ハイレベルな制御戦略に会場も興奮、ETロボコン2009:ETロボコン2009、挑戦記(8)(1/3 ページ)
審査員の想像を超えた高度な戦略が次々と登場――今年の全国大会は新走行体の登場で制御の幅が広がり、全体的な質の向上が見られた。
Embedded Technology 2009(組込み総合技術展、11月18〜20日の3日間パシフィコ横浜で開催)に足を運んだ方は、会場1階の入り口付近で黄色いTシャツを身にまとった方々を目にしたに違いない。前回まではET展示会場から少し離れた別会場で行われていたETロボコン チャンピオンシップ大会だが、今回はET展示会場のすぐ隣で開催され、関係者含め約900名が訪れた。
1日目に行われた競技会は、大会中に本部・審査委員長の渡辺 博之氏が「審査員の想定していた以上の高度技術が満載。静かなようで、非常に質が高いハイレベルな戦いだ」と述べたように、新走行体「LEGO Mindstorms NXT(以下、NXT)」の追加による制御戦略の豊富さ、そして今年で見納めとなる走行体「LEGO Mindstorms RCX(以下、RCX)」のハイスピードかつ華麗な難所攻略が見られるなど、初めてETロボコンを見た観客からも思わず“すごい”という声が漏れるほど、盛況なものとなった。
気になる結果をお伝えする前に、まずはETロボコンの審査方法について簡単に紹介する。すでにお伝えした東京地区大会のレポートにもある通り、ETロボコンは定められたコースをいかに速く走行したかを競う「競技審査」と、事前に提出した走行戦略の設計図が評価される「モデル審査(審査員が事前に行う合宿審査で上位チームが決定)」、その2つの結果を加味した評価方式によって、総合優勝チームが決まる。
本稿では、チャンピオンシップ大会の1日目に行われた競技会(レース)の様子を中心にお伝えするが、後日詳しく紹介するモデル審査の内容も時折踏まえながら、各チームの走行戦略を紹介していく。なお、競技の基本ルールは下図に示したコースの黒ライン上をトレースしながら、時に“難所”と呼ばれる個所を通過してボーナスポイントを稼ぐというもの。獲得したボーナスポイントは走行タイムから引かれ、それがリザルトタイムとして評価される。いかに速く、多くの難所を通過しながら安定したライントレースをするかが勝負となる。
新走行体の追加にインターネット中継など、“初”づくし
競技会は、ETロボコン 本部・実行委員長 星 光行氏の開会宣言によって幕を開けた。星氏は今年のチャンピオンシップ大会から初の試みとしてインターネット中継(協力:東京工科大学 Intebro)が行われていること、コース上に各地区から提供されたご当地物品が置かれていること、そしてレースだけでなく会場に張り出されている各チーム力作のモデルをぜひ見ていってもらいたい旨を述べた。
なお、当日の模様は現在、ETロボコンの公式ホームページ(http://www.etrobo.jp/ETROBO2009/taikai/championsip.html#intebro)から見ることができる。
開会宣言後は、ETロボコン 本部・技術委員長 西川 幸延氏から、競技の流れについて説明された。今年のチャンピオンシップ大会は、ETロボコン2009にエントリーした全354チーム(1700名)の中から、全国7地区で開催された地区大会を勝ち抜いた40チーム(174名)が参加した。走行の順番はNXTで参加した32チームが先に行い、その後、RCXで参加した8チームが行うという流れとなっている。
第1レースから早速……! 目が離せない走行戦略の数々
NXTの走行は、九州地区代表のKTEC(九州技術教育専門学校)と関西地区代表の電子くん(神戸電子専門学校)の学生対決から始まった。この対決は、記者が見た全40レースの中でも記憶に残っている対決の1つだ。レース開始早々にINコースを走行するKTECがクルっと180度回転をし、コース上に設置されたすべての難所(OUTコースのトレジャーハント、ショートカットとINコースのツインループ)を攻略するという自在走行を成功して見せた。
ハード面が充実しているNXTは、これまでの走行体(RCX)ではできなかった距離検知が可能になったため、コース全体を自由自在に走行する戦略を立てることができる。しかしこの戦略は、相手チームの走行を妨害してしまうというリスクもあり、地区大会ではあまり目にすることはなかった。KTECが見せた自身のコースに加えて相手チームにぶつからないよう(逆走行で先にトレジャーハントに挑戦することで、衝突を回避)走行しながら最大限にポイントを稼ぐという見事な戦略は、第1レースから「これぞ全国区」と思わざるを得ないものだった。
審査員からはKTECの走行について、「中間ゲートではバック走行を駆使し、左から右に通過するというルールに則った素晴らしい完走。基本的にはライントレースだが、ラインを外れて必要な通過点やボーナス点のみを取ること、そしてその順番も決まっていないNXTならではの走りだった」とのコメントが述べられた。
その後、かねごん(日立情報通信エンジニアリング)や誠レーシングチーム(旭情報サービス)、BAMBOO(富士通コンピュータテクノロジーズ)などもこの自在走行に成功。終わってみれば2009年度の1つのトレンドとして、2日目のモデルワークショップで紹介される戦略の1つとなった。なおモデルの詳細については次回以降に紹介するが、今回の自在走行に関して、関西地区 実行委員 水野 昇幸氏から次の注意点が述べられたので紹介したい。
「自在走行は、戦略としては正しい。そして面白く、会場も盛り上がる、もっとやって欲しいと思うが、2点、考慮して欲しい。1つ目は相手側レーンでの接触によって、自分が失格する可能性。今回の大会でもIN/OUTそれぞれであった。2つ目は、他チームへの影響。接触されたチームは再走行できるといいつつ、良いところまでいっていたのに失敗したら、非常に悲しい思いをする。また、再走行がもし失敗に終わったら、おいに後味が悪い。よってこうしたリスクを考慮して、モデルにも対策を記載してもらいたい。そうでないと、今後は性能評価に影響する可能性もある」(水野氏)
コメント後、水野氏は本大会で実際に自在走行でのリスクを記載していたチームとして、誠レーシングチームのモデルを紹介した。同チームは衝突リスクを半ページに渡り考察している。
「相手の動きをあらかじめ想定し、試走でも相手チームに影響を与えないように練習するなど、そうした検討をすると良い。後は、再走行をさせてしまった場合には相手チームにおわびの品を用意しておくような検討もありかもしれない」(水野氏)
「自在走行はNXTが持つ新しい可能性。ただし、新しいことをやる限りは新しい観点での検討が必要。つまり、今後もモデルの発展予知があって、NXT走行体にもさらなる可能性がある。当然、来年は今年の結果を踏まえた対策がいろいろ行われると思うので、この対策を含めて、これを超える可能性を見せていただきたい」(水野氏)
以下は競技会での結果となる。見ていただくと分かるとおり、上位2チーム(BAMBOOとKTEC)は自在走行でボーナスポイントを稼いだ点が功を奏したといえる。また、BAMBOOについては、“職人走行”と名付けた独自の走行方法を行っており、徹底的に走りこんで、パラメータをチューニングした結果が走行にも表れていた。
順位 | チーム名 | 所属 | 地区 |
---|---|---|---|
1位 | BAMBOO | 富士通コンピュータテクノロジーズ | 東海 |
2位 | KTEC | 九州技術教育専門学校 | 九州 |
3位 | モーリー | 日立情報通信エンジニアリング | 南関東 |
表 ETロボコン2009 走行結果(NXT) |
3位のモーリー(日立情報通信エンジニアリング)は、初出場ながら安定した走行を見せ、IN/OUTともに完走した。特に、2回目の走行時(モーリーはOUTコースを走行)では、共に走行したひものエンベダーズ(沼津工業高等専門学校)とともに1周40秒台の好タイム(ボーナスタイムを引く前のタイム)を記録し、会場が多くの拍手に包まれた。
順位 | チーム名 | 所属 | 地区 |
---|---|---|---|
1位 | コアファイター | コア 九州カンパニー | 九州 |
2位 | 蕨レーシングチーム’09 | 沖通信システム | 東京 |
3位 | BERMUDA | 富士通コンピュータテクノロジーズ | 南関東 |
表 ETロボコン2009 走行結果(RCX) |
RCXは、走行1位にコアファイター、2位に東京地区代表の蕨レーシングチーム’09、そして3位にはNXT部門で1位となったBAMBOOと同じ富士通コンピュータテクノロジーズからBERMUDAが入賞した。コアファイターについては、OUTコースでのトレジャーハントで、設置されたご当地オブジェのわずかなすき間を潜り抜け、突破したシーンが印象的だった。走行前のインタビューでは、「RCXのメモリに入りきれなくなるほどのプログラムを組んだ」という経験を語っていた。
審査員からは「RCXでトレジャーハントを成功するのは非常に難しい。とくに、狭いところを通ったのは見事だった。RCXで何回かやってきたが、そういう意味でも今回のコースは非常に難易度が高かった」とのコメントが述べられた。
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