生産スケジューリングで製造業を変える:時間と闘え! 納期遵守の工場運営術(2)(1/3 ページ)
多品種少量生産化、短納期化など、各種製造系企業に突き付けられる要求は大きく変化しつつある。旧来からの経験則による管理手法では対処し切れないさまざまな課題に対して、どのように挑むべきか、工場運営の効率化、利益創出のための管理手法を紹介していく。
生産スケジューリングとは何か
前回は製造現場の計画立案全般についてお話ししましたが、今回は生産スケジューリングおよび生産スケジューラについて詳しくご紹介します。
前回の記事で紹介したように、多くの計画手法では概(おおむ)ね「今日はこれとこれをやって、明日はあれとあれをやる」というように、ある一定の時間枠(1週間、1日、1時間などのタイムバケット)の中で行うべき仕事を積み上げていきます(負荷山積み計画)。それに対して生産スケジューリングは「何時何分から何時何分の間にこれをやって、その後何時何分まであれをやる」というように、1つのリソース(機械や人など)で同時に実行できる作業の数や量の範囲内で時間軸上に並べていく方法です。生産スケジューリングが有限能力スケジューリングともいわれる所以です。
また負荷山積み計画では、一連のいくつかの作業を便宜的に1つの工程とみなすことが多いようです。1つの工程が1つのタイムバケットの最初から最後までを占めるため、工程を細分化すると全体のリードタイムが極端に長くなり使い物にならないでしょう。それに対して生産スケジューリングでは、基本的には利用するリソースが変わる都度、独立した工程であるとみなします。
各リソース上において異なるロットの作業同士の相互干渉を解決しつつ、連続した時間軸上で各工程の作業時間と時間帯を緻密(ちみつ)に(秒単位まで!)計算することで、工程間の無駄な待ち時間を削り落としてリードタイムを短縮すること。これが生産スケジューリングの本質であるといえます。工場内の各リソース上での作業を時間軸上でシミュレーションするわけです。
ところで、場合によっては広義に「生産スケジューリング」という用語が負荷山積み的手法まで含むものとして使われることもありますが、本稿での「生産スケジューリング」はあくまで狭義に時間軸上に作業を並べていく手法だけを指しているものとしてご理解ください。
リソースガントチャート
生産スケジューリングの中心的な表現手段はガントチャートです。
ガントチャートとは、20世紀初期に米国のHenry L. Ganttがプロジェクト進捗管理の手段として考案した視覚化ツールであり、横軸を連続した時間軸とし、作業の開始日時と終了日時を横棒(バー)で表現した図表です。
ガントチャートの縦軸は目的によりさまざまです。多くの場合、縦軸は工程(作業)であり、1つの行には1本のバーが描かれます。一方、生産スケジューリングで主に利用するガントチャートは「リソースガントチャート」と呼ばれるもので、工程ではなく機械や人などのリソースが縦軸となります。工場では1つのリソースを多くのロットが順番に利用していくわけですから、リソースガントチャートの1行には多くのバーが時間軸方向に並んで描画されるのが特徴的です。これにより、有限能力ならではのロット同士の排他的な関係(山積みされないこと)が表現されるのです。
「モデリング」と「ルール」が肝
生産スケジューリングにおいて、現実の工場での作業の流れを適切に表現するために、どのようにリソースや工程を表すべきかを決めるプロセスを「モデリング」と呼びます。モデリングとはガントチャート上で最終的にどのような絵が描かれるべきかを考えることである、と捉えることもできます。例えば、人が事前に準備(段取り)しておくだけで製造は自動実行されるということであれば、下図のようにモデリングします。
モデリングの結果、各ロットの個々の工程のための「作業(operation)」が無数に出来上がります。リソースガントチャートの各リソース上に作業を割り付ける処理が「スケジューリング」というわけです。
無数にある作業をリソースガントチャート上にどのようにどのような順番で並べていくか決めるための手順は「ルール」「ロジック」などと呼ばれます。工場によって事情は異なるので、現場とニーズをしっかり分析して適切にルールを組み立てることが重要です。例えばある工程において作業順序が切り替えコストやスループットを左右するのであれば、単に実行可能なだけでは不十分で、作業の並び順を適正にコントロールしなくてはなりません。従来は計画担当者の頭の中にあったノウハウをルールとして客観化して実行するのです。
具体的なモデリングの方法とルールについては回を改めて紹介しますが、ひとまずここでは、生産スケジューリングの肝は「モデリング」と「ルール(ロジック)」である、とだけ理解していただければ十分でしょう。
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