「充電長持ち」から始まった三洋の電池戦略:小寺信良のEnergy Future(5)(3/3 ページ)
三洋電機の電池戦略を通じて、電気自動車や社会インフラ向けの電池が今後どのように変わっていくのか、小寺信良氏が解説する。
大容量用途に生きる18650型
前回はソニーの蓄電モジュールを紹介した。中身はPC用のリチウムイオン電池「18650型」を並べたものだった。このタイプでは三洋電機が先行しており、2009年には同タイプのモジュールを開発、翌年に量産を開始している。
動力用標準電池システムの「EVB-101」(図3)は、内部に18650型のリチウムイオン電池を84本内蔵したもの。さらに大型の蓄電用標準電池システム「DCB-101」(図4)は、内部に18650型を312本内蔵したモジュールである。こちらは電源スイッチの他、通信インタフェースを備えており、リモートによる管理が可能だ。
三洋電機のモジュールを採用した利用例を挙げよう。2010年2月から徳島県で無停電信号機用のリチウムイオン電池システムが稼働している(図5)。自然災害による停電時を想定したバックアップ電源として利用し、徳島県内21カ所の交差点に設置されている。リチウムイオン電池を使った信号機のバックアップ電源としては、国内で初めてだそうである。中身は、DCB-101をベースとしている。
全国の交差点には、自動起動式発動機を搭載しているものも一部ある。ただし、停電を検知してから発動機を稼働させるため、起動までに30秒近く消灯してしまう。リチウムイオン電池のバックアップ電源ならば瞬時に切り替わるので、タイムラグなしで連続点灯できるところが優れている。
災害対策として考えても、信号機のバックアップ電源は社会でコストを負担するだけの必然性がある。災害までいかなくても、2011年春の計画停電では信号機まで消灯するという事態に陥っている。
前回の計画停電の対象となった9都道府県には、バックアップ電源を備えた交差点が、全体の3.6%しかない。このため、交通整理に8900人の警察官が動員された。群馬県では、計画停電中の信号消灯により死亡事故まで発生している。
信号機だけではない。DCB-101は、2010年8月にKDDIの携帯電話基地局のバックアップ電源フィールドトライアル用としても採用されている。従来は鉛蓄電池が使われていたが、小型・軽量化と長寿命化、さらには鉛削減による環境負荷の低減に寄与するという。
今回の震災では、携帯基地局のバックアップ電源が動作していた3時間程度は運用できていた。しかし復旧が長引けば、やがて電池残量がなくなる。屋外での情報源として携帯電話に大きく依存し始めた現在では、これが生死を分けるケースも出てくるだろう。全携帯基地局バックアップ電源の24時間化は、携帯電話キャリアの責任でもある。実際に、KDDIは、2012年末までに約2000カ所の携帯基地局に24時間以上運用可能な電池を設置するとしている。
社会インフラのバックアップ電源を大容量化しなければならないという教訓を、今回の震災から学ぶことができた。HEVの躍進による大容量電池特需と合わせて、産業界にとっては数少ない明るいニュースである。
【訂正】記事の掲載当初、2ページ目第2段落で「BEV実現までにはまだまだ課題が多いと聞く」としていましたが、この後に「なお日産「リーフ」のように、プラグイン(家庭用コンセントから充電可能)なBEVを、ハイブリッドを飛び越えて一足飛びに実現した車もあり、市場動向が注目されている」という文を追加いたしました。2ページ目の末尾で「リチウムイオン電池を搭載するHEVは2011年から2012年にかけて、アウディやフォルクスワーゲンからまず登場するのではないかといわれている」としていた箇所は、「リチウムイオン電池を搭載するHEVは、国産車ではトヨタ「プリウスPHV」「プリウスα」の7人乗りモデル、日産リーフがある。海外メーカーでは2011年から2012年にかけて、アウディやフォルクスワーゲンから登場するのではないかといわれている」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。上記記事は訂正済みです。
【訂正2】2ページ目の末尾で、日産リーフがBEVであることが分かりにくかったため、表現を追加しました。上記記事は訂正済みです。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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