「映画は見られないDVD」、ただし発電できます:スマートグリッド CEATEC 2011(2/2 ページ)
太陽誘電が開発した「DVD」は、書き込み読み出しができないかわりに発電できる。なぜこのようなものを開発したのか。コストダウンに適しており、新しい用途が開けるからだ。
蓄電可能な太陽電池へ
太陽電池の弱点は発電した電力を蓄えられないこと。同社は、蓄電に向くリチウムイオンキャパシタやPAS(ポリアセン)キャパシタを製品化している。どちらも薄型であり、機器とキャパシタを組み合わせた商品もある(図5)。今後はDVD型太陽電池とキャパシタを組み合わせた使い方を実現したいという。
図5 SSDとキャパシタを組み合わせた製品 東芝のSSDと組み合わせたPASキャパシタ(4つある長方形の銀色の部品)。書き込み中のSSDへの電源供給が瞬間的に途絶えると、データが破損する可能性がある。そこで、厚さ0.9mmのキャパシタを4枚、SSDの裏面に配置した。充放電回数は10万回以上。
色素増感太陽電池とは
太陽誘電のDVD型太陽電池は、色素増感太陽電池の一種だ。色素増感太陽電池の発電原理は、Si太陽電池とは大きく異なる。Si太陽電池は、半導体のpn接合による内部電界を利用する。Si原子が光により励起し、電子と正孔が生まれ、内部電界を使って取り出すことで電池として機能する。
一方、色素増感太陽電池は、図6のような仕組みで発電する。
- 受光面に太陽光が入射し、色素(団子状の黒い表面部分)がエネルギーを吸収。色素の電子が励起する
- 励起された電子はTiO2(二酸化チタン、団子状の白い部分「半導体膜」)に移動する
- 電子は負極(透明電極)から正極へ移動する(電流が発生する)
- 正極に到達した電子がI3−(三ヨウ化物イオン)を還元して、I−(ヨウ化物イオン)に変える
- I−が色素に電子を渡してI3−に酸化される
光が当たる限り(1)〜(5)を繰り返すことで電子が移動して、起電力が生まれる。
色素増感太陽電池の利点は、他の方式の太陽電池と大きく異なる。
- 色素を変えることで変換効率を高められる他、さまざまな色彩を持たせることができ、デザイン性に優れる
- 可視光領域の分光感度が高く、蛍光灯などの室内光での効率が高い
- 浅い角度から入射する光に対する発電効率が高い。つまり、光源に直接向くように太陽電池を配置しなくてもよい
- 製造時に真空プロセスが必要ないため、低コスト化に向く。プラスチック基板を利用することで、軽量化、フレキシブル化、低コスト化が可能
欠点もある。まず電解液を使うことだ。Si太陽電池のように全固体化できていないため、「液漏れ」の可能性がある。次に、金属腐食性の強いI−(ヨウ化物イオン)とI3−(三ヨウ化物イオン)を使うため、封止材や電極の材料に制限がある。変換効率の向上もSi太陽電池に比べて遅れている。研究室規模の小セルであっても12%程度であり、Si太陽電池の約半分の値にとどまる。ただし、理論限界はSi太陽電池とほとんど変わらない。
「当社は電解質を利用するキャパシタを開発、製造しており、電解質の扱いには慣れている。光メディアに使う色素設計や積層セラミックス部品の積層、印刷技術と合わせて、色素増感太陽電池の製造に必要な技術は一通りそろっている」(染井氏)。展示したDVD型太陽電池の変換効率は4〜5%程度。「低温で製造する非焼成プロセスを採用したため、変換効率が低めに出ている」(染井氏)という。
非常に変換効率が高い高価な太陽電池、100円ショップで購入できるほど安価だが、変換効率が低い太陽電池、さまざまな太陽電池が生まれることで、活躍する場が広がっていく。
関連記事
- 大震災で分かった太陽電池の課題
意外に丈夫だが、自立運転に課題あり - 太陽電池の世界記録を更新、集光型用でセル変換効率43.5%を達成
製造コストよりも変換効率を重視した太陽電池 - 住宅用で最高変換効率、東芝が太陽電池モジュールを発売
住宅用Si太陽電池で効率19.3% - 太陽光発電のコストダウンはどこまで可能か
ドイツの事例に学ぶ
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.