使ってみて分かった、家庭用蓄電装置の未来:小寺信良のEnergy Future(7)(3/3 ページ)
災害時の「非常食」ならぬ「非常電源」としての期待がかかる家庭用蓄電池。ソニーの一般家庭向けの小型蓄電池は、使える非常電源なのか。小寺信良氏が利用シーンを想定して評価した。
停電になったときにどう使うか
停電になったときに実際に家庭内で何を動かすか、が次の課題だ。大きく分けて、3つのカテゴリがあると思う。「空調機器」「情報機器」「照明」だ。
計画停電を想定するとしたら、夏場、冬場ということになる。この場合に欠かせないのが、空調機器だ。エアコンは6畳向けのものでも400Wを超えるため、当然300Wでは動かせない。
夏場に扇風機が動作可能だとしても、冬場に何を動かすか。現実的な線では石油・ガスファンヒーターだが、これも電気が必要である。ある石油ファンヒーターを例にとると、12畳用のもので燃焼時に必要な電力は、24W程度である。ただし点火時に650Wの大電力が必要なので、残念ながら300Wでは点火できない*1)。
*1)小型の電気毛布や電気ひざ掛けの中には、消費電力が200W以下の製品もある。
無電力で暖をとるなら薪ストーブや練炭ごたつ、火鉢などがあるが、それらを常備している家庭はほとんどない。しかしオガ炭(おがくずを圧縮した炭)程度であれば安いので、サバイバル用品の一環として七輪と一緒に常備しておくのも悪くないかもしれない。
情報機器には向いている
情報機器に関しては、もう少し状況が良い。ダイレクトにAC電源で動かす必要がないものが多いからだ。携帯電話機、スマートフォンあたりが情報収集に必要な機器として広く使われており、PCでさえノートPCが主流だ。すなわちバッテリー駆動のものが大半と考えていいだろう。
そうなると、非常時には給電というより、充電に対応できた方がよい。ただし、ACアダプターを挿して使うと、バッテリーはもともと直流を出力するため、DC→AC→コンセント→AC→DCと変換することになる。変換ロスがもったいない。できればホームエネルギーサーバーに充電用USBポートが2〜3個は欲しいところである。ただ、内蔵電池の出力する直流はUSB規格の5V、500mA程度では済まないだろう。5Vまで降圧した場合のロスと、ACからの変換ロスのどちらがましか、ということになるかもしれない。
直接、給電で動かす情報機器もある。テレビだ。本体の記載によれば、40型以下の消費電力300W程度の液晶・プラズマテレビであれば使えるとある。しかし筆者宅の東芝「REGZA 37Z3500」をつないでみたところ、電源が入らなかった。テレビは点灯しようとするのだが、ホームエネルギーサーバー側が出力不足となり、給電を中止するようである。
REGZA 37Z3500の消費電力は250Wなので問題ないと思ったのだが、どうも接続周辺機器などによっては点灯時のみ、かなり大きな電力が必要のようだ。最近のテレビはもっと低消費電力設計になっているので、点灯時の電力も低くなっている可能性はあるが、単純に消費電力だけ見ていてもなかなかカタログスペック通りには動かないものである。
いまこそLED照明を使うべき
続いて照明だが、これは夕方と夜間の停電時に必要となる。家庭内の照明設備を蓄電池で直接点灯するすべはないが、電気スタンドなどの可動型照明なら十分使える。
電球型の電気スタンドであれば、そのままダイレクトに電球のワット数が消費電力になる。恐らく40Wや60Wだろう。蛍光灯タイプのものは、15Wや20Wのものが多いようだ。
しかしこれらの電気スタンドも、LED型電球に替えれば事情ががぜん変わる。電球型LEDの消費点力は3W程度なので、恐らく70時間程度も使える。また細長い蛍光灯型のLEDもあり、こちらは消費電力が10W程度だ。
家庭内の電球をLEDに替えて省エネ、という動きがある。だが、電気代とLED電球の価格を考えると、損益分岐点がどこになるのか判然としない。「地球に優しい」とか「エコ」のように漠然としたキーワードで消費者を煽る時代は終わった。それに代わり緊急時のことを考えて、電気スタンドの電球をLEDに替えておくというのは、納得できる出費である。震災以降、家電製品の購入や買い換えは、すぐに、しかも目に見える形で役に立つ理由付けが必要になったのだ。
今回試用した製品のような「小規模エネルギーシフト」を提供する商品は、今後伸びるだろう。ソーラーパネル1枚から組み合わせられて、日々の充電がまかなえるなど、低コストで今すぐ恩恵が受けられるような提案があれば、さらに理解が得られやすいはずである。家庭用蓄電ビジネスにはそれなりのニーズはあるものの、消費者側はどのように対応すればいいのかの予備知識がゼロの状態だ。「見れば分かる」で満足せず、メーカーにはさらに「ニーズ+提案」が必要であろう。
【訂正】記事の掲載当初、1ページ目第7段落で、「ソニーの業務用蓄電モジュールではこれが採用されているが、CP-S300E/S300Wが内蔵しているのはこれよりももっと大型で、電動工具用として使われているものだそうである」とありましたが、「ソニーの業務用蓄電モジュールでは18650型よりももっと大型で産業用途向けに開発された電池セルが採用されており、CP-S300E/S300Wにも同じものが使われている」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。上記記事は訂正済みです。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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