設計で欠かせない「ミーゼス応力」を押さえよう:仕事にちゃんと役立つ材料力学(4)(1/3 ページ)
ミーゼス応力は設計にとって非常に大切な応力だ。材料の持つ固有の値と比較することでその材料を使った部品の強度を判定できる。
“kg”と“kgf”の違い
前回はとてもカンタンなモデルで応力を手計算してみました。答えの単位を覚えていますか? 応力は荷重を断面積で割ったものだから、[kgf/mm2]でした。
ところで[kg]と[kgf]って何が違うのでしょう? ちょっと気になりませんか? この際だからキッチリと調べておきましょう。
[kg]は読んで字のごとし、「キログラム」です。これは、その物質そのものが持っている値です。「質量」といいます。例えば、“鉄のカタマリ1kg”はどうでしょう。これはその物質そのものが持っている質量なので、地球だろうが宇宙だろうが、どこへ行っても変化しません。1kgのものは、普遍的に1kgです。
一方、[kgf]は「キログラム重」といい、「重さ」を意味します。最後の「f」は「force(力)」のことです。「重さ」とは「力」のことですから、物質そのものが持っている値ではありません。重力の値が異なる場所に行けば、重さは変わるのです。月の重力は地球の約1/6です。ですから地球での“鉄のカタマリ1kgf”は、月に行くと“鉄のカタマリ約167gf”となります。無重力状態の場所では、0kgf、つまり重さがなくなってしまいます。よって、重さは厳密にいえば、地球上でも微妙に異なるわけですが、ほぼ同じであると考えていいでしょう。
パスカルとニュートン
やっと応力の単位が[kgf/mm2]だというところまできました。せっかく単位が目になじんできたところですが、実は、この単位って一般的ではありません。応力の単位はSI単位系で、「Pa(パスカル)」と表します。
「重さは重力によって変化する」ということはすでに説明しました。この「重力」とは何か? これは「重力加速度」のことです。「重さ」は、あくまで重力を受けて物体が下向き(地球の中心の方向)に受ける力を計測した値です。SI単位系では、力は「N(ニュートン)」という単位で表さなければなりません。最近、解析工房をやっていると、若い設計者の方は普通に「ニュートン」という力の単位を使っています。僕はずぅーと[kgf]を使ってきたので、世代のギャップを感じてしまいます。
1Nとは「質量1kgの物体の速さを1秒間に秒速1mずつ上げる力の大きさ」のことです。地球上の重力加速度は「9.807m/s2」なので、「1kgf=9.807N」となります。つまり、質量 1/9.807kg(約101.96g)の物体は約1Nの重量を持つことになります。
「101.96g」とは、だいたい小さなリンゴ1個分の重さです。ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を思い付いた、ということです。ニュートンとリンゴ……、どうやら切っても切れない縁みたいですが。
[kgf]と[N]の換算は厳密には上で述べたとおりですが、ザックリと以下の2つを考えておけばいいでしょう。
- 質量1[kg]の物体の重さは、約10[N]です。
- [kgf]をざっと10倍すれば、[N]になります。
[kgf/mm2]を[N]を使って書くと[N/mm2]となります。ここまでくれば、もう一息です! SI単位系では、応力の単位を「パスカル(pascal、Pa)」で表します。
1Paは、1平方メートル(m2)の面積につき1Nの力が作用する応力と定義されます。
ここで「パスカル」という単位が出てきましたが、「パスカルの原理」は有名ですよね。パスカルの原理という言葉は知らなくても、この原理はアナタの周りの至る所で見ることができます。力を増幅する油圧システムでも、この原理が使われています。
盛和工業のホームページの解説が分かりやすいので、こちらも参考にしてみてください。
もう皆さんはお気付きかもしれませんが、応力と圧力の単位は同じです。身近な圧力といえば、高気圧と低気圧。台風シーズンともなれば、天気予報で「台風の中心付近の気圧は、945hPa(ヘクトパスカル)で……」といった解説をよく耳にするでしょう。
応力も圧力も、「単位面積当たりの力」なので、
0.102[kgf/mm2]=1x106[N/m2]=1x106[Pa]
ということになります。
また、103はK(キロ)、106はM(メガ)で表されるので、
0.102[kgf/mm2]=1M[N/m2]=1M[Pa]
ということになります。
さてここで応力の単位のまとめとして、前回(2ページ目の後半)の応力計算の解答である「1.274[kgf/mm2]」をPaに変換してみましょう。ぜひ自分でやってみてください。
。oO 筆者のつぶやき
人工衛星の構造解析
僕たちは、重力のある世界に生まれ、重力のある世界で育ちました。だから、重力があって当然の環境に慣れています。逆にいえば、重力のことを忘れてしまうのです。重力が自重を生み出すことは前回説明しましたが、その逆もあります。まだ 若いころ、人工衛星の構造解析をやったことがありました。人工衛星は宇宙にある、つまり重力のない世界です。「地球上では絶対折れそうな部材を普通に使っている」、そんな感覚を理解するのに相当苦労しました。
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