生産スケジューリングで製造業を変える:時間と闘え! 納期遵守の工場運営術(2)(2/3 ページ)
多品種少量生産化、短納期化など、各種製造系企業に突き付けられる要求は大きく変化しつつある。旧来からの経験則による管理手法では対処し切れないさまざまな課題に対して、どのように挑むべきか、工場運営の効率化、利益創出のための管理手法を紹介していく。
それって、やり過ぎではない?
「何時何分何秒まで計算するだって? それはやり過ぎでしょ。そんな計画を立てても、現場で実行できるわけないじゃない!」
直感的にそう思われたとしても仕方ないでしょう。実際、計画と実行は一致しないことを前提として運用するべきです(そのために生産スケジューラには実績情報も入力するのですが、それについては別の回で)。重要なのは、できるだけ計画に沿って作業する努力をすること、そして少なくとも「この計画どおりに作業をすれば、回答した納期どおりに完成させられる」という確信を持てるということです。
目標とすべき計画が存在しなければ製造現場は五里霧中で不安となり、各工程の前に仕掛かり品(中間在庫)の山を積み上げてでも前倒しで作業を進めたくなります。あるいは優先すべき作業を気付かずに後回しにしてしまうかもしれません。
「理想」の近似としての計画があれば、たとえその通りに実行できなかったとしても現状を「理想」からの差異として客観的に把握できます。だからこそ、製造現場は整然と機能するのです。そして計画の精度が高ければ高いほど、現場のレベルも引き上げられることになります。計画と実績の差を縮めるべく頑張ることが明確な目標となるのです。「どうせ実行できないのだから、精度の高い計画は要らない」と言い訳すべきではありません。
計画とはそういうものなのです。
「データの設定が大変でとても使えない!」という声もあるでしょう。もちろん、生産スケジューリングに最高の成果を求めるのであれば、かなり詳細にモデリングし、大量のデータを用意することは避けられません。とはいえ、まずはシンプルなモデリングで限定的に運用し、スキルの向上に伴って次第にデータを詳細化していく、あるいは対象工程を広げるといった進め方をすれば、無理なく導入できるでしょう。
そこそこの運用でもそれなりのメリットは引き出せますが、生産スケジューリングの真価を発揮するためには気概と不断の努力が求められます。モノづくりとは、本来そういうものではないでしょうか。
変動要因とゆらぎ
現実の世界ではさまざまな変動要因や「ゆらぎ」が不可避なものとして存在するので、生産スケジューラがはじき出した「理論上の納期」をそのまま顧客に伝えるのではなく、安全のためにバッファ時間を加算して回答しましょう。
突発的に発生する変動要因には以下のようなものがあります。発生時に速やかに計画を更新するとともに、「ありうべきこと」としてあらかじめある程度計画に余裕を持たせておくことも必要です。
- 機械の故障
- 作業員の欠勤
- 緊急の飛び込み受注
- 資材入荷の遅れ
- 外注先からの納品の遅れ
一方、確率的に常に発生するゆらぎの要因には以下のようなものがあります。計画段階で時間的なバッファをある程度持たせることによって、これらを織り込んでおく必要があります。
- 気温や湿度による作業時間の変化
- 調達した原料の品質のばらつき
- 不良品の発生
- 人手による不定な作業時間
一般に完成までの工程数が多いほどゆらぎの影響を受けやすく、バッファも余分に必要となります。変動やゆらぎの程度はまちまちなので、工場によっては多くのバッファを必要とするかもしれません。そこで「結局バッファが必要になるのならば、精度の高い計画は要らないじゃないか」という意見もありそうです。しかしこれは、計画自体の精度の低さを補うためのバッファと、変動・ゆらぎを吸収するために論理的に不可欠なバッファを混同するために起こる誤りであり、精度の高い計画立案の意義を損なうものではありません。精度が高いからこそ、バッファを最低限で済ませられるのです。
変動やゆらぎを過度に意識して悲観的になる必要はありません。主に人的要因による変動やゆらぎが極端に多い分野を扱う「プロジェクト管理」では、一連の工程の各段階にある程度大きなバッファ時間を持たせなくては達成可能な計画が成立しませんが、各工程の作業時間を比較的安定して見積もれる製造業において事情は遥かにましです。各工程間のバッファは少なく抑えて、生産スケジューラを利用して総リードタイムが短いタイトな計画を立て、回答納期にある程度の余裕を持たせるといった使い方が通用するからです。当然ながら、どの程度計画をタイトにできるかは工場によって異なります。
製造業でも、ボトルネック工程の前には計画段階で十分なバッファを持たせなくてはならない場合があります
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