USB 3.0の物理層――受信器の評価:USB 3.0、スーパースピードを支える技術(3)(1/2 ページ)
次世代インターフェイス「USB 3.0」を技術面から掘り下げる連載。今回は、受信器の評価を中心に解説する
レクロイ・ジャパン
いま、エレクトロニクス業界で最もホットな話題の1つである「USB 3.0」。本連載では、次世代インターフェイスとして期待されているこの高速通信規格の概要から、物理層を中心に技術的な面まで掘り下げて解説していく。(編集部)
前回は、大きな伝送路の減衰に対応し5Gb/sの高速信号を正しく伝送させるために取られたUSB 3.0スーパースピードの物理層の工夫を紹介しました。今回は、受信器の評価を中心に解説していこうと考えています。
全二重通信
その前に、USB 3.0スーパースピードでUSB 2.0から大きく変わった通信方式を見てみようと思います。USB 2.0では、1本のバスを上り下り双方向で切り替えて通信を行う半二重通信を行っていました。しかしながら、半二重通信は上りと下りの信号の切り替えが大きなオーバーヘッドとなり、実効速度が損なわれて5Gb/sの高速通信の恩恵を十分受けられなくなります。またバースト信号の最初の同期パターンで、毎回クロックの同期を行う方式は、安定に通信を行うことが難しくなってしまいます。
そこでUSB 3.0スーパースピードは上りと下りそれぞれに専用の通信線を持つ全二重通信が採用されています。この結果、USB 3.0スーパースピードの信号はUSB 2.0の信号のようにバースト状の信号ではなく連続的な信号となっています。
データの送受信が行われないアイドル状態でもアイドルの信号を使って通信が続けられています。これは受信器が常に同期を維持している状態といえますので、USB 2.0の信号のようにパケットの最初に同期パターンを持つ必要がありません。
ところが、5Gb/sもの高速信号を通信し続けるにはそれなりの電力を必要とします。従って、第1回で紹介したようにきめ細かなパワーマネジメントが行えるようになっているのです。第1回の図6「Link Training and Status State Machine」にも示されたU0、U1、U2、U3の4つの電力状態が定義され、不必要な通信は停止することができます。U0は通常の通信状態をいい、U3はサスペンド状態で最も消費電力を低く抑えます。U1とU2はローパワー状態で、U1よりU2の方がより低消費電力にすることができます。
LFPS
省電力モードになると通信を停止しているため、5Gbpsもの高速通信を直接開始するのは困難なので、別の信号を必要とします。この信号をUSB 3.0スーパースピードでは、Low Frequency Periodic Signaling(LFPS)と呼び、信号は10〜50MHzのバースト状の信号です。Serial ATAにおけるOut Of Bound(OOB)信号やPCI Expressのビーコン信号と同様の役目をしています。従って、デバイスに電源が投入されると最初にLFPS信号が送出されます。
USB 3.0スーパースピードの通信開始では、前回で解説したようにイコライザのトレーニングを行う必要があるため、TSEQシーケンスを使った通信が必要です。しかしながらTSEQシーケンスに先立ち、デバイス間のリンクを確立するために、LFPS信号によるハンドシェークが必要になり、このLFPSの試験をしなければなりません。以下にLFPSの信号評価試験の結果を示していますが、上のバースト状の信号がLFPS信号です。
受信器試験
従来の物理層試験においては、受信器端における信号品質が一定以上確保されていれば、受信器は正しくデータを受け取ることができるという前提の下、送信器の信号品質と伝送路の損失評価が試験対象でした。しかしながら、USB 3.0スーパースピードにおいては、受信端における信号品質は大きく損なわれており、イコライザの助けを借りなければ正しくデータを受け取ることが難しくなります。従って、イコライザの特性を勘案した試験方法を考案しなければなりません。
送信器信号品質の評価で、イコライザの特性を勘案するために規定されたリファレンス・イコライザ特性をエミュレーションすることが求められていることはすでに説明したとおりです。しかし、規定されているイコライザの特性はあくまでも送信器の性能を試験するためのものであり、実際の受信器内部のイコライザ特性を規定するものではないことも解説しました。特にUSB 3.0スーパースピードではリンクの確立時にイコライザの最適化を行うことになっているため、この最適化調整を終えたイコライザの実特性を勘案した受信器の試験が必要と考えられました。
ジッタ・トレランス試験
受信器の試験を行うためには、通信業界で一般的に行われているジッタ・トレランス試験が妥当であると考え、これを採用することにしました。ジッタ・トレランス試験の考え方は、データ信号にコントロールされたジッタを付加して送り、規定のエラーレイトが確保するには、そのジッタの量がどこまで大きくできるかを検証することです。コントロールするのは付加するジッタの周波数と量です。受信器では、送られたデータ信号からPLLなどを使ったクロックリカバリ回路で再生したクロックを使ってデータの復号が行われます。
一般的にクロックリカバリ回路の追従特性は、ジッタの周波数が高くなるに従って低下するため、ジッタ・トレランス試験では、ジッタの周波数が高くなるほどエラーレイトを確保できるジッタ量が少なくなります。図3は、USB 3.0スーパースピードの受信器ジッタ・トレランス試験の結果を示しています。緑の○印がエラーなし、赤の×印がエラーありです。黒い折れ線が要求仕様ですので、黒い線と最も下にある赤い×との差がその周波数におけるジッタ・マージンとなります。この例では、10MHzのマージンが一番小さくなっているのが分かります。
試験に用いるデータは、すべてのパターンの組み合わせを効率的に試験するために、通信業界ではPRBS31(31段の疑似ランダム・シーケンス)パターンのデータを用います。しかしながら、USB 3.0スーパースピードではパターンの組み合わせは8b/10b変換で制限を受け、0または1が5個を超えて続くことがありませんので、PRBS31ほど長いパターンは必要ありませんが、疑似ランダム・シーケンスを使用するのが効率的です。USB 3.0スーパースピードでは、データのスクランブル用にLinear Feedback Shift Register (LFSR)が実装されていますが、そのブロック図が仕様書に図4のように示されています。
このLFSRは、X16+X5+X4+X3+1で示されるPRBS16を発生するので、これをジッタ・トレランス試験に用い、以下の表で示される周波数とジッタの量を付加して、30Gビットのデータを送ってもエラーがないことを確認しなければなりません。
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