設計者CAEについて、また考え始めよう:MONOist 2018年展望(1/2 ページ)
2017年はCAE関連企業の買収が進み、設計者CAEというキーワードが再び注目されだしている。2018年も設計者CAE関連の技術の進化に注目していきたい。
今から約10年前、MONOist開設の企画段階においても、メカ設計者による解析(シミュレーション)は必須テーマとして挙げていた。単純な応力解析ソフトなら使用している、あるいは少しでも使用したことがあるというメカ設計者の3D CADユーザーは多いだろう。
CADベンダーのユーザー会で発信されるような国内外の先端事例としては、設計現場のCAE活用について素晴らしい情報が聞こえてくる一方で、国内の大小問わないメーカー各社の3D設計推進者から直接聞く声は厳しいものが多かった。アーリーアダプターとマジョリティーの間とで乖離(かいり)が激しい世界ともいえるし、CAEに限らずメカ設計関連の3Dツール全体の傾向でもある。解析業務がイコール設計ともいえる現場がある一方、3D CADすら導入していない現場はCAEを使いようがないといった大きな差がある。業界や分野、あるいは研究寄りか設計開発寄りかで状況が違ってくるところだが、国内の製造業を全体的に見渡すなら、後者の方が勢力が大きそうだ。
多くの3D CADユーザーにとって壁が高すぎたからか、「設計者CAE」(設計CAE)はCAD/CAEベンダー発信のテーマとして、2010年代の前半から半ばを過ごすうちに、だんだんしぼんできていた。しかし、この1、2年でまたベンダー各社が設計者CAEというテーマを前向きに押し出す動きが見えてきた。この十数年間で大手ベンダーが買収してきた技術を少しずつ統合し、このところで“設計プラットフォーム”としての機能が整いつつあることがその背景の1つとしてあるだろう。
現在のユーザーを巡る状況の変化もありそうだ。MONOist開設時くらいまでの製造業の景気は比較的好調だった(余談だが、そんな状況が後押しして、MONOistが@ITからスピンオフして誕生したといういきさつもある)。製造業が広く大打撃を食らったのはやはり、2008年のリーマン・ショックだ。厳しい経済状況の下で厳しい市場競争にさらされ、「これは取り組みざるを得ない」とユーザーが注目をしだしたことも挙げられるだろう。その上、2017年は大手メーカー各社の品質問題が世間を騒がせた。今、経営側と現場、共に「この状況をどうにかしなくては!」という気持ちが高まっているだろうし、設計現場におけるCAE導入への注目はより高まるだろうと予想する。
3D CAD普及期からあった設計者CAEと技術者教育の問題
設計者CAEツールのはしりともいえるツールは1990年代後半、既にミッドレンジ3D CADの普及期に登場していた。プラグインとして3D CADのインタフェースに組み込んで、連携して利用できる構造解析ソフト「COSMOSWorks」や「ANSYS DesignSpace」だ。COSMOSWorksの開発元であるStructural Research and Analysisは2001年にダッソー・システムズに買収された。2008年にはCOSMOSの名は消え、「SolidWorks Simulation」となった。一方、DesignSpaceの名は今もなお現役だ。
PTCのミッドレンジ3D CAD「Pro/ENGINEER Wildfire」(現在の「Creo」の一部)については、かつてハイエンドシステムだったPro/ENGINEERの恩恵で、2002年の時点で3D CADから直接構造解析の機能が利用できていた。
設計者向けの解析ツールは、これまであった操作が難解で高価なCAEツールと比較すれば、低価格で、かつインタフェースが分かりやすく作られていた。しかし、いくらインタフェースを簡便にしようとも、設定ウィザードを備えようとも、材料力学や有限要素法の基礎が分からなければどうしようもなかった。設計者の中には、例えば、手計算でもできるような、ごく単純な梁(はり)計算の境界条件の入れ方からつまずいて、ソルバー実行にすら行きつかないということすらあった。一応、計算結果が出たところで、それが信用できるのかどうかも疑問になる。設計者が一番気にするのは、やはり結果の精度である……。
メカ設計者になったいきさつや出てきた学校は、実際、人それぞれだ。3D CADの普及によって、メカ設計者たちのバックグラウンドが多様化してきたことが事実としてある。また、いくら大学の機械工学部出身者であっても、誰もが材料力学や有限要素法について精通しているわけではない。機械工学部では必須で学んでいるはずの材料力学も、勉強してきたものの、実務に落としこめないうちに忘れてしまうこともある。加えて、機械工学部を卒業したからといって、専攻科目について熱心に勉強してきたかどうかも、卒業後にしっかり覚えているかどうかも別の話である。
もちろん、開発・販売している側もこのような問題は重々理解しており、現場担当も日々頭を悩ませてきた。この10年間では、ベンダー側が教育面にも積極的に取り組む動きや、コンサルティング企業が立ち上がる動きもあった。2018年現在、設計者CAEについての教育機会も教科書も、10数年前に比べればはるかに増えている。
しかしながら設計者CAEに関する技術者教育の問題は、今もなお、昔ほどではないにしても、ベンダーやさまざまなメカ設計現場から悩ましい課題として聞こえてくる。
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