電力を変える蓄電システムの底力:小寺信良のEnergy Future(12)(4/4 ページ)
蓄電システムは実にさまざまな用途で使われている。大容量蓄電システムを使うと、どのようなことができるのか、三洋電機を取り上げて、実例を紹介する。
太陽電池+二次電池=電気代大幅カット
三洋電機は、兵庫県加西市に置いた新工場*2)を産業用蓄電システムの大規模な実証実験施設「加西グリーンエナジーパーク」として2010年10月から稼働させている。同社の太陽電池「HIT」を使った出力1MWの太陽光発電システム、リチウムイオン電池を使った容量1.5MWhの蓄電システムを実際に事業に使用している。
*2) 加西事業所は、ハイブリッド車などに使うリチウムイオン二次電池の生産拠点である。
まだ現時点では珍しいHIT方式の両面発電型太陽電池「HITダブルファサード」を、管理棟の壁面に外壁として設置している。オフィスの窓とHITの壁面の間に空間を作り、そこに空調の余剰空気を流して冷却することにより、夏場の温度上昇を抑制して変換効率を維持する。一般に太陽電池はパネルが高温になると変換効率が低下するので、それをカバーするわけだ。
1.5MWhの大規模蓄電システムは、1.6kWhの蓄電ユニット(図5)を、約1000台使って作り上げた。1つのユニットは「18650」タイプの円筒形セルを312本内蔵しているので、およそ31万セルが稼働していることになる。
図5 蓄電ユニット 1個当たりの容量は1.6kWh。中央のLANコネクタは、BMS(バッテリーマネジメントシステム)と通信するために使う。BMSを適用することで1000台の電池を「1台の電池」として利用できる。
このうち管理棟では、太陽電池で発電した電力を直流(DC)のまま充放電している。充電は当然として、放電時には交流(AC)への変換ロスを減らすために館内に直流で配電している。現在はLED照明とPC用に直流電源を利用しているという(図6)。もちろん余った電力は蓄電池に貯め*3)、蓄電池が満充電になったら交流に変換して交流で動作する機器に利用するなど、多段階での活用で実証実験を続けている。
*3) 太陽電池の出力が一時的に低下したときは、蓄電池から電力を補完する仕組みだ。
直流配電も非常に興味深い分野だが、規格化は進んでおらず、実際に何Vで流すのかが悩ましいところだ。「えいやっ」と9V辺りに決めて、それ以外は機器の近くで昇圧・降圧してもよいが、変換ロスが重なれば結局、DC/AC変換したときと変わらなくなる。これも実証実験の成果が期待される分野だろう。
一方、蓄電池の大部分が集まる蓄電池棟では、価格の安い深夜電力(系統電力)で充電し、昼間の電力に利用している。メガソーラー施設を持ちながら、太陽光発電による充電にこだわっていないところが興味深い。
もう1つ面白いのが、EMS(エネルギーマネジメントシステム)の導入だ。加西グリーンエナジーパークの管理棟では、人感センサーとネットワークカメラの出力を画像処理したデータを使って、オフィスの人数を検知し、空調や照明を制御している。また照度もネットワークカメラで検知し、自然光とのバランスを取りながら調光を制御している。従来は人間が「省エネ、省エネ」と言いながら小まめに付けたり消したり気を付けなければならないところだが、これを完全に自動化した。
当初これらのシステムで管理棟の購入電力を9割削減できると見込んでいたが、太陽電池の発電量が予想外に多かったこと、EMSの節電効果が予想以上に高かったことにより、実際には125%賄うことができた。25%の余剰電力ができたわけである。
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ただ、実際に企業や家庭で蓄電池を導入する際には、課題が残る。停電時、電力会社から送られてくる系統電力が切れたとき、蓄電池からの電力供給に切り替える際に、一瞬のブランクが生じるからだ。産業・住宅用のLJ-SA32A5K/6KとLJ-SA16A5K/6Kでは20ms以内、産業用のLJ-ME15Aでは約1秒間の無電源状態が発生する。
20msであっても、バッテリーのないデスクトップPCは停止するだろうし、多くの機器は元電源が切断されれば、手動で電源を入れ直す必要がある。従って現実的には、瞬断に耐えられない機器の直前にUPSを挿入するといったシステム設計が必要になる。産業用機器も切り替えに備えていったん停止するか、シャットダウンする必要があるだろう。
既存の配電設備にそのまま差し込める蓄電システムのプランニングが求められている。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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