ソリッド四面体1次要素は、デンジャラス!?:設計者CAEを始める前にシッカリ学ぶ有限要素法(5)(1/3 ページ)
ソリッド四面体要素を使うときの、大事な約束がある。それを守らないと、危ない結果が待っている!?
前回は、要素には次数があること、そしてそれは節点の数で表されること、節点には自由度があることについて説明しました。そして一番大切なこと。要素には精度の良い要素と、精度が悪い要素があることについても説明しました。いささか退屈な説明になってしまいましたが、ガマン、ガマン……。こういう座学の先にこそ、得られる知識もあると思って、お付き合いください。
今回は、有限要素を実際に使う場合についてのノウハウと、これまでに説明してきた三大有限要素以外で大切な要素について説明していきたいと思います。
1.四面体要素は2次要素を使う
皆さんが設計する製品はいろいろなカタチをしています。一般論として、それが棒と見なしていいものだったら、バー要素が使えます。また板と見なしていいものなら、シェル要素を使えます。これは「棒のようなモノだからバー要素を使うべき」「板のようなモノだからシェル要素を使うべき」といっているのではありません。この連載でいつか触れようと思っていますが、「ミクロ的な解析」と「マクロ的な解析」というものがあって、部品の全体を解析したいのか、はたまた部品の一部分だけクローズアップして解析したいのかによって、使用する要素は変わります。タンカー船だってバー要素としてモデル化される場合もありますし、逆に紙一枚でも「厚さ」を考慮してソリッド要素としてモデル化される場合もあるのです。
栗サンの「一休みコラム」:船も棒も、同じ!?
約25年前、解析の仕事に就いたとき、その当時の上司は構造解析のスペシャリストでした。実用的な解析の使い方はその人から学んだといっても過言ではありません。その方はいまでも解析関係の特定非営利活動法人で活躍されています。造船出身で、大型タンカーの解析を行っていました。仕事のことはもちろん、公私にわたって大変お世話になりました。僕はいまでも師匠と思っています。
僕自身も船関係の解析の仕事も担当させてもらったことがあります。大型船となると、それはもう船の中は複雑で、たくさんの壁で仕切られ、船全体の構造が作られています。そんな船の図面を前に、解析初心者の僕は途方に暮れていました。
師匠 「まずは、1本の棒として、アタリ計算してみなよ」
僕 「えっ!? このデカい船を? 中が隔壁だらけじゃないですか……」
師匠 「船は、波の状態でだいたい2つに分かれる。棒1本と考えれば、それで手計算できるだろ?」
この考え方は、いまでも参考になるところがたくさんあります。解析の結果が正しいかどうかの判断ができたりします。それはまたの機会に。
まず皆さんが解析したい部品がマッシブなモノ(ゴロンとしたカタマリっぽいもの)だったとします。
ここで、ソリッド要素の登場です。本当は、精度のよい六面体要素を使いたいところですが、「自由な形状を六面体で分割する技術は実用段階ではない」というのが僕の見解です。
それでは、どの要素だったら自由な形状を分割できるのか……。それは四面体要素です。四面体要素であれば、3次元CADで作成した形状を自動でメッシュ分割できます。四面体は自動で、任意の形状をスキマなく埋め尽くすことができるのです。この詳細については、第2回の『栗さんの一休みコラム「三角パックのヒミツ」』をご覧になってください。
さて「要素には次数がある」ということを思い出してください。次数が多くなれば、要素の精度も上がります。四面体にも、もちろん次数があります。あくまでも一般論ですが、ソリッド要素の六面体であれば、1次の要素(要素の頂点にしか節点がない)を普通は使います。その調子で四面体の1次要素を使うと解析の精度の面で大変なことになります。要素の分割を十分に細かくすれば問題ではありませんが、3次元CADに実装されている1つのモジュールである解析モジュールや、設計者向けCAEに特化しているアプリケーションでは、メッシュの大きさを自動で決定します。その自動的に決定されたメッシュの大きさは、四面体の1次要素に適さないことが経験的に多いのです。
ここで重要なお約束があります。
3次元CADに実装されている解析モジュールや、設計者CAE向けの解析アプリケーションを使っている場合、3次元形状からソリッド四面体要素を生成するわけですが、それは四面体要素の1次なのか、2次なのか。それを自分で意識的に把握しておくことは、最重要です。デフォルトで1次要素になっている場合もありますので、くれぐれも設定をチェックすることを忘れないでくださいね。
またソリッド四面体要素の生成オプションが、メニュー階層の深い部分にあったり、オプションダイアログにあったりして、分かりにくい場合があるので注意が必要です(図1)。
ソリッド四面体を使うなら2次要素にすべし。なぜこんなにしつこく繰り返すのか、少しだけ説明させてください。
一般的に有限要素はほんの少しだけ“柔らかく”作られています。片持ちばりの端点に力を掛けたモデルを例に挙げて説明します。
こういう単純なモデルには「理論解」というものがあります。はりの寸法や荷重の大きさをある公式に代入することで、「片持ちばりの先端が何mmたわむのか」を理論的に計算できます。これを理論解といっています。
一般的に要素の分割サイズを小さく、つまり細かくすればするほど、解析結果の精度は上がっていきます。片持ちばりの端点に力を掛けたモデルを四面体1次要素で分割したものと、六面体1次要素で分割したものを解析してみました。どちらのモデルも要素のサイズをどんどん細かくしていって、最大の変形量をグラフにプロットしてみると図2のようになります。モデルによっても異なるので、あくまでも模式的な図として見てくださいね。
それぞれの有限要素による結果の「変形量」について見ていきましょう。理論解による変形量を「1.0」とすると、六面体1次要素では、1.0以上の変形量が結果として出てきます。優等生である六面体1次要素は、理論解より少しだけ「上」で解が安定しています。これは、理論解よりも“柔らかく”評価されているということです。本当は、1.0ミリしか変形しないのに、「1.2ミリ変形するから、そのつもりで設計してね!」ということになりますよね。これは安全サイドということになります。
そしてほとんどの有限要素は安全サイドに計算してくれるわけです。ただし、ある要素を除いては……。
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