空気と水と太陽光だけで燃料を作る、豊田中央研が人工光合成を実現:電気自動車(2/2 ページ)
常温常圧、太陽光下で水と二酸化炭素から、有機物の一種であるギ酸を合成した。紫外線や外部電源などは使っておらず、太陽光だけで燃料を無限に製造できる可能性が開けたことになる。
どうやって成功させたのか
人工光合成の取り組みはこれまでも部分的には成功していた。例えば、効率は低いものの、半導体であるTiO2を使って、水から水素を生成できる。だが、豊田中央研究所の実験でも半導体だけでは、CO2からHCOOHは合成できなかった。
図1の右側にある反応をいかに進めるかが、カギだった。答えは金属錯体*3)ポリマーと半導体を組み合わせることにあった*4)(図2)。
*3)金属錯体は、分子の中心に金属や金属イオンが位置し、金属を取り囲むように配位子と呼ばれる原子の集団が取り囲んだ物質。配位子の数は2〜6のものが多い。
*4)「2010年夏ごろから、半導体と金属錯体を組み合わせて使い、有機物を合成したという他の研究者の報告があったが、実験の際に微量の脂肪が混入(コンタミネーション)して分解したと考えられている。そのため、今回の実験では炭素13を使って、HCOOHのCがCO2に由来することを確認した」(梶野氏)。
図2 CO2還元光触媒の機能 半導体(図中左の灰色)内部で電子e−の光励起が起こり、金属錯体(図中紫色の板)上で、CO2と、H+が集まって還元反応が起こり、電子を受け取って、HCOOHが生成する。出典:豊田中央研究所
金属錯体はCO2の光触媒として機能し、反応の量子効率や電流効率が高い他、狙った物質だけを合成する選択性が高かった。しかし、水から電子を抜き出してCO2を還元できるものが見つかっていない。このため従来は(CH2OHCH2)3N(トリエタノールアミン)のような犠牲試薬を使っていた。
半導体材料は水から電子を抜き出せる。CO2を還元できるわけだ。しかし、効率が低い上に、実際には水素合成が優先されてしまい、有機物が生成しない。
豊田中央研究所は、この2つを組み合わせた。「Zn(亜鉛)でドープしたInP(インジウムリン)半導体基板上にRu(ルテニウム)金属錯体*5)を垂らして乾燥させるドロップコート法で反応面を作成した」(梶野氏)。
*5)[Ru{4,4’-ジ(1H-ピロリル-3-プロピルカーボネート)-2,2’-ビピリジン}(CO)2]n などを用いた。
効率を高めるためにはどうすればよいのか
植物並の変換効率を実現するにはどうすればよいだろうか。2つ手法があるという。半導体の選択と、アンカー配位子を含めた金属錯体の選択だ。
どのような半導体が人工光合成に必要なのだろうか。「2つ条件がある。CO2を還元する能力が要求されるため、伝導帯の最小エネルギー(ポテンシャルエネルギー)が高い半導体でなくてはならない。次に、電子を放出しやすい必要があるため、p型特性が高くなくてはならない」。そこで、N(窒素)ドーブしたTa2O5(酸化タンタル)と、GaP(ガリウムリン)、InP(インジウムリン)という3種類の半導体を実験対象として選んだ。
実験を進めると、Ta2O5よりも、InPの方がCO2の生成率が高いことが分かった。これはInPの方がポテンシャルエネルギーが高いことで説明できる。ところが、GaPはInPよりもポテンシャルエネルギーが高いのにもかかわらず、生成率はInPの方が高い。「半導体の格子欠陥など、ポテンシャルエネルギー以外の特性が影響している可能性があり、今後の研究目標の1つだ」(梶野氏)。
実験では4種類の金属錯体とその組み合わせを試した。このうち、最適な組みあわせが見つかったことで変換効率が高くなった。今後は、アンカー配位子について研究を進める必要があるという。半導体と金属配位子はドロップコート法で物理的に結合しているだけであり、界面でも物質同士は別々だ。これでは金属錯体が半導体からはがれやすくなる。そこで半導体と強い化学結合を起こす配位子を金属錯体に入れ込んだ。これがアンカー(錨)配位子だ。「アンカー配位子の役割はもう1つあるようだ。アンカー配位子を加えることで還元反応が劇的に増強されたからだ。アンカー配位子が半導体から金属錯体への電子移動を助けている可能性がある。今後はフェムト秒オーダーの高速分光分析を進めて、アンカー配位子の機能を探る」(梶野氏)。
さらに複雑な有機物を作るには
HCOOHよりもCH3OHの方がさまざまな用途が開けていく。狙った有機物を作り上げるにはどうしたらよいのだろうか。
「今回の実験では、Ru錯体の表面上に反応場が出来上がり、CO2が吸着されて、2電子を受け取り、H+と結合してHCOOHが生成している。つまり金属錯体の設計によって生成物を制御できるはずだ。次の大きな目標はC(炭素)を2つ含む有機物の合成だ。常温常圧下で金属錯体触媒を使ってC-C結合を作り上げたという報告はない。これが実現すれば、作り出せる物質の種類が飛躍的に増えるだろう」(梶野氏)。
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