PLMのシナリオに即したインターフェイスを〜HD-PLMが実現するのは“超PLM的UX”:ちょい先未来案内人に聞く!(1)(1/2 ページ)
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シーメンスPLMソフトウェア(以下、シーメンスPLM)は2010年5月「High Definition PLM(HD-PLM)」の構想を発表した。発表内容がやや抽象的であったことから、具体的なイメージをつかめていない読者も多いのではないだろうか。
連載第1回となる今回は、HD-PLM製品担当副社長であるブルース・フェルト氏にインタビューを行い、HD-PLMの本質と、同社が目指すPLMの在り方に迫ってみる。
基本設計思想は「パーソナライズ」「アシスト」「明確化」「検証」
そもそもHD-PLMとは、どのようなものなのだろうか。筆者は下記記事などを読んでも漠然としかイメージがつかめない印象だった。単なるユーザーインターフェイスの変更というわけではないらしい、という印象ではあるが、果たして一体何なのかが明確に見えなかった。
シーメンスPLMが2010年5月20日に発表したニュース・リリースによれば、「製品ライフサイクルにかかわるすべての意思決定者が、1つずつの判断をより確かな情報に基づいて、確実、適切かつ効率的に行えるようにする新しいテクノロジ・フレームワーク」であるとしている。
フェルト氏はHD-PLMを「フレームワーク」と表現する。フレームワークというのは、何らかのアプリケーションライブラリセットが用意されている、という意味合いではなく、インターフェイスの在り方についての発想方法、セオリーそのものの枠組みを変える、という意味があるようだ。
「HD-PLMによって、新しいユーザーエクスペリエンスを提供する」と語るフェルト氏は、HD-PLMの基本的な機能を、「パーソナライズ」「アシスト」「明確化」「検証」であると説明する。
つまり、「パーソナライズ」によってユーザーを認識し、それぞれのユーザーに最適化された環境を提供する。
例えば、設計者であれば、設計業務に必要となる機能や情報を優先的に表示する。そして、ユーザー最適化された環境においては、業務の遂行に関連した情報の提供や、関係者とのコラボレーションなどを行う「アシスト」機能がある。もちろん、提供されるのは、直感的で理解しやすいビジュアルの「明確化」された情報である。そして、最後の「検証」は、製品の妥当性や実現性を評価・検証する機能である。一般的に製品の検証は時間と手間のかかるプロセスであるが、HD-PLMによって検証を素早く行えるようになるという。
次世代ユーザーインターフェイスのための「アクティブ・ワークスペース」
フェルト氏は、HD-PLMの思想を具現化するものとして「アクティブ・ワークスペース」と呼ぶ表示レイヤを示した。
HD-PLMのメソッドでは、利用者が学習するのではなく、PLMソフトウェア側が利用者のロールや権限を把握して、アクティブな情報、アクティブであるべき情報を判断して表示し、利用者に気付かせるべき、という考えがある。「アクティブ・ワークスペース」はこのHD-PLMの思想を実現するために、同社各製品群の表示系を横断的に利用するためのレイヤとして用意されている。
利用者から見ると、Teamcenterのどの機能の画面か、図面を開くビューアアプリケーションはどこか、部材調達状況の確認画面はどこか、といったことを考慮することなく、PLMにかかわるデータを集約してアクティブ・ワークスペース上で閲覧できることになる。
アクティブ・ワークスペースについて、フェルト氏は次のように語っている。
「われわれが考えているHD-PLMのアイデアは、アクティブ・ワークスペースによって表現されます。アクティブ・ワークスペースは、複雑性が排除された使い勝手のいいユーザーインターフェイスによって、PLMの作業をインテリジェントに管理するツールです」。
ここで、「インテリジェントに管理する」とは、例えば「ログインしてきたユーザーを認識し、そのユーザーに最適化された機能や情報をシステム側で判断して提供することで、ユーザーの素早い意思決定をサポート」する、という意味のようだ。
「これまでのPLMシステムでは、すべてのユーザーに同じ作業環境が提供されており、利用するためにはトレーニングが必要でした。しかし、アクティブ・ワークスペースはそれぞれのユーザーに最適化された環境を提供するため、例えば設計者は、処理しなければならない変更指示はあるか、仕上げなければならない詳細設計はあるかなどを判断し、必要に応じて関連する機能や情報を提示するのです」(フェルト氏)。
つまり、システム側がユーザー情報を基に、関係するプロジェクトやアップデートのあった図面、緊急で確認が必要な情報などを、アプリケーションの境界を越えてすべてアクティブ・ワークスペースの表示領域に示すことができ、進ちょく状況も把握できるため、作業のムダの多くが省けるようになるというものだ。
もちろん、表示された情報から1つ――例えば修正依頼の出ている図面を確認して変更を加える場合は、そこから個々の設計アプリケーションを開いて操作を進めることになる。変更を完了し、依頼者に確認のオーダーを出せば、その段階で、依頼者側のアクティブ・ワークスペースには図面確認の情報が示されることになる。
図面も、解析情報も、部品情報も、サポート情報や部材調達状況も、すべて1画面で、しかも、システム側が必要に応じた情報を選定して表示してしまおうというわけだ。見落としや作業の重複、連絡漏れなどといった、人的ミスが発生しやすい部分をすべてPLMシステム側が管理することになる。この理想が実現すれば、個々の作業者はいま提示されている情報への対処に専念することができるはずだ。
まだ製品がリリースされているわけではないので、どの程度使い勝手のいいユーザーインターフェイスなのかは想像の域を出ないが、フェルト氏はアクティブ・ワークスペースのイメージをデモンストレーションして見せてくれた(図)。
アクティブ・ワークスペースのデモ画面を見る限りデザインそのものも非常に現代的になっている。複雑さを極力排除し、誰でも簡単に使えることもポイントだ。アクティブ・ワークスペースは、HD-PLMの特徴であるパーソナライズ、アシスト、明確化を体現するツールといえる。
ちなみに、アクティブ・ワークスペース機能を実装した製品のリリース時期をフェルト氏に質問したところ、「あくまでも仮の予定ですが、2011年の5月ころには主要なお客さまを対象にレビューしていただけると考えています。正式なリリースは、2011年12月ごろになるのではないか」との返答を得ることができた。
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