EVの爆発的な普及には何が必要? 「無線充電」だ:小寺信良のEnergy Future(10)(2/4 ページ)
EVは運転しやすく乗り心地もよい。価格も手ごろになってきた。だが、誰にでも向くわけではない。充電インフラに課題があるからだ。EVの普及を加速するには無線充電が必要だという主張は正しい。Qualcommの取り組みから将来のEVの姿を予測する。
実は無線充電に詳しいQualcomm
Qualcommが無線充電に取り組むのは、今回が最初ではない。実はiPhoneなどのスマートフォン向け無線充電システムなどの開発も手掛けている。なお、Qualcommはファブレスメーカーなので、直接製品を作って売るのではなく、開発特許のライセンスビジネスを目指している。
2010年に開催されたInternational CESでは、コンソールボックス内に無線充電器を組み込んだ車をブース内に持ち込み、デモンストレーションを見せた。車に乗っている間、このコンソールボックスにスマートフォンを放り込んでおけば勝手に充電される、というソリューションである。
さらに、あまり知られていないことだが、Qualcommと自動車業界との関係も非常に長い。Qualcommが1985年の創業時に手掛けた技術開発は、「OmniTRACS」という、衛星を使った輸送用車両などの自動車運行管理システムである。既に実装されて20年以上が経過するが、いまだに使われているという。
最近の自動車関係技術では、「eCall」と呼ばれる車載救急通報システムの開発を手掛けた。これはEU全域で導入が進むシステムだ。車で事故が起こったときに、携帯ネットワークを通じてその地域の緊急対応機関に向けて緊急音声通話が発信され、同時に位置情報などの情報も送信されるというものだ。
そしてその次のステップとして、EVの無線充電に参入するというわけである。
無線充電は何が難しいのか
無線充電システムは、電磁誘導方式と磁界共鳴方式の2つに大別される。電磁誘導方式はQualcommの他、日産自動車や日野自動車などが推進している。磁界共鳴方式は米MITの研究グループが実証した技術で、同グループから独占的な技術移転を受けた米WiTricityの他、トヨタ自動車や三菱自動車、IHIなどが推進している。
電磁誘導方式は変圧器やIHクッキングヒーターの仕組みと同じで、原理的には枯れた技術である。弱点は、コイルの位置ズレに弱い点だ。一方、磁界共鳴方式は位置ズレに強いところがポイントである。
無線充電システムは両方式とも、まず車の底に受電装置、充電場所の地面に送電装置を埋め込んでおく。充電場所に車を停車させると、自動的に充電が始まるという仕組みだ。
位置ズレうんぬんが影響するのは、このときである。つまり人間が運転している限り、いつもいつもぴったり同じ位置には駐車できないことが問題だ。「オレは一発で車庫入れできるよ」という人もいるかもしれないが、毎回毎回誤差数cm単位で同じ位置に駐車できるかと言えば、それは難しいだろう。
水平方向だけではなく、垂直方向の位置ズレも問題になる。車高は車によってそれぞれ違っているし、人や荷物がどれぐらい載っているかでも数cm変わってしまう。
つまり位置ズレに弱い電磁誘導方式では、最適な位置に停車させるような誘導システムを付けて、かなり近いところまで人間に車を寄せさせ、さらに数センチオーダーのズレは、車載側か地面側の装置をモーターで制御して、ぴったりの位置に合わせなければならない。これではいかにもコストが掛かりそうだ。これを「キネティックアプローチ」と呼ぶ。
Qualcommが買収によって得た技術は、「アダプティブアライメント」という方式で、磁界の方向を制御することで多少のズレでも高い伝送効率を発揮するというものである。位置が多少ズレた状態でも90%、最適な状態で92%以上の伝送効率が得られるという*2)。
*2) 伝送効率は2通りの意味で使われる。1つは空気を挟んだ送電装置と受電装置の間の効率、もう1つはシステムのエンドツーエンドの効率である。後者の方が効率が低くなる。Qualcommがいう効率は後者である。
ただし、技術的な詳細は明らかにされていない。特許申請の関係で明かされないのだと思うが、今のところこれが磁界共鳴方式に対抗し得る根拠である。どういう理屈でズレても大丈夫なのか、どれぐらいズレても大丈夫なのかといったデータが出てくれば、またもう一段説得力が増すだろう。
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