだけ“何か”を変えれば、売れる気はした」と飯田氏は言います。「売れる」「売れない」は、微妙な差、紙一重。そうしたことも、飯田氏は敏感に察知します。

点と点をつなぐ

 デザインや設計まで広範囲を担ってくれているパートナーの存在も大きいと言います。飯田氏の高校時代からの友人です。

 イイダに入社する以前の彼は無職で、毎日を遊んで過ごしていたそうです。「せっかくの才能を埋もれさせて、もったいない」と、飯田氏が自社に誘い入れたということでした。そのもくろみ通り、入社後は彼の才能が発揮され、いまでは素晴らしい片腕となって飯田氏を支えてくれているとのことです。

 これも“ひょんなご縁”。飯田氏が常に考え続け、動き続けている中で、“ひょんなきっかけ”をつないでいき、そして実が結ばれていくのです。

 これは、かつて、米Appleの創始者 スティーブ・ジョブズが語った「Connecting the dots」(点と点をつなぐ)の考えにも通じるでしょう。

仕事を楽しむことと、感謝の心

 常に考え抜いている飯田氏でさえ、たくさんの失敗事例もあったとのこと。それだけマイクロモノづくりというのは簡単ではないということです。

 ですが飯田氏は、この“大変さ”を楽しんでいます。24時間、「何か面白い製品を生み出せないものか」と常に考えています。自身に苦行を強いているわけではなく、あくまで自然体です。

 「お金をもうける」というよりも、「考えて、物を作り出す」という行為自体を楽しんでいるのです。仕事を楽しんでいるからこそ、さまざまな課題や苦労を乗り越えて、成功をつかむことができると言えます。

 また飯田氏は、現在のような自社製品開発ができるような体制になったことに対して、それを支えてくれているスタッフや仲間に、強い感謝の念があると言います。

 自分のアイデアだけでは実現できないことがたくさんあって、「そこをうまくフォローしてくれて“ありがとう”」と、スタッフや仲間、開発した製品に。そして実際にご購入いただいたお客さまに対しても、「買ってくださって“ありがとう”」。飯田氏は、今後もそんな“感謝の心”を大切にしていきたいと考えているとのことでした。

バリューチェーンをつないで形にするプロデューサー


マイクロモノづくりにおけるバリューチェーン(enmono社資料より)

 ここで今回の飯田氏について、マイクロモノづくりのフレームワークに当てはめて整理してみましょう。

 今回の事例では、飯田氏ご自身が企画を取りまとめています。企画が持ち上がるきっかけは、ご自身の場合もあるし、部下の方の場合もあるし、交流の中で得られる場合もあるそうです。ですが、きっかけとなるアイデアのタネの中から吟味厳選し、商品にまでたどり着かせる役割は、飯田氏ご自身が担っています。飯田氏は、まさに私たちが考える「マイクロモノづくりプロデューサー」の姿そのものでした。

 資源は基本的に自社でできるものとされており、デザインも自社で行ってPRし、販売も自社のリソースで確立しています。理想的なマイクロメーカーです。

 この事例で重要なのは、プロデューサーたる飯田氏によるプロダクトアウトこそが、マイクロモノづくりの成功要因となる点です。「お客さまの声を聞き入れない!」という意味ではなく、“声なき”声を想定して、作ってみた物の反応をうかがうというイメージです。

 アンケートを取ったり、グループインタビューをしたりして企画を練って作り上げるというようなプロセスにはあまりコストを掛けずに、プロデューサー自身の直感を重視して、まずは試作品を作ってしまいます。

 その試作品を元にして、展示会などで、直接顧客の反応をうかがことも重要です。つまりプロデューサーが、顧客と同化するレベルまで“自身を見つめ続ける”ということです。そして“顧客たる自分自身”が「お金を払っても欲しい」と思えるものかどうか、この追求がなければ成功の可能性はないでしょう。

 飯田氏はプロデューサーとして、プロジェクト全体を取りまとめ、その道筋の決定をしていますが、各工程のプロフェッショナルなオペレーションは各社員の方が担っている点も重要なポイントです。つまり全体像はプロデューサーが決めておいて、細部はチームに任せる。こういう体制づくりとマネジメントによって、マイクロメーカーを実現しているというわけです。

 次回も引き続き、興味深いマイクロモノづくりの事例を紹介していきます。

発電会議のご案内

enmonoは、東京都大田区の町工場2代目集団「おおたグループネットワーク(OGN)」と組んで、「発電会議」という町工場が製品開発の種を見つけるためのオープンな商品企画会議を定期的に実施しています。製品企画の素となる発想は、1人ではなかなか難しいものです。この会が皆さんの「何を作るのか」というニーズ探しの一助になればと思っています。

開催予定日や会場、テーマなどの情報は、下記のFacebookページから確認できます。ぜひご参加ください。

>>「発電会議」(facebookページ)




Profile

宇都宮 茂(うつのみや しげる)

1964年生まれ。enmono 技術担当取締役。自動車メーカーのスズキにて生産技術職を18年経験。試作メーカーの松井鉄工所にて生産技術課長職を2年務めた。製造業受発注取引ポータルサイト運営のNCネットワークにて生産技術兼調達担当部長として営業支援に従事。

2009年11月11日、enmono社を起業。現在は、製造業の新事業立上げ支援(モノづくりプロデューサー)を行っている。試作品製造先選定、部品調達支援、特許戦略立案、助成金申請支援、販路開拓支援、プレゼン資料作成支援、各種モノづくりコンサルティング(設備導入、生産性向上のためのIT化やシステム構築、生産財メーカーの営業支援、生産財の販売代理、現場改善、製造原価、広告代理、マーケティング、市場調査、生産技術領域全般)など多岐にわたる。

Twitterアカウント:@ucchan

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