燃費向上に貢献するCVTは、嫌われ者:いまさら聞けない シャシー設計入門(4)(1/3 ページ)
CVT(無段変速機)の採用は、燃費向上に寄与するばかりではなく、コストダウンにも有効、だけど…。
今回は燃費向上技術の1つとして最近注目されているCVTについて解説します。
「CVT」とは「Continuously Variable Transmission」の頭文字を取った言葉であり、日本語で表現すれば「連続可変トランスミッション(無段変速機)」となります。無段という表現は、従来のMTやATのような有段式と比較したものです。
ここでは、まず無段変速とはどのような作動で成り立っているのか説明していきます。
解説に入るその前に……確認
ここで思い出していただきたいのですが、有段変速の場合は、
受動側ギアの歯数÷駆動側ギアの歯数=変速比
という変速比の関係がありましたね?
例を挙げると、受動側が40で駆動側が10だとすれば、
40÷10=4
となり、このときの変速比は4だと分かります。
この変速比「4」は駆動側(エンジン回転)を4分の1に減速し、トルクを4倍にして出力するという意味があります。
プーリーと無段変速
それでは、変速比について確認していただいたところで、話を今回のテーマに戻し、無段変速について考えていきます。
無段変速でも先ほどの変速比の関係を用いますが、有段式のように決められた歯数による変速とは異なる方法で無段階に変速比を連続で変化させます。有段式の場合は対になったギアで変速比が成り立ちますが、無段変速の場合は「ドライブプーリー(駆動)」と「ドリブンプーリー(受動)」という部品で成り立っています。
「プーリー(pulley)」を直訳すると「滑車」ですが、CVTの場合は変速比を変化させるという目的がありますので、少しプーリーの構造に工夫がされています。
2つの同形状*1 の円錐(えんすい)を一対とし、それぞれを向かい合わせて1つのプーリーとします。2つの円錐同士は固定されておらず、中心にある軸上を必要に応じてスライドして引っ付いたり離れたりする(溝幅を変化させる)ことが可能となっています。そして変速比を発生させるためにプーリーは駆動側、受動側それぞれに1つずつ用意され、それぞれをドライブベルトで連結しています。ドライブベルトはプーリーに強い力で挟まれており、プーリーの回転に応じて摩擦力で追従します。*1 ベルトが接触する内面が同型、同角度ということです。
もっとイメージしやすい表現をするなら、『駆動側(エンジン)の動力をドライブベルトを介して「摩擦力」で受動側(タイヤ)へと伝えている』ということです。ちなみに駆動側をドライブプーリー、受動側をドリブンプーリーと呼び、ベルトがスリップしないように強い力で挟み込む工夫をしています。金属ベルトを用いるような高負荷なエンジンでは耐久性を向上させるためにドライブベルトを挟み込むプーリーの圧着は油圧で行われます。油圧を用いた構造の信頼性は非常に高く、人の命を預かるブレーキ装置にも使用されていますのでその信頼性がうかがえますね。
さて肝心の変速方法ですが、ドライブベルトの種類によって少々異なります。スクーターなどに用いられているゴムベルトの場合は、遠心力を利用した方法で変速を行いますが、今回は主に自動車に用いられている金属ベルトに焦点を当てて説明するため、遠心式の詳しい変速方法は割愛します。
遠心式のゴムベルト
自動車の場合はエンジンの負荷などが非常に大きく、ゴムベルトのような遠心式では各部品の摩耗が非常に激しく耐久性が保てません。そもそも金属ベルトを使用しているということはゴムベルトでは高負荷に耐え切れないという部分もありますので、当然といえば当然です。
筆者が所有しているスクーターも遠心式CVTですが、エンジンチューニングを行っているために負荷が非常に大きく、1000km以内で構成部品が破損してしまいます。もちろんゴムベルトも同程度の走行距離で切れてしまいます。それほど高負荷に対しては耐久性がないのです。そうはいっても、想定しているエンジンパワーと異なる使用方法ですから、破損してしまうのは当然ですが……。
ローレシオ時とプーリー
自転車の漕ぎ始めと同様に、自動車も発進時が一番トルクを必要とします。つまり変速比としてはできるだけ大きい方が良いわけです。変速比を大きくするということは、駆動側の歯数を少なくして受動側の歯数を多くすることになります。しかしCVTの場合にはギアがありませんので、そもそも歯数という概念がありません。
この場合には、歯数ではなく「径」で考えます。径というのはプーリーの大きさではなく、ドライブベルトがプーリーに接触している径のことです。
例えば発進時の場合は、ドライブプーリーの一番内側とドリブンプーリーの一番外側にドライブベルトが油圧によって強く押し付けられています。これによって大きな変速比を作り出す動力伝達装置となり、大きなトルクを必要とする発進時(ローレシオ時)に備えることが可能となります。
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