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生産スケジューリングで製造業を変える時間と闘え! 納期遵守の工場運営術(2)(3/3 ページ)

多品種少量生産化、短納期化など、各種製造系企業に突き付けられる要求は大きく変化しつつある。旧来からの経験則による管理手法では対処し切れないさまざまな課題に対して、どのように挑むべきか、工場運営の効率化、利益創出のための管理手法を紹介していく。

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生産スケジューラ

 その処理量の膨大さと複雑さのため、通常は生産スケジューリングを手作業で行うことはありません。「生産スケジューラ(Production scheduler)」と呼ばれるコンピュータソフトウェアを利用します。

 ちなみに、近ごろは"APS(Advanced Planning and Scheduling)"という米国製3文字語が出回っているようです。本来の言葉のニュアンスとしては生産計画(Planning)と製造計画(Scheduling)が組み合わさった高度なものを指しており、さらには製造業の遠大な理想とその実現を目指す意思を表す観念たり得るものだと思います。しかし現実には生産スケジューラと呼ばれているものをマーケティング用語として単に言い換えているに過ぎない場合がほとんどであり、理想が矮小(わいしょう)化されてしまっているのが実に残念です(世の中で多々見受けられる現象ですが)。また個人的には、"Advanced"という漠然とした言葉で意図的に煙に巻こうとする感じがどうも好きになれないので、本稿では敢(あ)えて「生産スケジューラ」と呼ぶことにします。

 また、米国で"APS"というと、MRP計算の結果を基に山崩しをして実行可能解を導出するモジュールを指す場合が多く、はじめから有限能力で計算をする日本の「生産スケジューラ」とは隔たりがあると考えた方が良いでしょう。1990年代には米国でも数多の生産スケジューラのパッケージソフトウェアが販売されていましたが、ほとんどはERPベンダに買収されてしまい、MRPの下位モジュールと位置付けられました。そのため単体製品としての生産スケジューラはあまり出回っていないようです。

 一方、日本ではなぜかしらそのような経緯が無かったため、日本の生産スケジューラは独自の進化を続けており、機能的には世界でもトップレベルにあるはずです。それはたぶんおそらくそれは、卓越した日本の製造業のハイレベルなニーズに日々応え続けているからでしょう。

 日本製の生産スケジューラは単に自動スケジューリングするだけでなく、人が操作して手修正をするための機能(ユーザーインターフェイス)が充実していることも大きな特徴です。かつて文章を書くための紙とペンからワープロへ移行したのと同様に、日本においては手書きしていたガントチャートをコンピュータで描けるようにし、さらにそれを自動化していったという、実務者由来のボトムアップ的な発想が色濃く表れています。つまり「計画担当者の道具」として発展してきたのです。米国では上位システム(たいていはMRP)で“決めた”計画に一方的に従うトップダウン式であるのに対して、現場レベルでの自律的な改善努力を重視する日本の製造業の文化が端的に反映されており、興味深いところです。

頻繁なリスケジュール

 生産スケジューラを利用するメリットの1つが、頻繁に「リスケジュール(再スケジュール)」できるということです。新たな情報を追加・変更して何度でも繰り返し短時間で計画を更新できるのです。

 手作業で計画を立案する場合は、情報量・処理量が膨大過ぎて、先に挙げたさまざまな変動要因が発生したときに即座に適切に対応することは到底無理です。たいていは製造現場での対応に任せることになるために計画と現場が一致しなくなり、計画が軽視されるようになります。そうなると計画の価値は失われ、単なる「目安」に成り下がってしまいかねません。回答した納期も裏づけを失い、混沌(こんとん)に逆戻りしてしまうでしょう。

 変動に応じてリスケジュールして実行可能な新たな計画を速やかに現場へ提供することで、製造現場と計画担当者の間の信頼に基づく好循環が得られるようになれば、混乱に振り回されることなく本来のモノづくりに専念できる工場を実現できるはずです。

生産スケジューラで何を目指すか

 そもそも生産スケジューラを使って目指すものは何なのでしょうか。単に計画担当者の業務を軽減することでしょうか? 確かに余裕ができれば、現場、資材調達、営業などの各部門との間の人的な調整作業など、本来行うべき高度な仕事に専念できるようになりますが、それでも投資対効果は不十分と評価されるかもしれません。実用レベルの生産スケジューラ(パッケージソフト)であれば数百万円はしますし、効果的に運用するためのシステムとして構築するには1000万円を超えるからです。また、データを整備するために要する労力も決して小さいものではないでしょう。

 生産スケジューラの直接的な効果は、資材調達から出荷に至るまでのリードタイム(総時間)をできるだけ切り詰めて工場内での滞在時間を短くすることです。リードタイム短縮は多くの製造業にとっては大きな目標であり、特に多品種少量生産の製造業にとっては、重要ではあるが達成困難な「悲願」といっても良いでしょう。

無駄な滞留在庫がなくなる 納期に間に合わせるために前倒しで作る必要もなくなるので、資材、仕掛かり品、製品の在庫を減らせます。無駄な資産が減ることでキャッシュフローが大幅に改善されます。

顧客の短納期要求に応じられる 業種によってはコアコンピタンスになり得るほど、受注リードタイムの短縮は競合他社と競争する上で重要な要因でしょう。

論理的裏づけのある納期回答ができる 生産スケジューラの回答納期はシミュレーションの結果なので、計画に従って作業をすれば納期達成できるのだという確信を持てます。工場内の秩序の確立に寄与するという副次的効用もあります。多くの工場にとって、これも実に価値ある効果とみなされ得るでしょう。

視覚化される ガントチャートを見れば、工場の中で何がどうなっているのかが一目瞭然です。

製造現場任せにならない 製造現場での局所的な判断が、全体にとって良いとは限りません。何でもかでも「現場判断」にむやみに頼るのではなく、正しい棲(す)み分けが大切です。

整然とした製造現場 前述のように滞留在庫が減るので、各工程前に積み上がっている雑然とした仕掛かり品の山が小さくなります。

ノウハウの脱属人化 計画担当者のノウハウがモデリングおよびルールとして客観化されます。担当者の配置換え、急病、退職の際にも慌てることもありません。

 ノウハウをルール化して詰め込むことで、“コマンド一発”で何度でも速やかに質の高い計画を得られることも、生産スケジューラを使うメリットです。例えば、ボトルネック工程の切り替えを極力減らして最大限に休まず活用する計画を立てることで、工場全体のスループット(=生産量)を向上させることもできます(「TOCスケジューリング」などと呼ばれます)。手作業による計画立案では、変動要因発生時には過剰な仕掛かり在庫や納期遅れなどの代償無しには対応できないでしょう。

 当然ですが、これらのことが生産スケジューラを導入するだけで実現するわけではありません。全体システムの適切な構想・実装のみならず、関係者全員の弛まぬ努力も必要です。しかしこれらは少なくとも、生産スケジューラがまさに狙(ねら)っている効果であり、生産スケジューラを利用せずに達成するのは非常に困難でしょう。生産スケジューラの「運用サイクル」が本格的に回り出したとき、そのインパクトに目を見張るに違いありません。

◇ ◇ ◇

 ここまで理屈ばかりを並べてきた感がありますが、それだけではなかなか理解が進まないでしょう。そこで次回は簡単な生産スケジューリングのためのデータを作成して計画を立案するまでの流れを具体的に示すことで、実際の生産スケジューラがどのようなものであるかを感じ取っていただこうと思います。

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