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ヒントはクラフトマンシップにあるんです“明るく・楽しく”!? 環境配慮型設計・現場の心得(1)(2/2 ページ)

環境アセスメントってナニ? 高懸念物質……? クリエイティブなモノづくり業務と関係ないけど、対応しないと仕事にならない“お約束”に、楽しく挑むにはどうしたらいいのでしょう? 明るく・楽しいモノづくりがモットーのカリスマ改善人が「環境配慮」を考えたら……。

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モノづくりの要素と資格が逆ベクトルに働いたケース

 実は、筆者は3.11の東日本大震災でこの考え方とは逆方向のベクトルのモノがあることに気付きました。それは事故を起こした原子力発電所のことです。

 福島第一原子力発電所が津波に耐えることができず、多くの住民や従業員に大きな危険を及ぼし(S、安全の不担保)、農作物や海水、土壌を汚染し(E、環境の不担保)、電力の安定供給ができなくなりました(Q、品質の不担保)。こうした事態に陥った理由は、コスト(C)という競争する資格を持ち合わせていないからだと筆者は考えます。

 「わが家はXX電力から電気を購入する」という、利用者側の自由な選択が可能となる本当の「電力の自由化」が進めば、各電力会社間で適正な競争原理が働きます。競争の中で生き残るためには、S(安全)、E(環境)、Q(品質)の担保が絶対条件になるはずです。

 自動車や家電などのモノづくり企業は競合他社との熾烈(しれつ)なC(コスト)、D(納期)の競争のために、あらゆる改善や合理化を進めています。もしS(安全)、E(環境)、Q(品質)の要素で大きな問題を起こしてしまったら、それをリカバリーし、さらに信頼を回復するためには多大な費用と長い長い時間が必要になります。当然今回の原発問題も同様で、そのリカバリーには想像を絶する費用と時間がかかるでしょう。

 これを機に電力会社が「安全と環境を担保した上での適正競争」という仕組みに転換されることを願って止みません。

辛く苦しい設計業務?

 さて、本題の「環境配慮型設計」に戻しましょう。筆者は「設計・開発」という行為は「無から有を生み出す」素晴らしくクリエイティブなものだと思っています。筆者自身も、大学では機械工学を学びました。A0版のドラフターを自宅に置き、ときには徹夜で「渦巻きポンプ」やらの図面をひぃひぃ言いながら仕上げたものですが、集中しているときには、時がたつのを忘れるほど楽しかった覚えがあります。

 いま、第一線でがんばっていらっしゃる設計者の皆さんも、さぞ毎晩遅くまで会社に残って働いていらっしゃることでしょう。筆者が現場にいたころは、まだ手描き図面の時代でしたら「図面を丸めて長い筒に入れ、それを抱えて自宅に戻り、のんびりとした雰囲気の中で線を引く」なんてことができましたが、現在のCADソフトやセキュリティ環境ではまったく無理でしょう(仕事を家に持ち帰るのを推奨しているわけではありません)。

 設計・開発は素晴らしくクリエイティブで、本来楽しくて仕方のない仕事のはずなのです。それなのに、なぜ世の中の設計者たちは毎晩疲れた顔をして帰宅し、休日にはあまり人気のない会社で黙々と仕事をしている姿がしばしば見られるのか。先に述べたモノづくりの全要素が設計で95%決まってしまうからではないでしょうか*。


*本当は100%と書きたいところですが、5%ほど猶予を持たせてあげましょう(笑)。


 自分が行った設計で、モノづくりの要素がほとんど決まってしまう。安全や環境、品質は下手すればクレームやリコールにつながります。コストは部品の価格や組み立て工数も、やはり設計で95%が決まりますから、購買部門や製造部門から「こんな設計だからコストで負けるんだよ!」などといわれてしまう。

 「じゃあ、あんたたち自分で設計してみろよ!」といいたくなりますが、それじゃあ設計者の(いい意味での)プライドを捨ててしまうことになる。あぁ、設計ってつらい仕事だなぁ……。

 あれ? このコラムのタイトルは「明るく楽しい環境配慮型設計」じゃなくて「暗くつらい環境配慮設計」でしたっけ? とお思いでしょうか? ご安心さい。違いますよ、第2回目からは「明るく楽しい」に向けて話を進めます。

 私は16年勤務した某コンピュータ周辺機器メーカーで「一人完結セル生産」の仕組みを製造部門のエンジニア、そして実際に作業するスタッフ(全員女性です)と一緒に作り上げました。それまでの「ライン生産」から「一人完結セル生産」に全面的に変わった時に、社長が「現場の女性たちの顔付きが変わったなぁ! みんな生き生きしているよ!」と驚いてくれました。いままでの「タクトタイム」という時間に縛られながら、ある一定の作業を8時間こなすスタイルから、「自分のペースで作業すればいいですよ。その代わり最初から最後まで、検査も梱包(こんぽう)もやってね」のスタイルへの変化で、現場の女性スタッフは「やらされ仕事」から解放され「やりがいのある仕事」に取り組むことができたのです。

 「セル生産」という言葉は元・ソニー生産改革センター長(現・ワークセルコンサルティング代表)の金辰吉(こん たつよし)氏が名付けたものです。金氏とは7年ほど前にあるセミナー会場で偶然お逢いしたときに、とても初対面とは思えないほど意気投合してしまい、以来、ときにはお酒を酌み交わす仲です。その金氏が昨年の日本経営工学会春季大会記念講演で、実に興味深いお話をしたことが、これまた知人の日揮でプロジェクトマネジメントのお仕事をされている佐藤知一(ともかず)氏のブログ、「タイム・コンサルタントの日誌から」に掲載されていますので、その一節を拝借します。

 労働者の人間性を生かす一つの基準として、工業経営学が提起したのは、「作業時間内に、自由に休憩できる」という、単純な指標だった。これが満たされないと、仕事の能率は有意に下がる。だが、100人の労働者からなるベルトコンベヤー・ラインでは、一人が抜けても、システム全体のパフォーマンスに影響するのだ。では、どうしたら良いのか?

 そこで出てくるのが、「セル生産方式」なのである。比較的小さな自己完結的工程からなるセル生産には働く者の自由度がある。自分で休みたいときに休み、また働きたいときに働いても、自分の成果が変わるだけで、他のセルには何の影響もあたえない。自由度とフレキシビリティ――これがセル生産方式のメリットだと、普通は喧伝される。

 だが、セル生産方式で一番重要なことは、働いている労働者の人間性を少しでも尊重できる点にあるのだ。労働者を、単なる「コスト」として、取り替えのきく「部品」として見るのではなく、一個の人間として遇すること。人間性の向上と生産性の向上がともに目標であること。これが日本メーカーの生き残る途ではないか。

*引用中は原文ママ。「日本メーカの生き残る途 − 元ソニー取締役・金辰吉氏の講演から」(ブログ『タイム・コンサルタントの日誌から』)より引用。


 なぜいきなりセル生産の話を引用したかというと、この範囲をもっと広げて「自ら設計したものを自分の手で作って売る」、まさに「設計〜販売」の一気通貫(職人、クラフトマンの世界ですね)を行えば、必ず「明るく楽しい仕事」になるのです。

 しかし、相当な小規模の組織で、かつ付加価値の高い製品でなければそんな事はできません。では、どんな方法で「明るく楽しい環境配慮型設計」を実現するのか。次回をお楽しみに! (次回に続く


筆者紹介

関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表

 専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなどの大規模アセンブリを完全一人完結組み立てを行い、品質/生産性/作業者のモチベーション向上を実現した。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、実務改善に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。

 現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡理工科大学講師、早稲田大学大学院講師、豊橋技術科学大学講師として教鞭をにぎる。



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