燃費向上に貢献するCVTは、嫌われ者:いまさら聞けない シャシー設計入門(4)(3/3 ページ)
CVT(無段変速機)の採用は、燃費向上に寄与するばかりではなく、コストダウンにも有効、だけど…。
CVTの5つのデメリット
「それだけ効率が良くてメリットだらけなら、全ての車をCVTにすればいいのでは?」と思うかもしれませんが、実は、CVTにはデメリットが多いのです。
その1
ドライブベルトの摩擦力によって動力伝達を行うので、大排気量車のようなハイパワーエンジンには搭載が難しいという問題があります。大排気量車ほど燃費が悪くなる傾向がありますので、非常に残念な部分です。
その2
プーリーに掛ける油圧を発生するためにエンジンの動力を使用するため、動力損失が非常に大きいという一見矛盾しているような問題があります。もちろんこのデメリットよりも燃費向上に寄与するメリットの効果の方が上回っているためCVTが導入されているわけですが、このデメリットを少しでも解決することがさらなる燃費向上に直結することは間違いありません。
その3
エンジン回転数と車速との関係が比例しないという感覚的な問題です。個人的にはこれが一番のデメリットだと感じているのですが、従来の有段式のように「加速時はエンジン回転が上昇し、音と加速とが比例する」という当たり前の感覚が通用しないのがCVTです。最適な回転数を維持したまま変速比を変化させて加速を行いますので、エンジンの音は変化しないままでどんどん加速を行うのです。この感覚に慣れることが必要なのですが、私はどうもしっくりこないです……。実際、しっくりきていない人が多く、「CVTは嫌い」という人が多いのも事実です。
その4
エンジンブレーキがかかりにくいという問題です。有段式で積極的にエンジンブレーキを使用していた人にとっては大きなデメリットですが、そうでない人にしてみれば大きな問題ではないかもしれません。
その5
金属ベルト特有のジャージャー音がするという問題です。金属ベルトはプーリーに接触するエレメント(写真3)と呼ばれるコマが数百個束ねられた構造をしており、お互い金属同士ですので必然的に接触音が発生します。最近はかなり改善されてはいますが、金属ベルトを使用している以上はどうしても発生しやすい問題となります。
ほかにもデメリットは考えられますが、それでもなおCVTの採用が進んでいるのは、燃費向上やコストダウンというメリットが非常に大きいためです。まだまだ有段式トランスミッションに比べると歴史が浅く、当然ですが、技術的に確立していませんので、信頼性という面でも高いとはいい切れません。
CVTが新技術? ちょっと待て……
CVTは最近になって「燃費向上に欠かせない技術」として注目されていますので、ついつい新技術だとイメージをしますが、実は非常に昔から存在していた技術です。昔からCVTを利用している身近な例を挙げると、本文中にも少し出てきた原付スクーターです。
原付スクーターのような小排気量エンジンでは各部品への負荷が比較的少なく、MTやATのようなコストがかかるトランスミッションを搭載しなくてもよく、非常にシンプルな機構で変速ショックがない、普段の足にピッタリな乗り物として確立できます。しかし排気量が10倍以上になる4輪自動車はエンジンのパワーが全然違ってきますので、金属ベルトの採用、技術革新が不可欠だったのです。
本来はもっと早く4輪自動車へ普及するべき技術だったのですが、CVTの重要部品である金属ベルトを開発したメーカーの特許の有効期限が切れるまで、自動車メーカー各社は開発に手が出せませんでした。なのでその間、長期間使用する自動車では欠かせない信頼性などが向上しませんでした。いま、世の中でどんどんCVTの普及が進んでいるということは、金属ベルトの技術が飛躍的に向上し信頼性が向上したということになりますね。
そうはいっても、まだまだ発展途上な技術であることは間違いありません。たくさん抱えているデメリットを少しずつ克服し、従来の常識を覆すような燃費向上を実現できる動力伝達装置として確立できることを期待しています。
次回は「ディファレンシャル」について詳しく解説する予定ですのでお楽しみに!(次回に続く)
Profile
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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