大震災で分かった太陽電池の課題:スマートグリッド
太陽電池は燃料を使わずに発電できる。可動部がないためメンテナンス性も高い。このため、災害時の非常用電源としても期待されている。東日本大震災では太陽光発電を導入した住宅が多数被災した。機材の破損状況はどうだったのか、利用上の課題はなかったのか、太陽光発電ネットワーク(PV-NET)と東京工業大学が調査結果をまとめた。
太陽光発電は燃料を全く使わずに電力を得ることができ、災害時にも役立つといわれてきた。2011年3月11日に発生した東日本大震災では、太陽光発電の運用について何が分かったのだろうか。
太陽光発電所ネットワーク(PV-NET)*1)と、東京工業大学ソリューション研究機構で特任教授を務める黒川浩助氏は、共同で震災と太陽光発電に関する実態調査を進め、調査で分かった8項目と提言10項目を公開した。
*1)PV-NETは自宅に太陽光発電を導入した47都道府県のユーザー約2500人が加盟するNPO法人。2003年に発足した。
屋根が重いのに壊れにくい
住宅の屋根置き用途に使われている多結晶Si(シリコン)太陽電池は重く、太陽電池モジュール本体だけでも出力200W当たり20kg弱に達する。家庭用として一般的な4kWの出力を得ようとすると400kgにも達する。屋根上に重量物を固定すれば、地震の影響を受けやすくなるはずだ。
ところが、調査の結果は予測とは異なっていた。家屋自体の破損度合いには違いが見られず、屋根の破損に違いが現れた形だ。「太陽光発電を導入した家屋を周囲の家屋と比較すると、太陽光発電を導入していない家屋では瓦が飛び散っていた地点でも、瓦が安定していた。過去の震災の際の調査とも合致する結果だ」(PV-NET)。太陽光発電を導入する際には、太陽電池モジュールを屋根に固定する架台を設置するため、これが屋根の安定化に役立っているのではないかという。
一方、破損した太陽電池の取り扱いには課題が残る。例えば、一部の部品の交換で発電機能が回復できることが明らかな場合でも、復旧が放置されている場合や、感電や火災のおそれがある太陽電池が放置されていた例である。太陽電池には太陽光が当たるだけで「勝手に」発電してしまう性質がある。このため、破損した端子に不用意に触れると感電する可能性があり、端子間が短絡すると発火する可能性もある。現場にはこのような危険を避けるための安全対策マニュアルが見あたらなかったという。「(太陽電池モジュールの)接続箱は点検機能だけでなく、災害時の切断機能活用が必要である」(PV-NET)。
自立運転の可能性が損なわれている
非常用の動作モードである自立運転にも3つ課題があった。太陽光発電システムは、停電などで系統からの入力が失われた際、安全性を保つため、運転を停止する。このとき自立運転モードに切り替えれば、発電した電力を利用できるが、自動的にモードが切り替わる家庭用太陽光発電システムはほとんどない。自立運転機能が十分周知されていないために、手動で切り替えることに思い至らなかったり、パワーコンディショナーなどに付いている自立運転コンセントの位置が分からない場合があるという。
次に避難の拠点となる学校や公民館に設置されている中規模太陽光発電システムが、自立運転機能をほとんど備えていないという問題だ。「家庭用の出力10kW以下のシステムはほとんどが自立運転モードを備えているが、公共用のシステムは予算の削減もあり、自立運転機能を備えていない」(PV-NET)。太陽光発電は例えば水の浄化システムの運転などにも利用できるため、公共用システムへの自立運転機能の設置義務化が必要だと提言した。
3番目の問題は自立運転時の出力制限だ。自立運転時の出力はメーカーの自主的な基準により、1.5kW(1コンセント)に制限されている。これではエアコンやオーブンレンジなど大電力を要する機器が動作しない場合がある。突入電流が大きい井戸水などのポンプの動作も厳しい。15Aの出力回路を2つ以上備えることで、太陽光発電システムの最大出力にも対応できるようになる。「そのためのガイドラインなどを国が作成し、指導すべきだ」(PV-NET)。
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