繊維入り樹脂は充填パターンを意識しよう:機械設計者のための樹脂流動解析入門(4)(2/2 ページ)
特に繊維配向は、設計者にとってもなかなか理解しにくい部分。今回はそれを分かりやすく解説する。
4.電装部品カバーで繊維配向解析
図Hをご覧ください。これはある電装部品です。ゲートは手前のサイドゲート1点で、強度が必要なので材料にガラス繊維を添加しました。そこで繊維配向の影響を確認するためソリ変形解析を行いました。
結果はご覧のとおり、モデル両端がZ軸方向へ跳ね上がるように、大きくソリ変形を発生させてしまいました。要因別解析(図I)をしてみると、やはり原因は配向要因のようです。
全要因のソリ形状と近似しているソリ変形は、繊維配向による変形です。ほかの要因によるソリ形状とは異なっています。つまりソリ変形を支配しているのは、繊維配向ということが理解できます
繊維配向パターン(図J)で確認すると、ゲートから放射状に広がる複雑な繊維配向となっており、これが樹脂収縮の不均一を招きソリを発生させたのです。
繊維配向が問題である以上、一番の要因は充填パターンということになります。充填パターンを確認すると(図K)、やはりゲートから放射状に広がる流れは、繊維配向のそれと同じです。ではこの充填パターンを変え、繊維配向をうまくコントロールして、ソリを軽減することはできないでしょうか?
一番手っ取り早いのは“ゲート位置を変える”方法ですが、どこに変えればいいかは前述のとおり、考えていても答えは出ません。ならばこういう場合は、解析ソフトでどんどんゲート位置を動かし、トライ&エラーで検討を進めると良いでしょう。
ここでは1点ゲートのままY軸側に配置した案(図L)を紹介します。
この案でゲート側のソリ変形はかなり抑えられました。充填パターン(図M)も当初の放射状から一方向にまとまった状態に変わり、繊維配向(図N)も充填パターンに沿った配向になっています。
まだ反対側の端部にソリが残っているので検討は続ける必要がありますが、少なくとも充填パターン(繊維配向)を操りソリを軽減することは十分可能だと分かります。実際、この手法を応用すれば、肉厚差や冷却差などほかの要因のソリ変形に、繊維配向で逆のソリを当て軽減させるといったこともできるのです。
大切なことなので繰り返しましょう。ソリ変形は「樹脂収縮の不均一」から生まれ、その要因には「肉厚差」「冷却差」「繊維配向差」の3つがあります。しかしそれぞれの要因は肉眼では見分けられません。サンプルにソリが発生しても、見るだけでは要因は分からず対策も立てられないのです。しかし樹脂流動解析なら製品設計者が“犯人”を割り出し、対策の方向を明確化できます。それは設計品質向上にもつながるでしょう。設計者の守備範囲であるなら、……いやそうでなくても、もっと積極的に、気軽に、解析を活用してみませんか(次回へ続く)。
関連リンク: | |
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⇒ | ソリ変形対策に関する動画(オートデスク) |
用語説明
- 繊維配向:強化材として樹脂に加えられる、ガラス繊維などの繊維の向きが一定の方向を向いてそろっている状態、もしくはそのそろった並び方のこと。
- 異方性:繊維状の物質の物理的性質(例えば弾性や屈折率など)が、その繊維の向いている方向によって異なっていること。プラスチックなどのほか、結晶や圧延した金属などにも現れる。
Profile
執筆・構成:柳井 完司(やない かんじ)
1958年生まれ。コピーライター、ライター。建築・製造系のCAD、CG関連の記事を中心に執筆する(雑誌『建築知識』『My home+』(ともにエクスナレッジ社)など)。
監修・資料提供:オートデスク マーケティング 笹谷 一志(ささや かずし)
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