検索
連載

「自動車メーカーにケンカを売るつもりはない」〜ロボットカーに挑戦するZMPの狙い(前編)再検証「ロボット大国・日本」(2)(2/2 ページ)

日本発ロボットベンチャー「ZMP」が自動車分野へ参入した狙いとは? 前編では「なぜロボットカーなのか」を探る。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

なぜロボットカーなのか

 ZMPは、科学技術振興機構(JST)の研究成果である2足歩行ロボット「PINO」の技術移転を受けて、2001年に創業したロボットベンチャー。これまでに、家庭用の2足歩行ロボット「nuvo」(2004年)や音楽ロボット「miuro」(2006年)、教育・研究用の「e-nuvo」シリーズ(2006年)などを製品化してきた。

 ロボットカーに関しては、2007年から研究開発を始めたという。それまでの家庭/教育向けロボットからすると、多少唐突な印象もあるが、「自律移動の部分については、既にmiuroで実装していました。屋内と屋外という違いはありますが、技術的にはこの延長なんです」と谷口社長。


photo
ZMPでロボットカーを手掛ける谷口恒社長。もともと自動車業界の出身だ

 それに谷口社長はもともと自動車業界の出身。自動車業界からロボット業界に転身して、今また自動車業界への逆参入を狙うことになったわけだが、自動車業界とロボット業界の親和性について、「ホンダもトヨタもそうですが、自動車メーカーはみんなロボットをやっています。制御が必要だったり、部品点数が多かったり、自動車とロボットでは共通していることが多い」と語る。

 今年(2011年)4月にも、栃木県で子ども6人がクレーン車にひかれて死亡するという悲惨な事故が起きた。こういう事故が起きると、大抵ネット上には「運転手を死刑にしろ」といったような条件反射的なレスポンスが並んだりするものだが、どんなに法律を変えて厳罰にしたところで、人間が運転する以上、ミスはなくならないだろう。それどころか、厳罰化によって、ひき逃げなどが増えるという恐れすらある。どうしても「制度」による対策には限界がある。

 こういった問題を本質的に解決できるのは、やはり「技術」しかない。現時点でも、居眠りを検出して警告を出すような機能を実装した市販車もあるが、ロボット化をさらに進めることで、将来的にはかなり事故を減らすことは可能なはずだ。

 谷口社長は「ロボット技術の出口の1つとして、われわれが社会に貢献できる方向を考えると、それはやはり、これだけ多くの人が使っている自動車でしょう。ロボット技術によって、モビリティとしての自動車は大きく変わります」と、自動車分野への参入の動機を語る。メーカー出身の技術者も社員に採用し、開発を本格化。4年で電気自動車の製品化にこぎ着けた。RoboCar MEVはベースとなる車体はあったが、ロボット技術をインテグレーションして、内部は大幅にオリジナル化してあるという。

 自動車分野への参入に際しては、産業として圧倒的に規模が大きいことも魅力であったが、だがそれでも「狙うところはニッチ」だという。「自動車業界をピラミッドで表すと、下の裾野が広い場所が量産、その上に開発があって、頂点の小さな部分が研究になります。研究の中でも、先行した基礎研究から実際の開発に近いものまでありますが、われわれがターゲットとしているのは、一番上の上、みんながまだそんなにやっていない知能化の研究です。超ニッチですが、ニッチじゃないと自動車分野なんて入れないですよ」と笑う。

 既存の自動車メーカーとは、競争よりも協力を目指す。「自動車業界には、そういうビジネスモデルが昔からあるんです。排ガス規制のときは、堀場製作所という会社が測定機器を作って成長しました。マイコンが増えてソフトが複雑になってきたときには、それをエミュレートして開発を効率化する会社も出てきました。環境が変わったり新しい開発プロセスが出てくる度に、自動車業界では新しいツール会社が生まれてきたんです」と谷口社長。ZMPが目指すのも、開発ツールとしてのロボットカーだ。

米国ではもう公道実験も

 しかし、ロボットカーの分野で先行するのは米国である。中でも、いま最も注目されているのはGoogleの動向だろう。同社は昨年(2010年)10月、公式ブログにおいてロボットカーの研究について紹介、既に公道での走行実験を行っていることを明らかにした。自動運転は、少なくとも技術的にはもう実現可能な段階に来ているのだ。モタモタしていたら、実用化も先を越されかねない。

 次回も引き続き、谷口社長のインタビューをお伝えする。

筆者紹介

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。

Twitterアカウントは@ots_min


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る