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“TPD”を実践しないとどうにもならない?――「正しい設計のフロントローディング」と「全社的製品設計」“明るく・楽しく”!? 環境配慮型設計・現場の心得(3)(2/2 ページ)

これからの日本のモノづくりにはTPD(Total Product Design)がカギ。「全社的に」を実践するための役割分担を整理してみた。

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部門コミュニケーション

 その強力な「コミュニケーションツール」を活用し、設計・開発エンジニアの負荷を可能な限り軽減するのです。例えば

製造部門 組み立て指示書なんていらないよ。自分たちでデジタルモックアップして作業手順書作るから。工数削減のいい案があったらトスするね。ネジ類も径だけ決めてくれれば、長さや頭形状はこっちで無駄のないように決めるよ。

購買部門 見積用図面? 見積もり依頼書? 3次元データがあればこっちでできるから要らないよ。逆にこの鋳物の部品、板金でうまくできる方法がないか、腕のいいメーカーに聞きに行ってみるよ。そうそう、単純な外装部品の取り付け孔ピッチの公差も決めなくていいよ。交差解析はこっちでやって、できるだけコストを下げるようにするからさ。

サービス部門 サービスマニュアル用の資料は動かし方や注意点などをトスしてね。分解方法やメンテナンスの仕方はこちらで考えるし、マニュアルはXVLを使ってテクニカルイラストを生成するよ。

物流部門 梱包設計は任せて! コンテナにできるだけ多く積めるような外装箱の大きさと、耐落下衝撃性のバランスを取ればいいんだよね? 最大何Gに耐えられればいいのかだけ教えてよ。

 いかがです? こんな会話が製品開発段階でできていますか? もし既にできているとしたら、あなたの会社はTPDの域に入っています。

 さて、お題の「環境配慮」ですが、第2回に書いたように、軽量化や消費エネルギー低減のための新技術開発という「前向きの環境配慮」は当然開発・設計部門がゴリゴリと推し進めていくわけですが、化学物質管理や環境法規制対応などは「環境管理部門」が行うのがよいと筆者は考えています。

 先の例にならって書くと……

環境管理部門 仕向け地別のコーション(警告)ラベルの選択は任せて。貼り付け位置はデザイン部門と打ち合わせて決めておくね。化学物質やエネルギーの使用量管理は、いいクラウドサービスを検討中。上手くいったら設計の材料データベースと連携させて、製品1台当たりの正確なデータが出るようにするよ。もちろん海外営業部門と連携して、総量管理するのはうちが責任を持ってやるから安心して!

 というカタチがスマートな体勢なのだろうと筆者は思います。

脱・セクショナリズムでないと対応できない

 いかがでしょうか? TPDのイメージは浮かびましたか?

 TPDでは、人事や総務部門も例外ではありません。エンジニアたちにいかに気持ちよく仕事をしてもらえるか、人事や総務のアクションは実に重要なのです。いわば会社内のサービス業であると筆者は思います。

 多くの企業において現実は違うでしょう。他部門との調整や根回しに時間が取られ、製品のリリース時期に間に合いそうもない。止むなく手抜きをせざるを得なくり、その結果、市場で問題が起きてしまった……、というのは、どこかで聞いたような話ですねぇ。

「え? それはそっちの仕事でしょう? うちは忙しいんだからさ……」などといわれてふてくされ、やる気をなくす設計者……。

 そんなことやっている暇あるのでしょうか?

 会社内のセクショナリズムに翻弄されている暇があるのでしょうか?

 ASEANやBRICSが大きな市場となると同時に強力な競争相手になってきているいま、グローバル市場に向けてのグローバルな大競争時代は既にスタートを切っているのです。

 筆者が思うに、わが国はどうやらスタートで出遅れたように思います。でも、まだまだこれからスロットルを踏み込めば遅くはないのです。

 もう一度いいます。セクショナリズムなんて、そんなちっぽけなことに労力を使っている暇などないのですよ! 社員全員が真のグローバル戦略に向けて、力を合わせなきゃ勝ち抜けない勝負なんですよ! 環境法規制や化学物質管理などに真摯に向かい合い、精緻に実行する。日本人の得意とする所ではないですか!

 私は「日本のモノづくり」が大好きです。「明るく楽しい現場」から「お客さまに喜んでいただける製品」を生み出す。本田宗一郎氏の言葉を借りれば「作って喜び、売って喜び、買って喜ぶ」

 さぁ、TPDを実践して「やっぱりMade in Japanが最高だ!」と世界中から言わせようではありませんか!



 「環境配慮型設計」というテーマをいただいたのに、その部分に深く踏み込むことなく筆をおきますので「物足りないなぁ」とお感じになった読者の方がいらっしゃいましたらごめんなさい。でも、「モノづくりへの熱い思い」が少しでも伝わったのでしたらうれしいです。

 3回にわたるコラムを最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


筆者紹介

関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表

 専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなどの大規模アセンブリを完全一人完結組み立てを行い、品質/生産性/作業者のモチベーション向上を実現した。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、実務改善に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。

 現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡理工科大学講師、早稲田大学大学院講師、豊橋技術科学大学講師として教鞭をにぎる。



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