UMLと形式手法のハイブリッド仕様が鍵となるか:ETロボコン2009、挑戦記(9)(1/3 ページ)
SysML、VDMなど、新しいモデリング言語/方法論が多数登場した今年のETロボコン。審査員からの渇も含め、今年のトレンドを紹介する。
ETロボコン2009のチャンピオンシップ大会。2日目に行われたモデルワークショップでは、各審査委員と性能審査団によるモデルの総評および審査中に気になったというポイントが紹介された。
昨年度のレポート記事でも述べたように、モデルワークショップで紹介される事柄は、今年参加した方のみならず、これからETロボコンに参加しようと思っている方々にも大変参考となる内容になっている。とくに今年は新走行体「LEGO Mindstorms NXT(以下、NXT)」が採用されて初めての年ということもあり、今年トレンドとなった戦略やモデリング手法を押さえておくことは大変重要になるだろう。
モデルワークショップは以下のアジェンダで進められた。本稿では、前半の2項目を中心に紹介していく(性能面での傾向と解説、モデル観戦ツアーについては次回紹介する)。
- モデルの審査方法・総評
- パネルディスカッション
RCXの総括とNXTの可能性
モデルに対する教育的指導
新しい設計技術とその解説
性能面での傾向と解説(次回掲載予定) - モデル観戦ツアー&ミニワークショップ(次回掲載予定)
- モデリング相談所
モデル・大会の総評
まずは審査委員長の渡辺 博之氏から、モデルの審査方法と総評が述べられた。なお、大会の総評については、前回お伝えした通りとなっている。
今年のモデル審査は、昨年と同様にモデルの記述方法(内容)と、性能面の2系統に分けて行われた。具体的には、チャンピオンシップ大会に出場した計40チーム(内訳は32チームがNXT走行体、8チームがRCX走行体)に対し、2名ずつペアになった審査員が8チームのモデルを見る1次審査。そして審査委員全員で、1次審査で付けた点数の上位20チームのモデルをもう一度見て投票を行う2次審査を経て、上位3チームが決められる。性能に関しては、3名の審査員により40チームすべてのモデルが審査された。
渡辺氏は「今年は、モデルの密度が非常に濃く、1次審査の段階で約6時間かかってしまった」と、チャンピオンシップ大会前に行った審査合宿の様子をスライドで紹介しながら振り返った。
モデル審査
総評の後は、各入賞チームのモデルに対するコメントが述べられた。ここではRCX、NXTそれぞれでエクセレント(1位)を受賞したチームを紹介する。
順位 | チーム名 | 所属 | 地区 |
---|---|---|---|
エクセレント | 忠犬ニ号 | 秋田職業能力開発短期大学校 | 北海道・東北 |
ゴールド | BERMUDA | 富士通コンピュータテクノロジーズ | 南関東 |
シルバー | RITS_TT | リコーITソリューションズ | 関西 |
表 ETロボコン2009 モデル結果(RCX) |
RCX部門 エクセレントモデルの忠犬二号(秋田職業能力開発短期大学校)は、機能・構造・振る舞いの全体的なバランスが良く、実現可能性の検証が非常にしやすい点が評価された。そのほか、ユースケース図がしっかり書かれており、機能の把握や全体の戦略がよく表現されていたという。
順位 | チーム名 | 所属 | 地区 |
---|---|---|---|
エクセレント | HELIOS | アドヴィックス | 東海 |
ゴールド | サヌック | 明電システムテクノロジー | 東海 |
シルバー | BricRobot09 | 富士通コンピュータテクノロジーズ | 南関東 |
表 ETロボコン2009 モデル結果(NXT) |
NXT部門 エクセレントモデルのHELIOS(アドヴィックス)は、設計内容が非常に良く記載されており、特に制御について書かれている部分が性能面で高く評価された。また、構造、振る舞い、さらにそれら全体のつながりも分かりやすく、構造と振る舞いの間の関係が追跡しやすい点、そして走行体の運動特性を極限まで高めるために車体状態の推定やモータ出力の走行/旋回制御への最適配分を行っている点も高評価だった。
今年のトレンド(モデル全体)
渡辺氏はモデル審査における今年のトレンドとして、新しいモデリング言語(手法)/方法論の登場を挙げた。言語は具体的にSysML、VDM、Simlink、StateMate、SPL(Software Product Line)などで、中にはSPLの採用動機として、RCXとNXTの設計共通化を行ったチームもいくつかあったという。また、サヌック(明電システムテクノロジー)のように離散系と連続系のハイブリッドモデルもあり、「これは今後、(モデルの)1つの主流になるのではと期待している」(渡辺氏)と述べた。こちらについては、後に紹介するパネルディスカッションの中でも取り上げられている。
ETロボコン、トレンドの変遷
今年からの走行体(NXT)については、ライントレースとマップ走法(ラインを見ないブラインド走法)のハイブリッド戦略、あるいは、マップ走法をするためにどこかしらで精度を合わせるための位置補正や、ライブラリのパラメータチューニングで走行体のスピードアップをするというようなパターンが見えてきたという
また、昨年から取り入れられた総合評価方式により、設計と性能の両方を追求するモデルが王道になりつつあるという。「なぜそのようなモデルにしたのかという書き方が定着し、3分の1ほどはマインドマップを先に使い、そこから最終的なユースケースに紐付けるという記述の仕方をしていた。なぜこの機能にしたのかという点にボリュームをかけているのが非常に良かった」(渡辺氏)
一方で、気付いた点としては、以下の2点が挙げられた。
機能モデルについて:マインドマップから落ちてくるのは良いが、機能モデル自体がいま1つだった。また、こちらの個所については、審査員の中で『きれいに書いたからといって、実際の速さにつながらない点が問題ではないか』という議論が出たという。
構造モデルについて:大半はクラス図で表現されているが、チャンピオンシップ大会のモデルにしては、物足りないものもあった。責務があまりにも大き過ぎたり、多重度・ロールが書いていないなど、割と基本的な技術が足りていなかったという。
「良く書けていたチームと話をしてみたが、どうもそういうチームは、来年以降に向けた改善・進化のため/自分の実際の仕事に使うため、といった実践的な目標を持っている。要は一時的なモデルではなく、継続していくためにモデルが整理整頓されている点で、モデルの評価が高いチームとそうでないチームとで差がある」(渡辺氏)
モデルにおける設計と性能の相関については、今年は割と相関の取れたチームが多かったという。性能だけ良く設計がいまいちなモデルはあまりなく、良いモデルは設計も性能も両方良いという結果となった。渡辺氏は「2007年辺りから性能を良くして、そこで出てきたノウハウをモデルに反映するというやり方が定着しているのでは」と分析した。
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