無線LANソリューションでInternet of Things時代の勝者となるか!?:組み込み企業最前線 − ユビキタス −(1/2 ページ)
軽量な組み込みソフトウェア製品を数多く手掛けるユビキタス。現在、スマートフォンを中心とした無線LAN対応機器の普及を追い風に、組み込み機器向けの無線LANソリューションを軸とした新たな事業展開を推し進める。
組み込み機器向けネットワークソリューションなどを手掛けるユビキタスは、この度「AIR NOE Solution(以下、AIR NOE)」を新たに開発、提供を開始している(プレスリリース)。
AIR NOEとは何か。一言でいうと、組み込み機器に無線LAN機能を内蔵するために必要となるソフトウェアやモジュールなどをパッケージ化した総合ソリューションである。開発時にこれを用いることで短期間で無線LAN機能を機器に組み込むことができる(詳しくは後述)。
今回、AIR NOEに代表される同社の無線LANソリューションと、その先にあるビジョンについて、同社 代表取締役社長 三原寛司氏と、営業マーケティング本部 副本部長兼ビジネス開発部長 長谷川聡氏に話を聞いた。
ローエンドな組み込み機器でも無線LAN対応に!!
同社は2001年の創業以来、TCP/IPのプロトコルスタックやデータベース、高速起動技術など、一貫して組み込み機器向けソフトウェア製品を開発、提供してきた。今年(2011年)で10周年を迎えたそんな同社が手掛ける製品に共通する特徴は、ソフトウェアサイズの「小ささ」「軽さ」である。
例えば、一般的に100Kバイトを超えるようなTCP/IPのスタックでも、同社であれば最小構成で10Kバイト程度、一般的な用途では15〜20Kバイト程度に収まるサイズで実現できるという。これは、一般的なスタックがUNIXサーバ用のソースコードを組み込み機器向けに「“そぎ落とし”て作り込まれてきた」(三原社長)のに対し、同社はRFCのドキュメントを基に、「必要なものを一から積み上げる」(同)というアプローチを採ってきたためだ。その結果、コードサイズを非常にコンパクトにすることができたそうだ。UPnPでも10〜13Kバイト程度ということで、同社のスタックを使えばハードウェアリソースの少ない機器でもコンパクトにDLNA対応が可能になる。
2005年、任天堂の携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」に同社のTCP/IPスタックが採用されたのも、ゲームカートリッジに収まるほどコードサイズが小さかったからだという。このときは約50KバイトでTCP/IPとSSLを実現できたそうだ。
その後も同社は順調に製品を拡充し、現在、さまざまな機器に同社ソフトウェアが採用されている。最近では、パナソニックのコンパクトデジタルカメラ「LUMIX DMC-FX90」で同社のWPS(Wi-Fi Protected Setup)などが採用されている(関連記事)。
そして、2011年11月にルネサス エレクトロニクス販売(以下、ルネサス販売)と共同開発した統合型の無線LANソリューション、AIR NOEを発表した。“NOE”とは「Network Offload Engine」の略。同社に従来あったNOEというソリューションの“無線LANバージョン”として「AIR NOE」と名付けられたそうだ。
AIR NOEは、ハードウェアベンダーのルネサス販売の無線LANモジュールと、同社が開発した同モジュール向けのデバイスドライバやプロトコルスタック、セキュリティ機能などをパッケージとして提供する統合ソリューション。これをターゲット機器に組み込むだけで容易に無線LAN化できるというのが同ソリューションの最大のメリットだ。
無線LANのハードルと近年のトレンド
三原社長によれば、無線LANの開発はハードルが高いという。開発期間の短縮が求められる中、「無線LANの開発は“ノウハウもの”で、デバイスドライバの開発が非常に大変。さらに、プロトコルスタックやその上位の認証などが課題になる」(同)という。また、システムリソースの問題(制約)があり、PCやスマートフォンのようなハイパフォーマンスのCPUを搭載している場合はともかく、8bitマイコンなどの非力なCPUしか搭載できないような機器の場合には、さらにハードルが高くなる。また、無線LANを搭載する際、これまで作られてきた製品のシステム変更が求められることも多く、さらなる開発期間が必要になる。そのため、一から開発するとなると最低でも6カ月以上はかかるという。
こうした技術的なハードルに反し、近年、スマートフォンの普及と無線LAN機器を直接接続する「Wi-Fi Direct」規格の標準化を背景に、無線LANのトレンドも大きく変化してきている。
「現在、アクセスポイントを前提としたネットワーク接続ではなく、さまざまな機器がお互いに直接つながるようになってきている」(同)。いままではPCやスマートフォン、タブレット、ゲーム機といった製品が無線LANを使ってインターネットにつながっていたが、現在、例えばプリンタが無線LAN対応し、スマートフォンとつながり直接印刷できるようになってきている。情報家電やデジカメのみならず、白物家電やヘルスケア製品などが無線LANに対応し、スマートフォンにつながるといった、これまでにない新たな利用シーンが生まれつつある。
AIR NOEのメリットとは
このように無線LANのトレンド、ニーズの変化が起きている状況にもかかわらず、開発のハードルの高さや開発期間の長さを理由に、無線LAN化に二の足を踏んでいるケースもまだ多いという。これに対し、三原社長は「開発のハードルを下げ、短期間での次期製品開発を後押しするのがAIR NOEである」と強調する。
通常、TCP/IPやHTTPなどの処理は、無線LANモジュールを接続したホスト側が担っている。そのため、ホスト側で利用できるようにメーカー自身がデバイスドライバを開発することが多かった。しかも、「無線LANモジュールとCPUとの間のTCP/IPのコネクションは非常に複雑で、システム上のボトルネックになりやすい」(同)という欠点もある。
AIR NOEでは、従来ホスト側で行っていた処理を“オフロード”して、無線LANモジュール側に担当させることで、ホスト側の負担を軽減させるという特徴を持つ。「もともとネットワークの仕事はネットワーク(のモジュール)に近いところにやらせた方が効率が良い」(同)ことに加え、ホスト側のCPUの処理が減り、ホストと無線LANモジュール間の通信もシンプルになるという。
無線LANモジュールに入るような小さいソフトウェアの開発は、まさに同社が得意とする部分で、強みを生かした同社ならではのソリューションといっていいだろう。
無線LANに関する開発をAIR NOEに任せることで、全体のコストダウンが可能になる。ホスト側は従来のものと同じで、個別にソフトウェアを積み重ねるのではなく、オールインワンの無線LANモジュールを追加するだけでいい。「8bitマイコンのように、非力なホスト環境でも無線LAN対応できる」(同)のがポイントだ。実際、ルネサス販売の無線LANモジュール「YCSCSA2SAA01」には32bitマイコンやROM/RAMが搭載されており、シリアルインタフェース経由で、8/16bitのローエンド・マイコンを搭載したホスト側の機器でも簡単に無線LAN化が可能になる。
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