米国が目指すEVの普及、100万台構想は実現できるのか(前編):電気自動車 100万台構想
オバマ米大統領は2011年3月30日に「エネルギー政策の未来図」と題した計画書を紹介し、米国のガソリン輸入量を10年間で1/3削減する他、連邦政府の購入する自動車を電気自動車などに切り替える計画を明らかにした。これは同大統領がうたう「電気自動車100万台構想」の一環である。米政府が電気自動車を石油社会から脱却する取り組みの1つとして捉えていることが分かる。
「米国は、エネルギーの安定的な確保という問題に関して、集中して取り組む時期とほとんど注意を払わない時期、つまり『集中と緩慢』を繰り返してきた。ガソリン価格が上がった時には矢継ぎ早に対応するが、ガソリン価格が下がれば対応をおざなりにするというやり方はもう止めるべきだ」。バラク・オバマ米大統領は2011年3月30日の演説で、こう語った後、「エネルギー政策の未来図(Blueprint for a Secure Energy Future)」と題した計画書を紹介した。今後10年間で石油輸入量の3分の1を削減し、2015年までに連邦政府の購入する車両をハイブリッド(HEV)または電気自動車(EV)に限定する措置を講じるという。
演説の趣旨は、2011年1月25日の一般教書演説から一貫している。オバマ大統領は一般教書演説の中で、「われわれが直面する新エネルギー革命は、人類初の人工衛星『スプートニク』*1)が打ち上げられた時に相当する」と述べ、クリーンエネルギー開発の必要性を訴えた。そして、「石油やバイオディーゼル燃料に依存する体制を打開し、他国に先駆けて、2015年までに国内の電気自動車の台数を世界に先駆けて100万台に増やす」という目標を掲げた。この演説以降、この目標は妥当であるか、そもそも実現可能なものであるのかといった議論が繰り広げられてきた。
*1)訳注 宇宙開発のリーダーであると自負していた米国に先駆けてソビエト連邦が世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた事件「スプートニクショック」は、アメリカの危機感を表すスローガンとして使われている。米国は1957年のスプートニクショックから約10年間、教育、学術、宇宙計画、軍事に大量の資金を投下した。
だが、一般教書演説から2カ月後、世界は厳しい現実に直面した。石油資源の豊富な中東や北アフリカ諸国で革命が起こり、電気自動車技術をリードする日本は巨大地震や津波、原発事故に見舞われた。こうした出来事は今後、数カ月から数年の単位で続く可能性があり、石油への依存を脱却し、電気自動車に適した交通システムを構築するという米国の政策に影響をもたらす可能性がある。
米国と中国が電気自動車を先導する
オバマ大統領の電気自動車100万台構想を実現できるかどうかは、供給と需要に関する数多くの要素に掛かっている。エネルギー関連に特化した米国の市場調査会社であるPike Researchは、米国が達成できる数字を約84万台と予測する。この予測値には、電気自動車とプラグインハイブリッド自動車(PHEV)の両方が含まれている。一方で、Pike Researchは、2010年から2015年の間に、中国を含む世界のどの国や地域よりも多くの電気自動車やハイブリッド自動車が米国で使われるようになるだろうと予測している(図1)。
図1 電気自動車とプラグインハイブリッド自動車の予想販売台数 2010年から2015年(縦軸)について、1年ごとの販売台数(横軸、単位:千台)を示した。米国(青)と中国(赤)の成長が著しく、欧州(薄茶)と日本(黄)が続く。世界のその他の地域(ROW)は日本と同水準に成長するという。出典:Pike Research
ただし、Pike Researchのアナリストであるジョン・ガートナー(John Gartner)氏は、「日本で震災が起こる前に予測をまとめたため、現状をかんがみると予測よりも低くなる可能性もある」という注釈を入れている。
これは、日本が世界第1位のリチウムイオン二次電池(バッテリー)の生産国であるためだ(世界第2位は韓国)。日本のサプライチェーンが受けた打撃は当面の間、二次電池と電気自動車双方の製造に影響を及ぼすことになると見られる。トヨタ自動車は、日本で4月に発売する予定だったワゴンタイプの新「プリウス」の発売時期を延期した。また、日産自動車は電気自動車「リーフ」向けの二次電池の製造や組み立てを再開したが、「生産水準は計画停電の頻度によって変わる」(同社)としている。
一方、オバマ大統領の政策に対して、もっと楽観的な見方もある。米国の国際経営コンサルティング会社であるPRTMでGlobal e-Mobility Practice担当ヘッドディレクタを務めるオリバー・ハジメ(Oliver Hazimeh)氏は、「電気自動車100万台構想は実現可能だ」と述べている。ただし、「これは自然に達成できる数字ではない」とし、原油価格や米国経済の健全性、この政策に対するワシントンの議員らの姿勢、リチウムイオン二次電池の供給状況や価格、技術開発に関する課題、充電インフラへの投資、企業や政府の保有車両の電気自動車やハイブリッド自動車への買い替え、日本経済の回復速度など、さまざまな要素が同時に良い状態になければならないと指摘する。
ガソリン1ガロン当たり5米ドルが条件か
ガートナー氏は、「これらの要素のうち幾つかは、電気自動車の需要を喚起するか否かの転換点になり得る。例えば、ガソリン価格が1ガロン(約3.8L)当たり5米ドル*2)に高騰し、その状態が長期間続けば、追い風となって電気自動車の需要は実質的かつ大幅に拡大するだろう。しかし、ガソリン価格が下がれば、経済は失速して不況に陥り、7500米ドルに上る電気自動車の連邦補助金は削減または廃止され、電気自動車の販売台数は減ってしまうだろう」と述べている。
*2)訳注 アメリカ自動車協会(AAA)が公開する「AAA Fuel Gauge Report」によれば、セルフサービス型のスタンドにおけるレギュラーガソリンの全米平均価格は、2010年6月から9月にかけて約2.7米ドルで安定していた。その後、一直線に上昇し、2011年4月には3.8米ドルに達した。ガソリン価格が高いカリフォルニア州やニューヨーク州など7州では4米ドルを上回っている。
米国エネルギー情報局(EIA)は2011年3月8日に、北アフリカと中東地域の情勢不安から、2011年の原油の平均予想価格を前回の予測値から14米ドル引き上げ、1バレル(42ガロン、約160L)当たり105米ドルに上方修正している。さらに、産油国の政治的な混乱により、石油の安定供給が不確実になることから、2011年の夏ごろまでに1バレル当たり130〜150米ドルに達するという見方もある。今後の長期的な懸案事項は、石油の産出量が最大となる時期(ピークオイル)がいつなのかということだ。(中編へ続く)
【翻訳:滝本麻貴、編集:@IT MONOist】
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