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米国が目指すEVの普及、100万台構想は実現できるのか(後編)電気自動車 100万台構想

電気自動車の普及に大きな影響を及ぼすのが、充電インフラの充実である。多様な企業が参加する米国のインフラ作りの現状を紹介する。

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 前編では、バラク・オバマ大統領がうたう「電気自動車100万台構想」を紹介し、米国と中国が電気自動車の導入台数で世界を先導するという予測を示した。ガソリン価格が電気自動車普及に大きな影響を及ぼすことが分かる。

 中編では、電気自動車普及のもう1つのカギであるリチウムイオン二次電池の長期的な価格動向の他、米国が24億ドルを投じて、二次電池大国に変わろうとしている姿勢を紹介した(@IT MONOist)。

ガソリン、電池、最後はインフラ

 たとえリチウムイオン二次電池の価格が下がったとしても、道路脇で素早く簡単に充電できると誰もが安心できるようになるまで、電気自動車が爆発的に売れることはないだろう。現在のガソリンスタンドと同じように、どこでも充電できる公衆用の充電スタンドの整備が必要だ。

 インフラの構築を推進している組織の1つが、特定企業に属さない非営利団体であるElectrification Coalitionだ。発電所から充電スタンドの設置業者まで、電力供給に関係するさまざまな企業が加盟している。加盟企業は20社以上に上り、天然ガスや電力を供給するPG&E、発電用機器を製造するGeneral ElectricやSiemensから、レンタカー業のEnterprise Holdings、配送業のFedEx、ベンチャーキャピタルのKleiner Perkins Caufield&Byers、コンピュータ用通信機器を製造するCisco Systemsなど多様な企業が名を連ねている*4)

*4)日本企業では日産自動車が加盟している。

 Electrification Coalitionは、2009年の報告書の中で、人口密度の高い米国内の少数の大都市圏に「電化エコシステム」を構築することを提案している。電化エコシステムがあれば、地方自治体や企業は消費者が電気自動車を購入するよう促しやすくなり、消費者の勤め先も電気自動車に対応できる。さらに、インフラや公衆充電スタンドの建設を促すために、付帯設備や設備投資に対する税額控除を導入しやすくなる。

 電化エコシステムの提案には、もう1つの重要な要素がある。General ElectricやFedEx、UPSなどの企業が社用車として電気自動車を購入する他、Enterprise Holdingsなどが主要市場でのビジネス用レンタカーとして電気自動車を購入することも盛り込まれている。

 エネルギー関連に特化した米国の市場調査会社であるPike Researchによれば、2015年には、電気自動車の普及台数では、ニューヨーク市とロサンゼルス市が大都市圏のトップになるという。しかし、1人当たりの普及率では、ワシントン州シアトルなどの中規模都市が最も高くなる可能性が高い。

 インフラの構築に携わっている企業の1つに、Coulomb Technologiesがある。同社はエネルギー省から米国再生再投資法の施策の一環として、1500万米ドルの助成金を受けた。同社は、「ChargePoint America」計画を通じて、米国の9つの地域に4600カ所の無料充電ステーションを設置する計画だ。9つの地域とは首都ワシントンの他、テキサス州オースチン、デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、フロリダ州オーランド、カリフォルニア州サクラメント、サンノゼとサンフランシスコ湾岸地域、ワシントン州ベルヴューとレドモンドである。ChargePoint America計画は、Coulomb Technologiesと自動車メーカーであるFordやChevrolet、smart USAの戦略的パートナーシップに基づいている。

 ChargePoint America計画のようなプログラムによって、電気自動車市場に弾みがつくかどうかは、現時点ではまだ分からない。米国の国際経営コンサルティング会社であるPRTMでGlobal e-Mobility Practice担当ヘッドディレクタを務めるオリバー・ハジメ(Oliver Hazimeh)氏はインフラの課題を「キャッチ-22」*5)に例えている。インフラが整備されるまで、電気自動車は売れないが、投資家は、販売台数がぐんと伸びるまで、インフラを整備しない。「企業はうまくいく仕組みを模索している」(同氏)。

*5)キャッチ-22は、ジョーゼフ・ヘラーの小説の題名。第二次世界大戦中の米兵が陥ったジレンマが描かれている。

 このような状況を見ていると、現在起こっている出来事、分岐点に話が戻ってくる。アラブ諸国で起こっている革命により、原油価格が高止まりした場合、原油価格だけのために、米国で電気自動車の普及が進み、4年後には100万台が走行している可能性がある。

 長年、石油に依存する生活を可能にしてきたのと同じ地域が、その依存生活を終わらせることになるとすれば、皮肉なことだ。

100万台構想の誕生と現状

 以下では、本文で紹介した100万台構想の詳細と、オバマ大統領の一般教書演説のさわりを紹介する(@IT MONOist)。

 2008年8月の選挙遊説に際して、当時、上院議員だったバラク・オバマ氏は「われわれは石油社会が終わるのを見ることになる」という展望を語った。このとき、合計100万台のプラグインハイブリッド自動車と電気自動車を2015年までに普及させるという公約を発表した。その公約には以下のような詳細な数字が含まれている。

  • 工場の設備を一新し、150MPG(マイル/ガロン、63.8km/lに相当)*A-1)という燃費を達成するプラグインハイブリッド自動車を製造するため、米国の自動車メーカーに対して40億米ドルの税額控除。
  • 初期モデルのプラグインハイブリッド自動車を購入する消費者に対する7000米ドルの税額控除。
  • 2012年までに政府が購入する車両の半数をプラグインハイブリッド自動車や電気自動車にする。

*A-1)日本国内で最も燃費の高い自動車であるプリウスの燃費は38km/l(10・15モード)、32.6km/l(JC08モード)。日米で燃費の計算の前提条件が異なり、同一の車両であれば、MPG値の方が燃費が低くなる傾向にある。

 しかし、この公約の実現はあまり進んでいない。米エネルギー省は2009年、米国での電気自動車の開発に弾みをつけるため、米国再生再投資法の施策の一環として、24億米ドルの政府補助金を発表した。消費者に対する7000米ドルの税額控除は実際には7500米ドルに増えた。2011年1月にはこれがさらに現金による払い戻し措置に変更されたため、電気自動車の購入がより魅力的なものになっている。しかし、政府議会が予算を削減するレトリックを考えれば、この7500米ドルという金額も数年後には縮小される可能性が高い。

 電気自動車が2012年には政府が購入する車両の50%に達し、2015年には100%を占めるようになるかどうかは、オバマ大統領が再選されるかどうかを含め、多くの要因に左右される。とはいえ、2015年の目標が達成されれば、大きな影響がある。

 現在、米政府の一般調達局(GSA)が管理している車両65万台のうち、2009年に政府が購入した5600台を含む約1万1000台が電気自動車やハイブリッド自動車だ。GSAは2010年末、電気自動車100台の新規注文への入札を自動車メーカーに要請している。

オバマ大統領の一般教書演説の抜粋

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図A-1 一般教書演説に登壇したオバマ大統領

 「現在はわれわれの世代にとってスプートニクショックに当たる。2年前、われわれは宇宙開発競争時代以来、到達したことのないほど高い研究開発水準に達する必要があると述べた。数週間後には、この目標の達成を後押しする予算案を議会に提出する。生物医学研究や情報技術、特にクリーンエネルギー技術に資金を投じる。セキュリティを強化し、環境を保護し、米国民に無数の新たな雇用を創出する」(図A-1

 「単なる資金の提供ということではない。挑戦する目標がある。米国の科学者、技術者が各分野で最も優秀な人材を集めてチームを結成し、最も難しいクリーンエネルギーの問題に注力すれば、アポロ計画に匹敵する資金が与えられるということだ」

 「カリフォルニア工科大学では、太陽光と水から自動車用の燃料を作り出す方法を開発している。オークリッジ国立研究所では、スーパーコンピュータを使って、原子力発電所の発電量を増やす研究を続けている。さらなる研究とインセンティブにより、石油やバイオディーゼル燃料への依存から脱却して、2015年には100万台の電気自動車が走行する最初の国になれる」(前編に戻る



Bruce Rayner(ブルース・レイナー)氏

環境関連のコンサルティングを行うAthletesfor a FitPlanetの創設者で、最高環境責任者を務める。EE Timesの外部編集者、ウェブキャストの司会としても活躍している。


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