パーツカタログ担当者が始めた顧客視点のPLM:ちょい先未来案内人に聞く!(3)(2/5 ページ)
洋の東西、老若男女を問わず、モノづくり現場の最前線から、その先を見つめる専門家に焦点を当て、明日のモノづくり環境のビジョンを紹介する。
パーツカタログは付け合わせの野菜?
パーツカタログ作成部門に移動した田中氏は、ほぼ手作業で行われているパーツカタログの作成プロセスに無理と無駄を感じ、根本から改革する必要があると判断した。また、長年にわたってこのような無理なプロセスで作成を強いられてきた原因は、パーツカタログの重要性を企業が正しく理解していないことにあるのではないかと考えたという。
「パーツカタログは、製品というメインディッシュに添えられた『付け合わせの野菜』という立場に甘んじていました。製品に関連するドキュメントは、製品企画、設計・開発、生産技術・製造、販売準備・販売、サービス・保守といったフェイズによって、さまざまなものが作られます。PL法などの法的な拘束力もあることから、製品に添付される取り扱い説明書までは、厳格に作成されていました。しかし、一度販売してしまった製品の修理やメンテナンスは、販売に比べて軽視されているのです。そのため、大幅な投資が行われることもなく、ほぼ手作業で作成されてきました。しかも、それが習慣的な作業として定着してしまっていたのです」(田中氏)。
製品を製造して販売することで利益を得るメーカーが、製造および販売に注力するのは当然である。その一方で、アフターサービスは、単なるコストだと考えているメーカーも少なくない。しかし、製品のライフサイクルやメーカー保証期間を考えた場合、特に高価で耐用年数の長い汎用機器や、過酷な条件下で使用されることの多い製品を製造するやまびこのようなメーカーにとっては、アフターマーケットを効率よくコントロールすることが重要となってくる。実際に田中氏はパーツカタログの重要性を、次のように語っている。
「パーツカタログは、取扱説明書のように製品に添付されるドキュメントではありません。そのため、必ずしも製品製造に間に合わなくてもいいと思われがちです。しかし、やまびこが扱うチェーンソーや農林業機械などは、交通の便の悪い農村部や山間部で利用されることの多い製品です。そのため、事前に補修部品などを用意してからでなければ(自身が顧客からの信頼を落としかねないので)販売できないと考える販売店の方も多いのです。製品は出荷されているにもかかわらず、パーツカタログが間に合わないために“商品”として扱ってもらえず、保守用部品が到着するまで販売できないといわれることもあります」(田中氏)。
つまり、やまびこでは、パーツカタログとは決して付け合わせの野菜などではなく、販売促進のためにも非常な重要なドキュメントととらえているのだ。しかし、多くのメーカー同様、やまびこでもパーツカタログは付け合わせの野菜的な考えは根強く残っているという。
本当にユーザーが求めている情報を提供できているか
田中氏は、既存のパーツカタログ作成の問題を分析するため、パーツカタログを参照するユーザー(代理店や販売店のスタッフ)が、パーツカタログに何を求めているかを確認するため、国内外の関連各社および代理店を対象に不満足調査を実施した。その結果、ほぼすべての改善要望が以下の3点に集約された。
早く 販売時に生じている機会損失の回復
正確に 誤出荷の低減による相互の経費・時間削減
ストレスなく アフターサービスの向上によるブランドの信頼維持
この結果から、田中氏はユーザー側が求めるパーツカタログと、作成する側が提供しようとしている情報の本質に乖離(かいり)があることに気付いたという。
「代理店や販売店の方々にとって、パーツカタログは貴重な情報源です。ビジネスチャンスを拡大するため、ユーザーは企業側に迅速な情報の提供を求めています。また、誤発注・誤出荷を低減し、時間・経費の削減をするためには、提供された情報の質(正確性)が担保されていなければなりません。しかし、企業側からは野菜の付け合わせ程度にしか考えられていないため、本当にユーザー側が求めている情報を的確なタイミングで提供することができていなかったのです。これでは顧客満足度や企業の信頼度を向上することはできません」(田中氏)。
まずは、コストを掛けない応急対策
しかし、長年にわたって手作業で続けられてきたパーツカタログの作成プロセスを、いきなりすべて変えてしまうことは困難である。そこで田中氏は、なるべくコストを掛けずに、手作業に頼っている部分をなるべく少なくすることから始めることにした。
既存のパーツカタログ作成プロセスの中で、特に無駄だと考えたのは、前述したE-BOMとS-BOMが連携していないことによる整合性確認の手間である。しかも、日々設計変更が起きることから、一度作成したパーツカタログのデータは、類似機種のパーツカタログの作成に役立てることができない。紙ベースで作成されたデータは、作成されてから現在までに発生した設計変更などの情報が反映されないためである。そこで、E-BOMとS-BOMのデータを、部品番号や部品名称をキーに、表計算ソフト(Excel)が提供するルックアップ関数を活用してひも付けることにしたのだ。つまり、紙ベースの作業からの脱却である。これまで作成担当者が紙面の隅に書き込んでいたメモも残せるように、Excelのデータには備考欄も設けた。
「Excelへの移行の目的は、現状分析で発見された“詰まり”を迅速に解決することにあります。あくまでも応急処置なので、根本的な解決の課題は残しています。実は、最初に作ったこの仕組みにも、関係者は難色を示しました。既存のやり方を変えることに抵抗があったのだと思います。電子化することで、同じ作業を繰り返さなくてもいい点や、過去のデータを利用できる点などを繰り返し説明して少しずつ受け入れてもらいました」(田中氏)。
この応急処置は、データ管理を電子化すること、手作業をなるべく減らすことを目的としている。あくまでも暫定的な対応であり、イラストを効率よく作成し、部品番号のリスト部分をひも付けるという課題は解決していない。
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